なぜダイハツの新型タントは月販目標の4倍も鬼売れしているのか?

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2022年12月09日 19:21  週プレNEWS

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総再生回数は1億6000万回を突破(!)。ちなみに「ウナ丼_STRUT_エンスーCARガイド」に上がっているタント ファンクロスの再生回数は17万回以上


10月3日にマイチェンしたダイハツの軽自動車「タント」が、発売1ヵ月で5万台を売り大きな注目を集めている。人気の秘密はどこ? 自動車専門誌の元編集長で、現在、クルマ系ユーチューバーとして大活躍するウナ丼氏が特濃解説する!!

【写真】タント カスタムの元ネタも

*  *  *
タント ファンクロス&カスタムを初めて見たとき、「最高やないかい......最高やないかーい!!!」と俺の中の謎の関西人が叫んだ(静岡県出身)。私の場合、初対面でこうしてアガるのって格好の良し悪しじゃなくて、(デザインいいのは大前提)、実際に見たからこそわかる質感というか高そう感に反応したとき。

じゃあ、高価格車ならぜんぶアガるかといえばさにあらずで、「このくらいの価格だとこの程度の質感」っていう予想を超えてきたときにこの関西人が登場するんですよ。最近だとフォルクスワーゲンのID.4とか。

いやでも、タントのこの質感の高さは予想外で、関西人の後方から俺の中のマ・クベが「これはいいものだ」とつぶやき人格渋滞が発生していたのはともかく、おそらく全国のディーラーでも実車を見たからこその喝采が上がっていたはず(カタログ写真だけじゃここまでの販売初速は出ない)。

と、類推したのは、広報車の準備を待って撮影した私よりも早く、それこそ発表の瞬間から全国のディーラーで従業員やユーチューバーたちが一斉に動画レポートしていたから。

これはつまり販売店のほとんどに実車が配備された証拠。近年は半導体不足から展示車もままならず、カタログだけで商談を進めなくてはいけないのが多いから異例。で、気合入れて展示車を用意した甲斐あって、全国で謎の関西人とマ・クベが大量発生してハンコをポーン!!と押す人が続出していたんです(よね?)

そのデザインなんですが、標準モデルから大きく変更した前後バンパーとライト・グリルまわりにおいて、従来より素材を高級にしたということはないそう。なのになぜ質感高く見えるか? そこにデザイナーのU.D.E.こと腕がありまして。

ファンクロスではバンパー部にグレーの骨格を模した凹凸がついていて、そこに囲まれた部分がほっぺたのような処理になっていますよね。これ、ボディ同色バンパーにグレーの塗り分けを追加しただけ......というのが従来のセオリーなんですが、ファンクロスではほっぺたの部分はわざわざ別パーツで起こしているんです。

そこまでやる意味がないようにも思えますが、あえて手間と工数とお金をかけた処理を加えることで、緻密さが生まれている。人間って偉いもんで、この部分の構造がわかってなくても「なんか凝縮感あるな」って感じるんですよ。

さらに、標準モデルのライトとバンパーを変えただけだと思っていたんだけど、実はフェンダーの型を新規に起こしつつ、ボンネットも変更してエンジンフードの位置とライトの上端位置をかなり高めてる。これによって、標準タントの「なんか窓大きくて......温室?」な感じからイカつい雰囲気に変更できたんですよね。


イカついといえばカスタム。こちらはもっと手が込んでいて、ボンネット位置はファンクロス同様に高めつつ、ライトは専用の細目というかツリ目に(ライトを専用品で作るのはすげーコストかかる)。で、大きなグリルを持ってきて......という手法自体はありきたりなのになぜか実車は存在感がスゴくて。

その理由は、陰影で緻密さを表現しているから。カスタムの細目ライトの下には分厚いバンパーがきてるけど、よく見るとライトとバンパーの間にはクサビ状の鋭い切れ込みがあって、この凹面があることによって自然光が入ってハイライトを形成して、立体感を出している。

コレ、簡単そうに見えてけっこう大変で、バンパーの一部にこの造形を入れ込むと、塗装工程でカラーがうまく乗らず不可能。そこで、コスト上昇承知で凹面のみを別体パーツにしたんだけど、ここがパッと見で「あ、ここでパーツ分割されているな」ってわかるようだと安っぽくなるので、チリ(部品間のすき間)をきっちり合わせて組まなくちゃならない。

すると、生産行程に負担が出るから、デザイナーと組み立て担当でめちゃくちゃ折衝してようやく実現したそう。何もそこまでとも思うが、サイズ制約の鬼である軽で差別化を図ろうとすると、ヨソがやってないことやらなくちゃなのですな。

ほかにもいろいろ手を加えて、質感アップして登場したタント ファンクロス&カスタムだけど、じゃあデザインだけで売れたのでしょうか......?

