『邪神ちゃんドロップキックX』富良野市の不認定問題は一件落着?  今後『邪神ちゃん』という貴重な資源をどう生かすのか

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2022年12月04日 13:31  リアルサウンド

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■邪神ちゃん騒動、一件落着?


 ふるさと納税の費用をもとにしたアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』の制作委託料3,300万円が北海道富良野市議会の特別委員会で不認定となっていた話題だが、11月30日に行われた本会議で一転、認定された。


 この騒動は、アニメの描写の中に「邪神ちゃんに借金があるため、臓器売買を提案するなど社会通念上許されない行為が多く」あったことなどが問題視されたものである。特別委員会では賛成:反対が7:7の同数となり、委員長判断で不認定となった経緯があった。本会議でも8:8の同数となったものの、議長判決で最終的に認定された。とりあえず、ネット民の多くが不安を抱いていた騒動はいったんの解決を見たと考えていいだろう。


 ただ、今回の騒動は多くの課題を残した。アニメコンテンツで地域活性化を行う難しさが浮き彫りになっただけでなく、筆者が問題と感じたのは、ネット民の間で誤った情報が広まり、大きな誤解を生んでしまった点であった。ネット上では一部のファンが暴走し、富良野市を貶める発言や、反対した議員に対する個人攻撃に等しいツイートがなされる場面もみられた。


 未だに勘違いしている人がいるが、富良野市は決してふるさと納税で集めたお金をネコババしようとしたわけでもなく、アニメの制作費を踏み倒そうとしたわけでもない。アニメの制作側に費用は支払われており、議会ではその使われ方が適切だったかどうかを審議したのである。そもそも、予算の使われ方を審議することは地方自治の根幹なのだ。


 筆者も『邪神ちゃん』のファンであるため、憤慨したい気持ちはよくわかるが、こうした行為は控えるべきであろう。昨今の自治体は何かとクレームを警戒する傾向にある。アニメとコラボすることをリスクと捉え、自治体が委縮してしまわないか、気がかりであるからだ。


■騒動の発端は1年前の議会にあった


 今回の『邪神ちゃん』のアニメにおいて、富良野などのご当地を舞台にした回はファンの間でも賛否両論があった。とはいえ、筆者の印象ではそれほど問題のある描写とも思えないし、富良野のPRという点では十分すぎる完成度とみる。では、なぜこの問題はここまでこじれてしまったのだろうか。


 昨年9月22日に行われた富良野市議会の議事録を読むと、この頃から『邪神ちゃん』のアニメ制作費を問題視する声があったことがわかる。議事録によれば、当時はアニメ制作に充てるふるさと納税の目標額3,810万円に対し、まだ3,000万円弱しか集まっていない状態だった。しかし、目標額に達成していない状況にも関わらず、アニメ制作受託料を予算計上した点を問題視する発言が議員からあった。宣伝料や放映で経済効果をどれほど見込んでいるのかと質す議員もいた。


 議員と市長ら市役所関係者の間で活発な質疑応答が行われており、反対派に回った富良野市の議員は決して難癖をつけているわけではなく、真剣に予算の使い道や観光の在り方まで考えていることがわかる。対して、当時の市側の答弁からは、アニメを制作した後にどのような取り組みを行い、観光を盛り上げていくのかという具体的かつ長期的な展望が見えなかった。


 様々な意見が出ていたにも関わらず、約1年間にわたって十分な説明や対応がなされなかったことが、問題がこじれた要因であると思う。こうした状況下で、反対していた議員が疑念を抱いたままアニメの映像を見たところ、臓器売買の場面が出てきてしまった。問題視されても仕方ないのではないだろうか。地元関係者も反対派の議員に対し説明をしておくなど、手を打っておくべきだったのではないか。


■関係者は地元に定着させるために努力すべきだ


 こうした反省点を生かしながら、富良野市は『邪神ちゃん』のプロジェクトを継続してほしいと願う。地元側に求められることは多すぎるほどである。『邪神ちゃん』はTwitterを駆使する制作側の行動力がファンから賞賛される一方で、地元側には市長のような理解者こそいるものの、『邪神ちゃん』が好きで好きでたまらないという熱狂的な人材はいるのだろうか。地元主導の情報発信は十分に行われていないのである。


 現状では『邪神ちゃん』は制作側主導で動いている印象が否めず、地元側に人材が育っていないのだ。この温度差は今後、埋めていく必要がある。これまで筆者は、全国各地のアニメイベントや痛車のイベントに足を運んできた。盛り上がっている地域には必ずと言っていいほど、熱狂的なオタクで、自分の趣味を分かち合いたいというキーパーソンがいた。『らき☆すた』の埼玉県久喜市鷲宮が、アニメが終了してからも聖地であり続けるのは、自発的に企画を作る人材が地元にいるためである。熱心なファンとともにアイディアを出し合い、お祭りやイベントを作り上げていく連携体制も見事であった。


  富良野市の場合、本会議で認定となったもののこれで一安心とはいかないのは、市が今後『邪神ちゃん』という貴重な資源をどう生かすのかというビジョンが、依然として見えてこないためである。観光客やファンだけでなく、地域の人々に愛されるコンテンツにする努力も必須だ。小学生に向けたイラストコンテストを実施したり、図書館や道の駅などに単行本を置くなどしてみてはどうか。そして、制作側の支援がなくなっても、『邪神ちゃん』を愛してくれる人を地元に増やすことが大切である。


 こうした騒動を経て認定された以上、ファンの期待値も高まっている。コラボを推進してきた関係者にしてみれば、ハードルが一層上がったといえるのではないだろうか。議会で反対派の議員が指摘していたのは、コラボが本当に地元にとってプラスになるのかどうか、であった。反対派が納得するほどの成果をもたらすような企画を積極的に打ち出していってほしい。


 富良野のイメージを印象付けたドラマ『北の国から』は、放送が終わってからもファンがたびたび訪れている。『邪神ちゃん』のコラボは始まったばかりだが、将来的に制作側が関わらなくなる日がきても、聖地として定着させていけるかどうかが課題である。


■話題あるコンテンツを生かすアイデアが必要


 また、熱心なファンもぜひ現地に足を運んでほしい。富良野の土産物店や飲食店で「邪神ちゃんのアニメを見て富良野に来たんです!」と言うなどして地元の人に想いを伝えることである。こうした声が届けば、反対した議員も賛成にまわり、強力な応援団になってくれる可能性は大いにある。ファンの行動が地域を変えていくのだと思う。


 単行本の20巻がもうすぐ発売される『邪神ちゃん』は、アニメ3期が放映されたことでファンも確実に増加しつつある。11月30日から実施されたクラウドファンディングではわずか35分で3,000万円を集め、OVAの制作が決まった。そして1日で4,000万円を突破、現在は4,800万円に達し、5,000万円の大台も間近に迫っている。極めて魅力的なコンテンツをどう生かすか。地元の底力と強い志が今こそ試されているといえよう。


 最後に、『邪神ちゃん』原作者のユキヲを労いたい。ユキヲはファンサービスが旺盛な漫画家であり、邪神ちゃんのアニメ化後に描き下ろしたイラストや色紙の量は、既に膨大な数になっている。超人的な仕事量をこなすのは並大抵の苦労ではないだろう。これまでに3度、リアルサウンドブックでもインタビューをしている。4回目の実現のためにも、健康に留意して漫画を描いていただきたいと切に思っている。


(文=山内貴範)


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