東大卒・元官僚、競馬で自己破産 酒、ギャンブル…「中高年の依存症」

2

2022年12月06日 11:45  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真はイメージ(Getty Images)
 お酒、競馬、ゲーム……軽い気晴らしで始めたら、いつの間にか止まらなくなっていた──そんな経験はないだろうか。依存症への入り口は身近な暮らしにもあふれている。人はなぜ依存症になってしまうのか、そのメカニズムや対処法を調べた。


【要チェック!】あなたはいくつ当てはまる?依存症になりやすい六つの性格はコチラ*  *  *


 アルコール摂取を巡り、悲惨な事件が起きてしまった。11月12日、横浜市内の自宅前の路上で、同居する息子(50)の頭をバールで殴り殺害したとして、無職の父親(78)が逮捕されたのだ。


 報道によれば、父親は日ごろから酒を飲んで暴言を吐いたり、壁を殴ったりする息子に対し、「このままでは、私たち夫婦の命が危ないと思った」と供述。親子げんかの末、凶器に手を伸ばしてしまったのだという。


 80代の親が50代になっても引きこもる子どもの面倒を見る「8050問題」を想起させるこの事件。もう一つの要素は「酒」だ。父親は調べに対し「息子の飲酒に長年、悩まされていた」と話しているという。このように、時に、人生を破壊してしまうのが酒の怖さだ。


 厚生労働省が2021年にまとめた統計によると、現在、アルコール依存症の患者は26万人。依存症が疑われる人は18年時点で約303万人にのぼる。中高年は特に注意が必要なようだ。厚労省の「国民健康・栄養調査」(2019年)によると、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合は、男性では20代が6.4%、30代が13.0%と年齢を重ねるにしたがい上がっていき、40〜60代は軒並み20%前後とずっと高い状態が続く。女性も20代の5.3%から次第に上がっていき、ピークの50代では16.8%となっていた。


 アルコールに限らず、依存症にはさまざまなかたちがある。大きく分けて物質依存症と行為依存症の二つがあり、前者はアルコール、カフェイン、違法薬物、鎮静薬、睡眠薬などへの依存。後者はギャンブルやゲーム、買い物、食事などへの依存があげられる。


 なぜ依存症に陥ってしまうのか。キーになるのは、神経伝達物質のドーパミンだ。脳の「報酬系」と呼ばれる神経回路で分泌され、快感や多幸感をもたらすことから“幸せホルモン”と呼ばれることもある。依存症などの治療に力を入れるライフサポートクリニックの山下悠毅院長がこう語る。


「快楽をもたらすドーパミンを簡単に出す方法が、依存物質と言われるアルコールやニコチンなどを摂取することなんです。その瞬間は快楽を感じられますが、ドーパミンは同じ刺激に対しては耐性がつき、次第に出づらくなってくる。このため、より多くの刺激を得ようと、酒やたばこの摂取量が増えていくのです」


 もっと、もっと──快楽への欲求がエスカレートしていく。さくらの木クリニック秋葉原の倉持穣院長はこうした状態を「ブレーキの壊れた車」と例える。


「初めは体に害のない少量の飲酒習慣でも、次第にアルコール摂取への渇望は強まっていきます。やがて意志の力を渇望が上回るようになり、ひとたび飲みだすと止まらなくなるといったアルコール依存症の症状が出てくる。アリ地獄の穴にアリが落ちていくようなイメージで、ひとたび転落が始まると、抜け出すことは困難です」


 アルコール依存症には、「離脱症状」も大きくかかわっているという。飲酒から時間が経つと、次第に体内に残ったアルコール量は減っていく。この時に表れるのが離脱症状で、イライラして怒りっぽくなったり、眠れなくなったりと、強烈な不快感を味わう。


 このような状態の時に困難や苦痛に直面すると、助けを求めてまたアルコール摂取に走ってしまう。大量のアルコール摂取は肝臓を痛め、肝炎や肝硬変、膵炎などの病気につながることは言うまでもないが、それでも、目の前の困難から逃れるため、酒を手放せない。まさに、「わかっちゃいるけど、やめられない」状態だ。


 ここまで、アルコール依存症の話を中心にしてきたが、前述した「行為依存症」に苦しむ人も世の中にはたくさんいる。



例えば、ギャンブル依存症。競馬やパチンコ、カジノなどにのめり込み、興奮を求めて次第に賭け金が増えていく。やがて、勝負を途中でやめようとしてもうまくいかなくなり、ギャンブルをしていないと落ち着かなくなる。負けたお金をさらなるギャンブルで取り返そうとし、自身のギャンブルに関して周囲に嘘をついたり、借金をしたりする──こういった症状が連鎖的に表れてくるのが典型的な特徴だという。


 ある精神科医は、ストレスへの対処がうまくない人、ギャンブルが身近にある環境にいる人などは、リスク因子が高いと指摘する。また、リタイアして時間を持て余す中高年層は特に要注意だという。コロナ禍で人と接する機会が減り、孤独を感じる時間が増えた状況も、依存症への陥りやすさを高めている。


 ある中央官庁にキャリア官僚として勤めていた50代前半の中野タダシさん(仮名)は、競馬で人生が暗転した。東京大学法学部卒。結婚し子宝にも恵まれ、いわゆるエリート街道を走ってきた。ある時、友人に競馬を見に行かないかと誘われ、よく知らないまま2万円ほど賭けたところ、大穴を当てて70万円を手にした。


