『SLAM DUNK』が描いたのは「基本」の大切さだった 桜木花道が最後に放った“普通のシュート”の意味

2

2022年12月02日 09:11  リアルサウンド

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

pixabayより(イメージ)

 いよいよ明日(2022年12月3日[土])から、待望のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』(原作・脚本・監督/井上雄彦)が公開される。


 そこで久しぶりに原作コミックを1巻から最終巻まで通読してみたのだが、あらためて気づかされたのは、『SLAM DUNK』というスポーツ漫画で繰り返し描かれている“基礎練習(基本)の重要性”だった。そう、誤解を恐れずにいわせていただければ、ある意味では、主人公・桜木花道が豪快にダンクシュートを決めるような派手な見せ場よりも、彼が一所懸命、体育館で汗を流している基礎練習の場面の方が心に残る、といえなくもないのだ。


(参考:【写真】これが映画で描かれたら……名シーンが描かれた『SLAM DUNK』のプレミアムグッズたち


■基礎練習の場面の数々が物語に深みを与えている


 たとえば、1巻で、湘北高校バスケ部キャプテンの赤木剛憲が、体育館の隅でひとりドリブルの練習をさせられている(そして、徐々にそれに飽き始めている)“初心者”の桜木にこんなことをいう。


「キサマはスポーツというもんが全然わかっとらん!! 基本がどれほど大事かわからんのか!! ダンクができようが何だろうが 基本を知らん奴は試合になったら 何もできやしねーんだ!!」


 桜木は、その言葉にいったんはキレて体育館を飛び出してしまうのだが、すぐに頭を冷やして再びチームの元へと戻っていく。


 また、3巻でもシュートの練習時、桜木は赤木から同じようなことをいわれるのだが、この時はあまり彼の心には響かなかったようだ……(が、その後、赤木の妹・晴子が朝の個人練習につきあってくれ、結果、レイアップ・シュートを身につけることになる)。


 さらには16巻で、チームの全体練習が終わった後、桜木は赤木からボールの持ち方や正しいフォームを叩き込まれている(ちなみに『SLAM DUNK』の数ある名台詞の1つ、「左手はそえるだけ」はこのとき出てくる)。なお、このあたりからようやく桜木にもキャプテンの想いが伝わっていると見え、彼自身、「基本が大事!! だろ?」などと微笑みながらいえるようになっている。


 そして、22巻――圧巻なのは、安西監督の巧みな指導と、いわゆる「桜木軍団」(=桜木の不良仲間たち)の手助けもあって、桜木が2万本のシュート練習をやりとげる姿だ。


 そう、ここまでお読みいただければもうおわかりだろうが、なぜ上記のような基礎練習の場面の数々が感動的なのかといえば、それは、桜木のがんばりだけでなく、彼を支えてくれている人々のがんばりも同時に描かれているからに他ならない。むろん、そのことを(つまり、自分ひとりではない、ということを)桜木は充分わかっている。だからこそ、彼は短期間でさまざまなことを吸収できたのだろうと私は思う。


■桜木の最後のシュートには何が込められていたか


※以下、ネタバレ注意。


 さて、それを踏まえたうえで考えてみれば、『SLAM DUNK』という物語の最後の最後で、桜木花道が見せた“大技”が、(タイトルにもなっている)「ダンク」ではなかった理由もぼんやりとだが見えてはこないだろうか。


 インターハイ2回戦――湘北高校vs山王工業の試合。残り時間は約1秒。湘北のエース・流川楓は、ふだんは反りの合わない(だが、心の底では認めてもいる)桜木花道にボールを託そうとする。一方の桜木は、以前、赤木に叩き込まれたあの言葉を思い出していた。


「左手はそえるだけ…」


 流川からの絶妙なパス。キャッチする桜木。静まりかえる場内。そして、桜木は美しいフォームでジャンプ・シュートを放ち、それが結果的に湘北チームの決勝点となるのだった……。


 もちろん、ここで、流川からのパスを受けた桜木が豪快なダンクシュートを決める、というクライマックスの描き方もアリだろう。物語を盛り上げる、という意味では、むしろそちらのほうが自然とさえいえるかもしれない。しかし、やはり私は、『SLAM DUNK』の最後を飾るのは、この“主人公の基礎練習の集大成”ともいうべき“普通の”ジャンプ・シュートしかなかったように思う。


 なぜならば、あらためていうまでもなくこのシュートは、桜木と彼の仲間たちが想いをつないだ結果であり、また、選ばれた一握りの天才ではなく、努力次第で誰にでも放つことのできる、いわば“庶民の必殺技”でもあるからだ。


 そう、何事においても、(かつて赤木がいったように)「基本を知らん奴は何もできやしねー」のである。そして、人はひとりでは何もできないのである。そのことを、あの赤い髪の元不良少年は、我々読者に、“2万本のシュート練習の成果”という形で見せてくれたのではないだろうか。


※本文中に出てくる単行本の巻数表記は、ジャンプ・コミックス版のものです。(筆者)


(島田一志)


    ランキングゲーム・アニメ

    前日のランキングへ

    オススメゲーム

    ニュース設定