金正恩「娘」公開の思惑 日本や英国をモデルに「開かれたロイヤルファミリー」目指す可能性も

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2022年12月06日 08:00  AERA dot.

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北朝鮮の金正恩総書記(左)と妻の李雪主氏(右)、娘(中央)。朝鮮中央通信が配信した3人の写真を韓国のテレビが映し出した/11月19日、ソウル(ZUMA PRESS/アフロ)
 北朝鮮のミサイル発射が続くなか、金正恩総書記が第2子の娘を初公開した。プライベートを公開する狙いは何か。2022年12月12日号の記事を紹介する。


【写真】娘と手をつなぎ「火星砲17」の試射を視察した金正恩氏*  *  *


 朝鮮中央通信は11月19日、金正恩朝鮮労働党総書記の娘の姿を公開した。娘は正恩氏によく似た顔立ちで、白いダウンジャケットを着ていた。韓国の情報機関、国家情報院は22日、娘が2013年に生まれた、正恩氏の第2子「金ジュエ」とみられると、国会情報委員会で説明した。北朝鮮は、金正恩ファミリーを日本の皇室のような存在にしたいのかもしれないが、それは危険な賭けになりそうだ。


■父親と手をつなぐ娘


 娘は18日、平壌近郊から発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」を視察した正恩氏に同行した。公開された娘の写真には、母の李雪主氏と一緒に正恩氏のそばに立つ姿や、「火星砲17」を背に父親と仲良く手をつなぐ姿などが写っていた。朝鮮中央通信は27日、再び金正恩氏の娘の写真を配信した。娘は黒いコート姿で、正恩氏とICBM試射成功の貢献者との記念撮影に同行した。


 金正恩氏夫妻は10年6月に結婚しているが、夫妻の間には10年、13年、17年にそれぞれ生まれた3人の子どもがいるとされる。「金ジュエ」は第2子とみられている。10年生まれの第1子は、李雪主氏ではない別の女性との間に生まれた子どもだという未確認情報もある。


 北朝鮮は従来、最高指導者の私生活は明かしてこなかった。1967年に唯一思想体系が、72年に主体思想がそれぞれ導入され、独裁制が敷かれたからだ。最高指導者の私生活を語り、のぞくことは、最高指導者の神格化を否定する行為だと受け止められた。


 金正恩氏も10年まで、その存在は秘密にされてきた。父、金正日総書記と母、高英姫氏との結婚を、金日成主席が認めなかったからだ。正恩氏は金日成主席と面会したことがない。正恩氏は強い不満を抱いていたとされる。金正日氏が11年末に死去した後、李雪主氏が公式報道に登場するようになった。


 今年6月16日付の労働新聞は、金正恩氏夫妻がソファに座り、薬を選んでいる写真を公開した。「自宅で準備した薬を黄海南道の海州市委員会に送った」と伝えた。同市で急性腸内性感染症が発生したことを受けたという。これも、異例の出来事だ。



■「ロイヤルファミリー」


 金正恩氏が私生活を明らかにする理由は幾つか考えられる。


 第一には、乱れた女性関係を続けた父親への反発が考えられる。母、高英姫氏は生前、公の場所に出られなかった。プライベートを明らかにするのは、父親とは異なり、世間に対して恥ずかしくない私生活を送っていると主張したいのかもしれない。


 第二に、「愛民政治」と呼ばれる、指導者と一般市民との距離を近づけるイメージ戦略の一つかもしれない。正恩氏が現地指導の際、視察先の関係者と腕を組んで写真を撮るなど、スキンシップを重視した演出が繰り返されている。


 そして、第三に、日本の皇室や英国の王室をモデルにした「開かれたロイヤルファミリー」を目指している可能性がある。北朝鮮は従来、最高指導者の神格化を進めるにあたり、日本の皇室やタイ王室などの資料を数多く入手し、研究を進めた。「歴史の浅い北朝鮮の最高指導者が、一般市民から敬愛されるためには、どうしたらよいのか」という悩みがあったからだ。


 例えば、戦前の日本で、教育現場などに御真影(天皇の肖像画や写真)が掲げられたことを参考に、金日成主席や金正日総書記の肖像画を公共機関や各家庭に設置したという。「火災から御真影を守るため、我が身を犠牲にした」という戦前の日本で実際に起きた事件を参考に、同じストーリーを積極的に美談として宣伝してもいる。


 そして、最近は「開かれた王室(皇室)」が世界の流行になっている。奥の院に閉じこもっているよりも、ある程度、プライバシーを公開した方が、市民から親しみを持ってもらえるという計算があるのかもしれない。


■弱い指導者という側面


 ただ、一連の動きは、金正恩氏の「弱い指導者」という側面も浮き彫りにしている。正恩氏は側近集団と共生関係にある指導者だ。闘争して権力をつかんだわけではない正恩氏には、人脈や実績が不足している。側近集団は、権力の座に就くための正統性を持っていない。このため、正恩氏が側近たちに対し、「建国の父である金日成主席の血統を奉る集団」という大義名分を与え、側近たちが正恩氏に「人脈や経験」を提供するという構図ができあがっている。



 このため、必ずしも正恩氏が好き勝手に何でも決めているというわけではないようだ。18年から19年にかけて行われた米朝首脳会談では、正恩氏は非核化に積極的な姿勢を示したが、側近に強くたしなめられ、最終的に会談は決裂した。


 朝鮮中央通信が19日に公開した「火星砲17」の視察写真には、側近と一緒に、発射に大喜びする金与正党副部長の姿も写っていた。与正氏は金正恩氏の実妹。18年に訪韓した際、目撃した韓国政府関係者は「非常に穏やかで、部下にも気配りをする人物だった」と語る。与正氏は米朝会談の事前準備も指揮したとされる。


 その与正氏が24日に発表した談話で、韓国の尹錫悦大統領を呼び捨てにし、「米国の忠犬」「あの大ばか」と口汚くののしった。南北協議に参加した経験がある韓国政府元高官は「与正は米朝協議を主導した責任がある。ロイヤルファミリーだから粛清されないが、責任を取る代わりに、強硬派の先兵として使われているのだろう」と語る。(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)

※AERA 2022年12月12日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • 共産主義国家なのに王政君主主義国家気取りですか(笑) ならば、「悪い王」に支配された糞な国家って事を自認しとるやないかい(笑) どのみち「糞な国家」に変わり無し
    • イイネ!1
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