「赤ちゃんポスト」を東京に 虐待を目の当たりにしてきた小児科医が2年後に開設を目指す理由

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2022年12月03日 09:00  AERA dot.

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慈恵病院(熊本市)
12月2日、横浜市瀬谷区の公園で乳児の遺体が発見された。警察は死体遺棄事件として捜査している。相次ぐ痛ましい事件に対して、どう手を打ったらいいのか。親が育てられない子どもの命を守るため、匿名で預かる「赤ちゃんポスト」と、予期せぬ妊娠をした女性の孤立出産を防ぐため、病院の担当者だけに身元を明かして産む「内密出産」。これらに対応する産婦人科医院を、小児科など5医院を運営する医療法人社団「モルゲンロート」(東京都江東区)が、2024年秋に新設する予定だ。いろいろと議論がある取り組みだが、開設を決めた理由は何か。理事長の小暮裕之氏(43)らに聞いた。


【写真】特別養子縁組により赤ちゃんを迎えた久保田智子さん 小暮理事長が赤ちゃんポストを設置しようと思ったきっかけは、小児科医として虐待の悲惨な現場を目の当たりにしてきたことからだったという。


「過去に骨と皮のミイラのような状態で運ばれてきた3歳児がいました。病院にたどり着いて、何とか一命はとりとめたものの、集中治療室(ICU)から一般床に移ると、親からの暴行で、今度は頭蓋骨の骨折と脳内出血を起こしていました。命からがら助かった子もいれば、手遅れで亡くなってしまった子も見てきました」


 厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」(第18次報告)によると、2020年度に把握した虐待死(心中以外)49人のうち、0歳児(0日、0カ月を含む)は32人おり、約65%を占めていた。前年度の0歳児の死亡も28人(49%)と、0歳児で亡くなる事例は多い。


 それを減らすために赤ちゃんポストは有効な手段になり得る。小暮理事長は、現場に立っているときから、「産婦人科を立ち上げるなら、虐待死を未然に防ぐために赤ちゃんポストもセットにする」という設計図を描いていたという。


 赤ちゃんポストには、「育児放棄や無責任な出産を助長しかねない」といった慎重な意見も多くある。それでも、小暮理事長は、


「物言える大人ではなく、子どもの気持ちを優先したい」


 との考えだ。


「赤ちゃんはしゃべれませんが、少なくとも生まれながらにして、『死にたい』とは言いません。赤ちゃんには生きようとする強い生命力があります。500グラムで生まれてきた超低出生体重児でも、ちゃんとケアをすれば助かる時代です。大きくなる過程で不整脈や病気などの課題がいっぱい出てくるかもしれません。それでもちゃんと産声を上げて生まれてきた子は、大人たちの都合で死なせてしまうのではなく、1人でも2人でも多く助けられる受け皿が必要だと思っています」



 設置場所は、現在3医院がある東京都江東区内を予定している。赤ちゃんポストや内密出産によって受け入れた子どもは、健康上のケアを行ったあとに、乳児院や児童相談所に引き渡し、特別養子縁組の里親を探す。行政との連携が不可欠となるため、現在、賛同してくれる区議らと話し合っている段階だという。


■慈恵病院を視察 葛藤の日々に向き合う覚悟


 モルゲンロート職員の山村嘉奈栄さん(45)は10月末、区議らと数十人で、赤ちゃんポストの「こうのとりのゆりかご」を15年前から運営する慈恵病院(熊本市)を視察した。


 子どもの安全の確保や相談機能の強化、公的相談機関との連携など、設置するまでに整えておかなければならない運用面での課題などを確認できたという。



「電話をかけてきた相談者には、誘導したと捉えられかねないので、安易に来院してと言えなかったり、警察が介入すると相談を躊躇する女性がいたりするので、相手の立場をよく考えながら寄り添う姿勢が大切だということを改めて知りました」(山村さん)


 そして、病院側からは、赤ちゃんポストに預ける母親の傾向として、知的障害や発達障害などにより生きづらさを抱えていたり、親からの虐待を経験していたりする女性が多い点を留意する必要がある、と伝えられたという。


 山村さんは、慈恵病院の蓮田健院長の「私は善人ではなく、やるしかないのでやっているだけ」という言葉が強く印象に残っているという。また、スタッフは穏やかで、赤ちゃんを受け入れる側に求められる心のゆとりも見えた。


  



 ■義務教育で性や妊娠・出産を学ぶ必要性


 東京は地理的にも各地からアクセスしやすい。


「そのため熊本よりも赤ちゃんを受け入れる件数とコストが、2〜3倍になる可能性があります。その分、虐待死を減らすことにはつながると思います」


 小暮理事長はそう見込む。ただ、虐待死の件数を減らすという結果が出るのは5年先になるとの見方だ。


 さらに、赤ちゃんポストや内密出産は、虐待死への“対症療法”にすぎないと考えている。根本的な対策には、義務教育に性と妊娠・出産、子育てについて学ぶ機会を取り入れることが必要だと呼びかける。


「望まない妊娠は女性一人ではできず、必ず相手の男性がいるのに、赤ちゃんの死体遺棄で責任が問われるのは母親です。こうしたことが起こらないようにするには、義務教育において、子どもを産むとはどういうことか、性教育を含めてしっかり学ぶことが必要だと思います」(小暮理事長)


 救える命を救うためにはどうしたらいいのか。東京初の「赤ちゃんポスト」開設を前に、改めて社会全体で考えたい。


(AERA dot.編集部 岩下明日香)


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  • 下から2段落目に完全同意。妊娠には精子が必要。精子を作れるのは男性。性欲を他者にぶつけてはいけない、簡単に受け入れてはならないと発想できるように教育が必要
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