◆ 猛牛ストーリー【第49回:小野泰己】
リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一も成し遂げたオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第49回は、今年11月にオリックスと育成契約を結んだ小野泰己投手(28)です。
2016年のドラフト2位で阪神に入団。最速157キロの角度あるストレートを武器に、当時の金本知憲監督から「将来的に大エースになるんじゃないか。可能性は秘めている」とその将来を嘱望され、プロ2年目の2018年には7勝を挙げました。
しかし、右肘の故障などで中継ぎに転向して以降は白星なし。6年目のオフに戦力外通告を受け、育成選手としてオリックスと契約を結んでいます。
課題である制球難克服のため、「今年1年が勝負。今までと違うことをやらないといけない」と右腕。初めてウエートトレーニングに取り組むなど、新天地での復活に向けて闘志を燃やしています。
◆ 「プライドなんていらない」
寒風が吹き抜ける大阪湾に埋め立てられた舞洲。その一角にあるオリックスの二軍施設に併設された杉本商事バファローズスタジアム舞洲では、西野真弘や山田修義らベテランと、太田椋や宮城大弥らの若手を横目に、約10人の育成選手が3勤1休のペースで汗を流している。
第3クール初日の13日。参加した投手5人のうち、小野を除く4人の平均年齢は20.5歳。28歳の小野も、若い他の投手陣と同じメニューをこなしている。
「(プライドなんて)特にないですね。一度戦力外になって、今年もそうなる可能性があるので。もしかすると、プロとしてできるのも最後かもしれないんで。プライドなんていらない。後悔しないように、やれることをしっかりとやりたいですね」
福岡・折尾愛真高から富士大を経て、2016年のドラフト2位で阪神に入団した右腕。
1年目の春季キャンプから頭角を現し、紅白戦では同期入団のドラフト1位・大山悠輔と対戦。108キロのカーブにフォークボールを交え、最後は高めの151キロ速球で右飛に打ち取った。
金本監督からは「素材という面ではドラフト1位ぐらい」「将来的に大エースになる可能性を秘めている」と高い評価を受け、1年目から先発ローテーションの一角を任される。
好投が報われず開幕から7連敗を喫したが、実に13度目の登板となった8月29日のヤクルト戦で初勝利。2勝7敗でルーキーイヤーを終え、2年目の2018年シーズンは23試合に登板して7勝(7敗)をマークした。
順調な成長を妨げたのが、3年目の春季キャンプ中での右肘の違和感。5月の二軍戦で実戦復帰したものの、一軍では中継ぎとして14試合の登板にとどまった。
2020年は一軍登板がなく(二軍で15試合・4敗)、その後の一軍登板は2021年に12試合で防御率7.98。2022年は5試合で同1.80と出場機会に恵まれず、10月4日に戦力外通告を受けることに。
「阪神で5年も経つと、毎年不安はありました。結果を残していませんでしたから。(阪神時代も)同じ気持ちでいたのですが、実際に戦力外になると、“もっとやらなきゃ”という気持ちが強くなりました」
◆ 「新しい自分を発見する」
「制球はともかく、ストレートには角度があり、ポテンシャルは高い」というのが、オリックスのチーム関係者の小野評。制球難さえ修正できれば、十分に一軍で通用するという期待を込めた言葉だ。
阪神時代には、先発したある試合で金本監督を「言いようがない」とあきれさせたことがあった。先頭打者の投手へのストレートの四球を含む7四球で、5回を3安打・5失点で降板。四球を出して痛打を浴びる。そんなイメージも首脳陣に与えてしまった。
その制球について、小野は「結局、自分でもそこだと思います。いろんな人から言われるのは『ボールはいいものを持っているのに』。自分の中でもそれは思っているところで、それをクリアすれば勝負ができるのかなと」と語る。
中継ぎ転向後は、調整の難しさに加え、「1イニング失点ゼロが絶対なんで、プレッシャーではありませんが、変な力みもありました」。
抑えて当たり前。チームの流れを左右する中継ぎは、小野にとって厳しいマウンドだったのかもしれない。
そんな男が今、熱を入れて取り組んでいるのがウエートトレーニング。
「今まで、ウエートは取り入れてこなかったのですが、やってみようかなと。(投手としてやるのがいいのか、やらないのがいいのか)どちらが正しいのか分からないのですが、今までやって来なかったので。今年1年が勝負。これまでと同じことをやっていてもダメ。今までと違うことをやらないといけないかな、と思って取り組んでいます。オリックスの方が、そういうトレーニングに力を入れているので。新しい自分を発見することになると思います」
投手のウエートトレには、「投球の邪魔になる筋肉を付けない方が良い」や、「筋肉が硬くなりスムーズに腕が振れなくなる」などの意見があり、球界でもウエートトレをせず好成績を残している選手もいる。
「(精神面より)やっぱり技術じゃないですかね。技術があればそういうことにはならないと思うんで。自分には技術がなかったのかなと。それをここで改善すればいいのかなと思います」
「原因が分かっていれば改善されていたと思います。ウエートトレをして来なかったのもありますし、筋肉量だとかも関係があるのかもしれません」
正解はないかもしれない。それでも、新たな取り組みが制球難克服に結びつくことを信じている。
上半身と下半身の動きを連動させ、安定したフォームを身に着けて、目指すは支配下登録。
頑張る理由もある。来月22日は3度目の結婚記念日。同郷の妻(27)は、交際中に7連敗と苦しんだルーキーイヤーにも「次、頑張れば勝てるよ」と励まし、故障でリハビリ中にも支えてくれた。
戦力外通告を受けた後も「野球ができない体ではないから、生きる道はあるよ」と背中を押し続けてくれたという。
「結婚してから3年間、成績を残していないので、新しい環境で結果を残したいですね。せっかくプロの世界でやるなら、もう一度一軍で」
「新しい自分」でプロ7年目に挑む。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)