 いわゆるビギナーズラックだったわけだが、タダシさんはそれ以降、競馬にはまってしまった。負けが続いても、最終的には勝てるという根拠のない確信があった。負けた時のことはよく覚えていないのに、勝った時のことはよく覚えていた。毎週10万円単位で馬券に投じるようになり、占いで「ラッキーナンバー」と言われた数字から買う馬券を選ぶなど、「神頼み」的な行動で運をコントロールできると信じるようになってしまった。


 数年後、競馬の損失によって抱えた借金は約500万円に膨らみ、妻とは離婚。自己破産して、中央官庁も辞めざるを得なくなってしまった。運送会社に転職したが、競馬の借金を返済するために客が支払った代引き料金を懐に入れたことが露見。刑事事件にこそならなかったものの会社はクビになり、現在は引っ越しのアルバイトで生計を立てている。競馬は今も、続けている。


 前出の山下院長は、「ビギナーズラックは、ギャンブル依存症のきっかけになりやすい」と言い、こう解説する。


「競馬の借金を返すためと、サラ金などでお金を借りてまで馬券を買う人がいますが、ギャンブルで『取り返すために』と思ってやっている時点で病気です。なぜならギャンブル依存症の方は、『取り返せないかも』『負けたら終わる』という興奮も求めてやっているからです」


 山下院長によると、ギャンブル依存症も、アルコールと同じくドーパミンが関連しているという。


 競馬で自分が賭けた馬がゴールする瞬間以上に、なけなしのお金を賭ける行為でドーパミンが分泌されて高揚感を感じ、次も馬券を買いたくなる。しかし、耐性によってドーパミンが出づらくなるため、より賭けてはいけないお金を投じるようになっていく──ビギナーズラックによる「成功体験」が、身を持ち崩すまで続くギャンブル地獄の引き金になってしまうのである。パチンコやパチスロの場合も同じだが、これらは画像や音響を使った演出で、負けていても勝っているかのような錯覚を起こさせ、脳内の報酬系をより活発にするというから厄介だ。


 行為依存症の中には、万引きや盗撮などといった犯罪行為に依存してしまうパターンもある。山下院長が診てきた患者の中には、普段は温厚な産婦人科医なのにもかかわらず、盗撮の常習犯だった男性もいるという。


「この男性の場合、女性の裸を見ることへの欲求ではなく、『撮ってはいけないものを撮りたい』という『行為』に依存していた。盗撮や痴漢などの犯罪行為に依存してしまうのは、そうした『チャレンジ』によってドーパミンが分泌されていると考えられます」


 依存症になるメカニズムはだいぶわかってきたが、それでは、依存症になりやすい性格の傾向などはあるのだろうか。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長で、薬物依存症センターの松本俊彦センター長はこう語る。



「人から評価されたり、比べられたりすることに対するプレッシャーにさらされやすい人は依存症になりやすいと考えられます。あとはやはり、普段から強いストレスのかかる仕事をしている人は要注意です。ベトナム戦争の帰還兵の中でヘロイン依存症になるケースが多かったように、過酷でつらい状況にいる人は、依存に走りやすくなる傾向があります」


 前出の倉持院長は、依存症になりやすい六つの性格を挙げている。


・自己肯定感が低い=NOと言えない。嫌われるのが怖い


・白か黒か思考、100か0か思考=曖昧なものが許せない完全主義


・ネガティブ思考=不安になりやすい


・過度な自立心=他人に弱みを見せるのは格好悪い。負けず嫌い


・過剰な努力=未来の自分への過信、現在の自分の否認


・のめり込み=何かへの過集中と没頭(アディクション)


 では、依存症から抜け出すためにはどうすればよいのだろうか。


 ギャンブル依存症の場合、患者は「自分は最終的には勝てる」と思っているなど、考え方が偏っている場合がほとんど。こうした偏りを見直し、日常の金銭管理の方法を変えてギャンブル欲を低減させるなどの、認知行動療法と呼ばれる治療プログラムが有効だという。



 また、依存症は社会で孤立している人がなりやすく、症状の進行とともにますます孤立していくため、「孤立の病」とも言われている。そのため、医療機関以外にも、同じ依存症に悩む人が自発的に集まって回復を目指す「自助グループ」などに参加する選択肢がある。前出の松本センター長はこう語る。


「アルコール依存症の場合、『もう飲まない』という決意を維持し続けるのは難しい。孤独に陥らず、同じ問題を抱えている人の話を聞くことは非常に大事です。自助グループなどに参加して、仕事帰りに顔を出すことをお勧めします。人とのつながりを作って症状から回復し、元の生活を取り戻した人は多くいます」


 また、現在、依存症の臨床現場で注目されているのが「自己治療仮説」だ。依存症は従来、依存性のある物質や行為がもたらす「快感やハイになる気分」(正の強化)が動機となって引き起こされると考えられてきた。



 だが、患者たちをよく観察すると、その人が感じている苦痛の緩和(負の強化)のために何かに依存していることがわかってきた。前出の倉持院長はこう語る。


「飲酒は人生そのものに深く結びついている。アルコールという『やさしい悪魔』が、仕事や対人関係など、生きる中で生じた都合の悪い問題を見えなくさせてくれる。減酒や断酒に取り組むことは、酔うことで目をつぶってきた問題を直視するつらい作業ですが、それは人としての成長、成熟につながっていくのです」


 一人ひとりが抱える「生きづらさ」に光を当てること。これが依存症の予防になるだけでなく、依存症からの回復の道筋を示してくれることだと考えられるという。


 何かの拍子に、誰もが陥る可能性がある依存症。「アリ地獄」の気配には、敏感になりたいものだ。(本誌・村上新太郎)

※週刊朝日  2022年12月9日号


このニュースに関するつぶやき

  • 依存症の人を生み出さないために僕は競馬を知らない人を競馬場に連れて行くことはしないように決めています。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定