AERA2023年1月30日号より 新たなオミクロン株の亜系統が次々と出現するなか、どの亜系統が主流になるか注目されている。中でも「XBB.1.5」は、米国を中心に主流の亜系統になりつつある。どんな性質を持っているのか。AERA 2023年1月30日号から。
【グラフ】米国の亜系統の状況はこちら* * *
変異株や亜系統の多くは、元のウイルスの遺伝子の一部に変異が起きて発生している。一方、名称の冒頭に「X」が付けられているものは、遺伝子の一部の変異ではなく、2種類のウイルスの遺伝子が入れ替わったハイブリッドの「組み換え体」だ。
遺伝子の変異はウイルスが増殖する際にランダムに起こるが、組み換え体は、同時に2種類のウイルスに感染したヒトの体内で生じると考えられている。
■米で流行XBB.1.5
東京都健康安全研究センター(健安センター)によると、これまでに世界で50種類以上の組み換え体が報告されている。そのうち大きな流行を起こしたのは、XBB系統が初めてだ。
XBBは、オミクロン株の亜系統BA.2とBA.2.75を元に派生したさらなる亜系統BJ.1とBM.1.1.1の組み換え体だ。昨秋にはシンガポールやインドで大きな流行を引き起こした。
米国で現在、流行しているXBB.1.5は、元のXBBの遺伝子の一部に変異が入ったものだ。都健安センターによると、都内では1月19日現在、22件、報告されている。
XBB.1.5は、元のXBBよりもヒトの細胞に結合する力が強い可能性がある。北京大学などの研究チームが1月5日に公表した、専門家の評価を受ける前の論文によると、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際にまずくっつく、ヒトの細胞の表面にあるたんぱく質「ACE2」に結合する力を、細胞を使った実験で調べたところ、元のXBBやBQ.1.1の2倍以上、強かった。
研究チームによると、元のXBB亜系統はXBB.1.5亜系統よりも免疫を回避する能力が高かったものの、ヒトの細胞に結合する力は比較的弱かったため、シンガポールやインドなど一部の国だけでしか広がらなかったと考えられるという。
■主流の候補が次々
XBB.1.5は、免疫回避力だけでなく、ヒトの細胞への結合力も強いため、米国を中心に主流の亜系統になりつつあるという。現状を踏まえ、研究チームはこう指摘する。
「ヒトの細胞への結合力の強さが感染の拡大に関係していることはわかりつつあるが、それが症状の重症度に影響するかどうかはまだ分かっていない。性急に調べる必要がある」
ヒトの細胞表面にあるACE2への結合力がXBB.1.5よりも強いことがわかっているのはBA.2.75だ。これは、XBBの元になった亜系統の祖先でもある。
英国やニュージーランドなどでは、BA.2.75の遺伝子に変異が起き、BA.2.75から直に派生した亜系統CH.1.1が増えている。
英HSAによると、英国で22年12月26日〜23年1月1日に解析されたウイルスのうち51.3%をBQ.1が占め、次いで多かったのがCH.1.1で、19.5%を占めた。現時点ではCH.1.1はXBB.1.5よりは感染拡大速度が遅いとみられるものの、ワクチンの効果や重症化率はまだ不明だ。
国内で多数派になりつつあるBQ.1系統の、次はどの亜系統が主流になるのか。XBB.1.5を含め候補が次々と登場していて目が離せない。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2023年1月30日号より抜粋