中学の5段階評定は本当に「平等」なのか? 現役教師と読み解く「内申書」のギモン

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2022年12月05日 10:35  AERA dot.

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写真はイメージ (c)GettyImages
 多くの高校受験生や保護者にとって「内申書」は気になる存在だ。内申書の内容や加点の基準を生徒や保護者に開示していない学校も少なくない。そのため、「こうすれば内申点が上がる(下がる)」といううわさをよく耳にする。謎多き「内申書」について、AERA dot.とYahoo!ニュースは、中学生の子どもを持つ保護者を対象に共同アンケートを実施し、2000人から回答を得た。後編は、非常に多くの疑問が寄せられた内申書の評定、すなわち成績の疑問について解き明かしていく。※前編「『悪いことをしたら内申書に書く』は本当か? 中学校の『内申書』保護者2000人アンケート」から続く


【こんなにも違う!公立校入試の内申書の比率はこちら】(調査は10月20日に実施。対象は中学生の保護者でYahoo! JAPANユーザー2000人。男女比は6対4、年代は30代が15%、40代が52%、50代が26%。子どもが通う学校の種別は公立89%、私立9%、国立2%)


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 そもそも、「なぜ受験に内申書が必要なのか」(大阪・中3女子母)。


 それは、高校入試で内申書を使用することを法律で定めているからである。学校教育法施行規則の第78条と第90条がそれである。


 ただ、内申書に記載する内容は文部科学省ではなく、各都道府県の教育委員会が定めている。


 であれば、内申書の様式は各都道府県でバラバラでもいいはずだが、実際はかなり似通っている。というのも、前編で書いたように内申書は基本的に指導要録の写しであるからだ。


 文科省初等中等教育局参事官(高等学校担当)付参事官補佐の白川由梨さんは、こう説明する。


「文科省のホームページにある指導要録の参考様式を見ていただくと、調査書(内申書)に比較的近い。調査書の評定(学習評価)は指導要録に書かれたものを転記している場合が多いですから、指導要録から転記しやすいようなかたちで調査書がつくられているのだと思います」


 私たちが指導要録を目にすることはないが、「通知表(通信簿)」であれば身近な存在である。さいたま市立大宮北高校の教員、待谷亮介さんに「通知表」「指導要録」「内申書(調査書)」に記される評定の関係について教えてもらった。


「通知表は1学期、2学期、3学期で5段階の評定がつきます。指導要録には、それを踏まえて、学年評定がつくわけですね。例えば、国語が1学期5、2学期4、3学期4だったら、学年では国語は4、という具合です。この学年評定が、指導要録に書かれ、調査書にも転記される」


■嫌いな子を悪く評価する?


 今回のアンケートでは内申書に書かれる評定に対する疑問の声が非常に多く含まれている。例えば、こんな具合だ。


「教科の評定のつけ方は判断が担当教師に委ねられており、公正なのかどうか不明瞭」(埼玉・中1女子母)、「教師の私的な感情がたっぷり入っていそう」(東京・中1女子母)、「先生との相性もあり、かなり先生の主観が入ると感じる」(兵庫・中2女子母)「担任1人の評価で個人的感情がどうしても入るため複数での評価を明確化して欲しい」(大阪・中3男子父)


 これに対して、待谷さんは「嫌いな子を悪く書くとか、好きな子をよく書くなんて、できませんよ。評定の欄は機械的に埋まっていくものですから。中学校の一教師が操作できるものではない」と、断言する。


「機械的に埋まっていく」とはどういうことか?


「例えば、私は数学の教師ですが、担任のクラスの子に国語で1がついたとします。『なんで1なんだろう』と思っても、『いい子だから3にしてください』ということは絶対にできない。評定の数字を担任が操作することは不可能です」


 そもそも、指導要録に記される評定は学習指導要領に基づくもので、生徒の学習や指導の改善を目的としている。しかし、評定が内申書に転記され、高校入試の結果に大きく影響しているのも事実である。


■挙手で内申点アップは?


 保護者からは内申書の評定を上げる方法として「授業では積極的に挙手して発言する」(神奈川・中2女子父)、「ノートは丁寧にポイントを強調して書く」(大阪・中3女子父)、「提出物をきちんと提出する」(鳥取・中2男子父)というコメントがかなりあった。実際にそれを観点として評価する教員もいるようだ。


 しかし、文科省はそのような行為を、次のように戒めている。


「現行の(観点別学習状況の評価の)『関心・意欲・態度』の観点について、挙手の回数や毎時間ノートをとっているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭しきれていない」(「新学習指導要領の全面実施と学習評価の改善について」2020年。かっこは筆者)