で、ここからがようやく編集部から課された『なんでタントはホンダのN−BOXに肉薄するほど売れ始めたのか』への回答なんですが(いやあ超長い前置きになっちゃった。その長さは映画のエンドクレジット直前にようやくタイトルを出すあの、なんかしゃらくせえ感じに近い)、これはねえ、「ようやく中身に外観が追いついた」ってことなんじゃないすかねー。

前回、「なんでN−BOXは売れるのか」という週プレNEWSの記事で私は、「デザインも内装もエンジンもシャシーも普通車並みに質感高いから」というミもフタもない結論を出したんですが、実は2019年に登場した現行タントは、ダイハツの新世代プラットフォームDNGA(ダイハツニューグローバルアーキテクチャ)をフル採用してエンジン、CVT、シャシーが超絶スーパー進化。

当時試乗した私は「最高やないかい......最高やないかーい!!!」だったのです。いやホント、ハンドリングなんかマジで洗練されてて。

ですが、クルマを降りて外観を見たら標準語に戻っちゃいました。もちろん悪くないんだけど、フツー。そのときスーパーハイトワゴンというジャンルはタントが切り開いたあと、初代N−BOXが超拡張したために、すでに「軽自動車の定番」になっていたんですよね。

定番になると陳腐化するので攻めが必要で、先行して2017年に登場していたN−BOXはぶっ飛んで進化したデザインと質感で登場していたのに、2年後に超コンサバスタイルで登場しちゃった現行タントは、デビュー年でもN‐BOXに7万台以上の差で負けて、割と大変だったと近所の女子高生が言っていました。

というわけなんで、中身はいいけど没個性気味で並の質感だったダイハツデザインが、ホンダに近づいて販売成績も上向いたっちゅうわけなんです......よね?(上目遣いで村長の顔色を見ながら)。

じゃあ、このままタントがまくってまくってN−BOXを一気に差すのかというと、それはちょっと未知数。というのは、ホンダが開発初期の段階から「軽であること、スーパーハイトという特殊ジャンルであることを完全否定」して普通車感覚でデザインしたのに対して、タントでは特に内装に「軽だからこその遊び、スーパーハイトだからこその特殊性」を強調したデザインが残っているから。

すっかりスーパーハイトワゴンに慣れたユーザーにとっては、そうした飛び道具より長く味わえる高品質さが欲しい時代になってるんですけどねー、と、近所のいなげやで警備員が言っていたような曖昧な記憶があります。


最後にタント ファンクロス&カスタムの形について。これまではずっと質感について触れてきたんですがデザインの方向性についてタント兄弟はかなり興味深いアプローチをしてきました。

スーパーハイトワゴンベースのSUV化では、スズキ・スペーシア ギアが先行。これはジムニーと同じ部品番号のライトを使って丸目化、車庫証明をペンギン村でとったようなルックスにしていますが、タント ファンクロスでは標準モデルよりエッジの立ったライトを採用して派手ではありません。

またカスタム系ではライバルのN‐BOXやルークス、eKクロススペースなどが「これまでになかった顔」を求めて個性を発揮しまくっているのに対して、タントカスタムのそれはハの字特大グリルを基本にした王道のものです。

タント兄弟には冒険心が足りないように思えますが、それが逆にバカ受けしたという不可解さ......? いや実はこれ、周到なリサーチの足跡が見えるんです。

ダイハツはここ数年、年明け恒例の「東京オートサロン」に向けた出品車両に超絶パワーを注ぎ込んでいます。そこではメーカーが出展しがちな未来的だったり挑戦的なテーマのコンセプトカーの姿はなく、市販モデルをベースに現実的な(しかしメーカーの力を使ってハイクオリティに仕上げた)カスタム車が並ぶのです。

それらダイハツ謹製の人気は高く、毎年SNSを賑わせまくり。が、それら支持を受けたカスタムが量産モデルに反映されることがなくてファンを残念がらせていた、という構図があったのでした。

しかし今回、ピーンときて過去の出展車両を見てみると、タント ファンクロスとカスタムそれぞれの元ネタといえるモデルが2020年の東京オートサロンに出展されていたことを掘り当てましたよ(トリュフ犬並みの嗅覚!)。

特にカスタムは「まんま」といえるコンセプトで、ファンクロスのほうも派手すぎない都会派ルックの方向性は市販モデルに活かされています。

いずれもショー会場での一般層の反応を十分にキャッチした上でデザインを進めることができたと言えるわけで、これはダイハツにとって相当なアドバンテージだったはずです。だって一般層が「イイ!」と言ったデザインの方向性で進めればいいんですから(あくまで私の推論、もしくは脊髄に養分パイプぶっこまれて見た白昼夢)。

というわけでタントシリーズの今後ですが、対N‐BOXに絞って言えば、今後もホンダはトップダウン型の独自デザインで攻めてくるでしょう。

一方で、ダイハツが今回のように現場の空気感を色濃く反映したモデルを繰り出して来るならば、非常に興味深い戦いになりそうですねぇ、と物陰から家政婦が言っていました。以上!(あくまで自分に責任が来ない形で断言)。

●ウナ丼
クルマ系ユーチューバー。クルマ&バイク誌の編集長を経て独立。コアな自動車書籍&DVD出版社「エンスーCARガイド」を立ち上げる。2011年、そのDVD告知のためにYouTubeチャンネルを開設。現在、運営する「ウナ丼_STRUT_エンスーCARガイド」の登録者数は35万人以上。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

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