室井佑月 作家の室井佑月氏は、日本のデジタル化に対する懸念を明かす。
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11月28日の「TBS NEWS DIG」で「【速報】マイナンバーカード申請率60%突破…総務省が発表 交付開始から約7年で…『マイナポイント第2弾』『健康保険証との一体化』でさらなる普及急ぐ考え」というニュースを扱っていた。
内容はタイトル通りであったが、マイナンバーカード、いろいろ特典をつけてみたり、宣伝費を使ってテレビなどでかなり紹介しつづけたのに、60%の申請率になるまでに7年もかかったのか。
先週のこのコラムにも書いたが、政府がマイナカードを国家公務員の身分証化することを進め、一部、官僚たちからは「個人情報漏洩(ろうえい)の恐れがある」という声が上がっていたという。
官僚が心配になることは、一般のあたしたちも心配なわけで、マイナカードを作れば特典がつくとか、そういうことじゃないよな、と思う。まして、健康保険証と一体化するという逃れられない罠(わな)にはめ込むことでもないだろう。
あたしたちは、
「個人情報は絶対に漏れない。だからそれが悪用されることはない」
という明確な説明が欲しいのだ。
しかし、それは無理なことなのか。コストカットのためのマイナカードといっていたくせに、古いシステムに頼って関連システムにかかるコストは増えるばかりだ。
日本のデジタル化はどれほど進んでいるのだろう。ここにあててきた予算は多額だったはずなのに、なんか怪しいと思うようになってきた。
というのも、11月25日の「東京新聞」で、「オウム解散請求の記録廃棄」という記事を読んだからだ。
「一九九五年の地下鉄サリン事件などを受け、東京地裁に申し立てられたオウム真理教の解散命令請求に関する全ての記録が廃棄されていたことが、地裁への取材で分かった」
という。今年の10月に、神戸連続児童殺傷事件の少年に関する記録も廃棄されていたことがわかった。酒鬼薔薇事件の少年Aといったほうがわかりやすいだろうか。
まったく意味がわからない。記録は大事でしょ。前の事例から、今の判断をすることにも繋(つな)がるし。今だって、旧統一教会の対処に必要なものではないのか。
今はかさ張る紙で保存というわけではないだろう。記録を整理し残すなんて、最も簡単なデジタル化ではないの?
ま、国会などを見ていると、野党が資料や公文書の提出を要求しても、官僚たちはさっさと出して来ない。探している、という時間がやたらと長い。
わざとであるのか? まさか、簡単なデジタル管理ができていなかったり? いいや、わざとの方が罪深い? どっちにしろ、遅れてしまった国である感は否めない。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
※週刊朝日 2022年12月16日号