 待谷さんはこう語る。


「いかに生徒の『関心・意欲・態度』という部分をきちんと評価してあげるか。これは難しい課題です。例えば、挙手をしない子はやる気がないのか、というと、そんなことはありません。意欲的に静かに考えている子もいます。家でものすごく勉強しているかもしれない。提出物をきちんと出しても、実は適当にやっているだけかもしれないですし」


 今回、内申書の取材を通じて最も強く感じたのは教員の仕事量があまりにも多いことだった。


 そのような状況のなか、待谷さん、そして同僚の國井翼さんも、中学校で他の教員とともに日々の授業での生徒の評価基準を揃えようと話し合い、それを実施しようとしてきた。


■定期テストでの評価に


 しかし、「結局、無理でした。なかなかテスト以外で評価するのは難しかったです」と、國井さんは打ち明ける。


 待谷さんはどうだろう?


「私も完全に定期テストの点数になってしまいました。本当は普段の授業のなかで生徒を評価しなければならない。でも毎日、担任としていろんな生徒をフォローしながら授業をやっていくなかで、三十数人に対して『知識・理解』の観点などで評価をする。それを毎時間、毎時間していくのは、とても無理でした。正直そこまで手が回らない」


 さらに待谷さんは、こう続けた。


「文科省が言いたいことはわかります。それが理想なのはわかるんですけど、とても難しい――いったい何時に帰れるんだろう、と思ってしまいます」


 文科省も現場の教員が生徒の評価に労力を割かれて、授業に注力できない現状を認識している。


 さらに定期テストで学習評価をするにしても課題が残る。


 学習評価は20年前までクラスの中での順位によって5段階の評定をつける「相対評価」が行われていた。しかし、現在は順位に関係なく評価基準に対する達成の度合いで評定をつける「絶対評価」が行われている――はずだが、実際にはそうとも言えないようだ。


「われわれが行っているのは『絶対評価』です。ところが、厳格な絶対評価ができるか、といったら、そうではないんですよ」と、待谷さんは漏らす。


 例えば、あるテスト問題について30点以下を評価1と定めたとする。


「ところが、テストを実施したところ、30点以下が学年の半分くらいいたら、それに1をつけることになるわけじゃないですか。でも、そのとおりに実行したら大問題です。ですから、ある程度、相対評価を踏まえた絶対評価になっています」(待谷さん)


■問題は学校間の差


 國井さんも、待谷さんも、できるかぎり生徒を公平に評価しようと努力してきた。しかし、生徒を評価するのは大きさや重さを計測するのとはわけが違う。


「完全に平等公平に評価しているのか、と問われれば、絶対そうです、と自信を持って言い切れる教員は少ないのではないか」(待谷さん)という現実がある。それでも、同じ学校内であれば、ある程度公平な評価が行われていると感じてきた。


 一方、「学校間ではかなり差があるのは事実」と、待谷さんは指摘する。


 というのも、教育熱心な保護者が集まる学区と、そうでない学区の中学校では、例えば同じ学習評価の「5」でも重みがかなり異なってくるからだ。


「ですから、今の調査書で、すべての生徒を平等に評価するのは不可能だと感じています」(待谷さん)


 では、どうすれば平等な内申書になるのか?


「この回答にある多くの保護者が要望するように、本当に評価基準をはっきりとさせるのであれば、各都道府県で全く同じテストを作成して、全中学校で同じ時期にテストを行い、何点だったら評定の数字がいくつ、とやるしか方法はないのではないでしょうか。そして、それ以外のものについてはいっさい評価しない」(國井さん)


「そうすれば、平等な評価になるでしょう」(待谷さん)


「でも、そうなると塾が増えそうです。生徒たちは学校から離れていくのではないでしょうか」(國井さん)


■内申点を上げるには


 待谷さんは「内申点のためにやりたくもない活動に参加している」(東京・中2男子父)という保護者のコメントを見て、こう言った。


「この子は活動をやめて、勉強したほうがいいと思います。絶対にそうしたほうがいい。そのぶん勉強して、入試で5点でも10点でも多くとったほうが、希望の高校に受かる可能性が確実に上がりますから」


 では、他の生徒はどうすれば内申点が上がるのか?


「中学校の先生に聞いてみてもいいと思います。私は三者面談のときに結構話をしました。行きたい学校が公表している調査書の加点項目と、その子の『通知書(調査書と同一の書類)』を突き合わせて、どうすればいいのか、具体的に説明しました」(待谷さん)


 内申点の上げ方を担任に聞くには勇気がいるかもしれない。しかし、それは教員にとっての秘密ではないし、尋ねることはズルでもない。率直に疑問をぶつけてみるのも、一つの方法かもしれない。


※前編「『悪いことをしたら内申書に書く』は本当か? 中学校の『内申書』保護者2000人アンケート」から続く


(AERA dot.編集部・米倉昭仁)


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