来春の都立高入試で合否判定にも使用される英語のスピーキングテストの会場に向かう生徒たち。採点の公平性も疑問視されている 公正性、公平性に疑問の声が噴出するなか行われた都立高校英語試験のスピーキングテスト。受験にたどり着くまでに、予期せぬ困難にぶつかった子どもたちがいた。AERA 2022年12月12日号の記事を紹介する。
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11月最後の日曜日、約7万人の中学3年生が都内を一斉に移動した。東京都教育委員会(都教委)がベネッセコーポレーションと実施したスピーキングテスト「ESAT−J」を受験するためだ。タブレットに解答を録音する形で行われ、結果は、来年2月に実施される都立高校入試で合否判定に使用される。
実施までの混乱ぶりは、公立入試とは思えないものだった。なにしろ受験会場が決まらない。結局、会場は学校単位で指定されたが、多くの生徒が区をまたいだ移動を強いられた。
■補聴器外す認識はない
そんな中クラスメートたちと離れ、さらに遠い「別会場」に向かった子どもたちがいた。障害や病弱など個別の事情に応じた「特別措置」を受けた生徒だ。「絶対に特別措置は受けない。みんなと一緒がいい」
色覚の障害を友人に伝えていないある生徒は、結局、特別措置の申請をせずに受験した。
補聴器を利用する生徒も、今回の特別措置の手続きに悩まされた。ろう学校に13年間勤務し、現在は区立中学の学習支援教員を務める高木純吾氏は語る。「テストは耳に差し込む形式のイヤホンを使用するので、生徒は補聴器を外さなければなりません。しかし、補聴器をして通常学級で学んでいる子に、『補聴器を外してテストを受ける』という認識はなく、特別措置の申請が必要だと気づかない子もいます。今年3月にベネッセが出した『最終報告書』には、『補聴器使用者はイヤホンが入らないため必ず特別措置申請をするように案内書に記載し』とあります。つまり都教委は、そのことを知っていたわけです。しかし生徒が受け取った案内書に説明はなかった。問題を知りながら、なぜ周知しなかったのか」
■「不受験」しか選べない
今回の「特別措置」に関して、文京区議で障害児の教育に詳しい海津敦子氏は次のように話す。
「都教委に通常級の中に障害をもった子がいるという意識がないばかりか、『合理的配慮』を非常に軽く考えている。初めてのテストで、どのような配慮を申請したらいいか本人もわからないだけでなく、障害区分が先にあり、そこから外れる子どもは基本的に配慮を受けられないたてつけになっています。申請の締め切りも早く、障害のある子に受験してもらいたくないのでは、と思える内容です」
実際、「不受験」を打診された子もいる。試験で適切な配慮が受けられるという確信を、教師側も持てなかったからだ。
「『受けない』という選択肢からしか選べない子がいる。これは明らかに排除です」(高木氏)
実施要項では、特別支援学校や特別支援学級在籍の生徒は、「希望による受験」とされた。つまり、合理的配慮を求める前に、受験しなくてもよいとされたことになる。今や特別支援学級卒業生の約5割が普通高校へ進学しているにもかかわらず、都立高入試のスピーキングテストから「排除」された形だ。
配慮から外れた子は他にもいる。2021年度の調査によると、東京都の中学校に在籍する日本語指導が必要な生徒は1002人。受験生もその3分の1いると推測される。しかし都教委のホームページには「ESAT−J」の多言語の説明はない。
都教委のスピーキングテスト担当者は「学校からの要請により、英語版を用意したことはある」とした上で、「多言語のページはございません。日本語のみとなっております」と答えた。
大規模な情報漏洩(ろうえい)の過去があるベネッセに、障害にまつわる情報が顔写真付きで収集されることへの不安も大きい。ベネッセの委託先が何社あり、どのような企業なのかは、保護者には明かされていない。また、経験不問で集められた「一日バイト」の試験官がみなセンシティブな情報を適切に扱うだろうか。
反対運動は今も続いている。(ライター・黒坂真由子)
※AERA 2022年12月12日号
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