医学部新カリキュラムで学ぶAI・ビッグデータや感染症教育の充実 大学教授が考える課題は?

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2022年12月09日 07:00  AERA dot.

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時代とともに医師に求められることは変わり、それに即した形で大学医学部での教育内容も変わります。文部科学省などは、2024年度以降の医学部入学者が学ぶことになる新カリキュラムの方針を固め、そこにはAI(人工知能)やビッグデータの活用や、感染症教育の充実などが盛り込まれました。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、医学部教育について語ります。


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 医学部のカリキュラムは6年に1度改訂され、時代にあった教育が行われるよう検討されています。今年11月に行われた改訂に向けた検討会では、AI(人工知能)やビッグデータの活用、自然災害や感染症が起きた際の医師の役割を理解すること、自分の専門領域にとどまらず患者のニーズに応じて柔軟に診療することなど、いくつかの提案がなされました。これら改訂案を踏まえ、今回は医学部教育について考えてみます。



 私が専門とする皮膚科ではAIの活用がもっとも期待される分野です。例えばほくろのがんと呼ばれる悪性黒色腫は、良性のほくろとの見分けが難しい皮膚がんの一種です。皮膚科専門医はこの二つを見分けなければいけないわけですが、非常に難しいケースもあります。最近の研究では、AIがほくろとほくろのがんを皮膚科専門医以上に正確に見分けることができると報告されています。


 こうなると皮膚科医の存在意義がないように感じてしまいますが、AIにも落とし穴があります。人間の目ではわからないほどのノイズを画像に忍び込ませた場合、AIは誤診するようになったとの研究報告もあり、AIの診断を100%信じてはいけないことを知っていなければなりません。つまり、医者はAIを活用する上で、自らAIのプログラムを書く必要はありませんが、技術の限界を理解しておく必要があります。そして最終判断は人間の目が必要になります。原理原則と技術の限界を知っておくことが一般の臨床医が知っておくべきAIの基礎知識になるでしょう。


 感染症が起きた際の医師の役割を理解と、患者のニーズに応じて柔軟に診療することは、コロナの中で課題となった医師のありかたでしょう。医学の発展に伴い、医師の専門分野はますます細分化されています。専門外の分野となると、最新の知識をキャッチアップするのが難しい状況です。コロナは感染症専門医だけが診療する、という考え方ではパンデミックの際に乗り切れないことが露呈しました。すべての医師が役割分担をしてカバーしなければならない状況は今後も訪れる可能性が高いです。


 私自身も当番制で発熱外来を担当していた経験から、幅広く医療をカバーする必要性と大変さを実感しています。医学部の学生の時から、将来を見据えた柔軟な心構えが大切になってきます。しかし一方で、どこまで専門外の分野を診療するかは今後の議論が必要でしょう。


 アトピー性皮膚炎は比較的診断が容易で、一般の人でもわかる病気です。しかしながら、アトピーと非常に似た皮膚病でリンパ腫というがんもあります。同じように、アトピーの標準治療はステロイドの塗り薬ですが、間違って使えば副作用がでる薬です。患者さんのニーズに合わせて、自分の専門外を診療した場合、かえって患者さんに不利益が生じるケースが出てきます。皮膚科医に脳梗塞(こうそく)の治療をお願いしたい患者さんはいないと思いますが、内科医にアトピーの薬をもらいたい患者さんは一定数いることでしょう。一般の人への啓発が進んでいない病気では、医療従事者との理解の乖離(かいり)によってトラブルになるケースも出てきそうです。しっかりとした議論が必要になると思います。


 医学は進展がはやく、今の医学生は私が医学生だった頃の倍以上、勉強することが多くなっています。新しい分野を加えていくことも大事ですが、減らしていく工夫もしなければ医学生のキャパシティーを超えてしまいかねません。カリキュラムの変更に伴い、教員の負担も増えていく一方で、総合的なボリュームを考えての医学教育の改訂も今後必要でしょう。



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