鈴木さや子さんは、「いつでも会いに行けるファイナンシャルプランナー」として、月に数回、会員制の「スナックデルソーレGINZA」のママとしても活動している パートタイマーとして働く場合、「いくらぐらい稼ぐか」に悩む人は少なくない。年収が、俗に「壁」と呼ばれる103万円、106万円、130万円を超えると、配偶者の扶養から外れたり、自分で社会保険料や税金を納めなければならなかったりするからだ。
【チャート】パート年収の「壁」による影響は? しかし、ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんは、「この壁を気にしたほうがいい人と、気にしなくてもいい人がいます」と話す。鈴木さんの近著『資産形成の超正解100』から、3つの壁がパートタイマーの手取りに与える実際の影響をひもときたい。
3つの金額を「壁」と呼ぶのは、それぞれの金額を超えると、以前より多く働いても世帯の手取り年収が減ってしまうことがあり、もっと働こうという意欲が持てなくなる人がいるからだ。
◆「税法上の扶養」が左右する「103万円の壁」 まず、最も気にする人が多い「103万円の壁」から。
扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があり、「103万円」という区切りに影響しているのは「税法上の扶養」。年収が103万円を上回ると、所得控除のひとつである配偶者控除を受けられなくなり、扶養者の所得税と住民税が上がってしまうと思っている人が多いようだ。
実際には、103万円を上回っても税金面での影響は大きくない。103 万円を上回ると配偶者控除の代わりに配偶者特別控除を受けられるようになり、配偶者の年収が150万円に達するまでは扶養者の手取りは変わらないからだ。150万円を超えると少しずつ配偶者特別控除の金額が減っていき、201万円を超えると全く受けられなくなる。
扶養者の合計所得金額が1000万円を超えている場合は、配偶者控除も配偶者特別控除も受けられないため、103万円の壁は関係ない。
そもそも、配偶者控除を受けている人の中で「103万円の壁」を気にしたほうがいいのは、扶養者が毎月勤務先から「配偶者手当」などの家族手当をもらっているという人。人事院「令和3年職種別民間給与実態調査」によると、何らかの家族手当を導入している企業の割合は74.1%。導入している会社のうち約45%が配偶者の年収が103万円まで、約37%が130万円まで、約7%が150万円までとしており、103万円を超えると家族手当がもらえなくなる人は多いようだ。
家族手当の相場は、月1万円〜1.5万円程度といわれており、もらえなくなると、年12万〜18万円ほどの手取りが減ることになる。鈴木さんは、「パートタイマーとして働く場合、扶養者が配偶者手当をもらっているか、またもらっている場合は年収いくらになるともらえなくなるのか、チェックしておいて」と話す。
◆「社会保険上の扶養」が左右する「106万円の壁」 扶養者が会社員や公務員の場合、自分の年収が一定の金額を上回るまでは、扶養者の「社会保険上の扶養」に入ることができるため、社会保険料を払わなくて済む。ところが、年収が「130万円以上」になると、本人が健康保険や厚生年金に加入することになるため、給与から社会保険料が差し引かれて、手取りが減ることになる。本人が従業員が101人以上の会社に勤めている場合は、「106万円以上」が対象だ。
たとえば、東京都に暮らす40歳未満の人が、年収106万円以上で社会保険加入の対象となる従業員101人以上の会社でパートタイマーとして働く場合、年収が105万円から106万円になると、新たに年間約14.9万円の社会保険料を支払うことになる。収入は増えても、手取りは年収105万円のときと比べて約15万円も減ってしまうというわけだ(税金などは考慮していない)。2024年10月からは、従業員が51人以上の会社に勤める人も「106万円以上」となる。
鈴木さんは、ギリギリ106万円を上回りそうな人には、働き方を見直して、いっそ壁を飛び越え年収を増やすことをすすめたいと話す。ざっくり言うと、プラス25万円を目指せば、社会保険加入直前、105万円のときの手取りとほぼ同じ水準になる。
鈴木さんはこうも言う。
「社会保険加入のメリットも理解した上で、どのような生活を送りたいか、手取りが減ることにどのくらい抵抗があるか、これからどのように生きたいか、という3つの視点で、自分に合う働き方を選んでください」
(構成 生活・文化編集部 上原千穂)