母がいなくなった台所、カレンダーは10年前のまま… 強殺事件遺族の兄妹、癒えない深い傷語る

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2022年12月09日 10:01  弁護士ドットコム

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犯罪被害者週間にあわせて警察庁が11月30日、東京・国際フォーラムで啓発イベントを開き、さいたま市で2012年に母親(当時77歳)を強盗殺人で失った栗原一二三さん(61歳)、穂瑞(ほずえ)さん(58歳)兄妹が講演した。


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一二三さんは「強盗殺人って恐ろしい言葉だと思いませんか? 私も妹も普段は使うことができない。心のどこかで受け入れられないです」と10年間の苦しみを語った。母親は背後から鋭い刃物で複数回刺されて亡くなったため、2人は事件後、包丁を使えなくなったという。調理方法は限定的で、生活に影響が及んでいることを明かした。



●「新年おめでとう」はもう言えない

事件は2012年8月25日の土曜日午前中の、早い時間に発生した。同居する一二三さんは、出勤した直後で、第一発見者となったのは近くに住んでいる穂瑞さんだった。



「午前8時6分に着信がありました。いつもの母の明るい声の『はーいお母さん』ではなく『来て、早く来て!』と。とんでもないことが起きている。自転車で向かうと、玄関の鍵はかかっておらず、キッチンで倒れている母の姿が目に飛び込んできました」



栗原さん宅では、24日に通帳などが盗まれる事件が起きていた。20、21日には母親が塀を乗り越える不審者を目撃したこともあり、仕事が休みである翌25日に警察に相談するはずだった。



穂瑞さんが母親に最後に会ったのは23日だった。暑い夏だったが網戸にせず、鍵をしっかり締めるよう念押ししたものの、事件が起きてしまった。「24日に私が行っていればと、悔やんでも悔やみきれない思いでした」



穂瑞さんは、自身の家に来る報道関係者に対してカーテンを閉め、インターフォンが鳴るたびに息をひそめた。「異常な精神状態でした。悲しいという感情はなかった。恐怖と不安で悲しみを感じることができなかった」。母親の傷を見てしまった影響で、現在も刃物を使うことに抵抗を感じるという。



年賀状も送れなくなった。幼少期から書道をしていて、毎年自筆で40〜50枚書いていた。「また母のいない一年が始まる。おめでとうと書くことは、もう私にはできません。人の多く集まる場所も怖く、片時も緊張をほぐせません」



●同僚のささいな言葉に傷ついたことも

兄の一二三さんも、ほんの数時間前に「行ってくるよ」と顔を合わせた母を奪われたことを受け入れられずにいた。



仕事を50日間ほど休み、上司や同僚、顧客に迷惑をかけて申し訳ない気持ちが募った。



事件のダメージを心に抱えつつ、他の社員と同じく仕事をしなければならない辛さを語った。



「ある人から『そろそろ落ち着いた?』と声をかけられました。悪気はないと思います。気を遣っていただいた。でも被害者にとって時間の流れる速さは違う。『一生、落ち着かないかもね』と返答したのを覚えています」



初公判は2014年2月に行われた。事件から2週間後に逮捕された近所の男性は、強盗殺人などの罪に問われたが、殺人については無罪を主張。上訴を繰り返し再審請求もしたが、最高裁で無期懲役が確定している。



一二三さんは「加害者に人権や権利があることは分かっていますが、遺族としては理不尽としか言いようがなかった」という。公判進行について、母親のために長男としてできることは全て行う思いに迷いはなかったが、法廷で繰り広げられる議論は、違和感でしかなかった。罪を認めることもなく謝罪ももちろんなかった。真実を述べてほしい、責任をとってもらうという遺族として切実な思いはかなえられなかった。



この事件が原因で、職場に迷惑をかけてしまったとの思いから、裁判員裁判へ参加の報告を行った際に、ある上司より「勤務に支障のない範囲で」と告げられた言葉については、少なからずのショックを受けた。事件から1年6カ月経過していたが、突然、家族に理不尽な事件が起きたにもかかわらず「あくまでも個人の出来事として消化していくしかないのだなと思った瞬間でした」と振り返った。



●「被害者も加害者も生まない社会に」

2人が事件のことを語り合うことはない。母がいつも立っていたキッチンのカレンダーは2012年8月のままだ。でも、母だけがいない。



「お母さんはこうだったよね。お母さんだったらこうしなきゃ、とは話します。でも事件のことは何度も口にしたくない」(一二三さん)



「2017年5月の発足から通っている凶悪事件等遺族の自助グループ『彩のこころ』では、自分の気持ちを話せる。兄が感じていることもそこで知るという形です」(穂瑞さん)



2人は自助グループなどで多くの被害者遺族に会う中で「被害者も加害者も出さない社会にしたい」という強い望みを持つようになった。講演で最後にこう強調した。



「事件の数だけ被害者がいます。社会に埋もれている被害者の存在を認識してほしい」(一二三さん)「加害者がいなければ、被害者は生まれないのです。自転車でも死亡事故は起きる。ほんのちょっとの譲り合いの気持ちで、事故は減らせます。一度失った命は絶対に戻りません」(穂瑞さん)



犯罪被害者週間は、2004年12月1日に成立した「犯罪被害者等基本法」にちなみ、毎年11月25日から1週間を定めている。


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  • こういう話を読むと、やはり死刑は必要だなと思いました。
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