
【コミケ50周年に向け「上限12万6000人での開催を」代表が見据える節目の画像・動画をすべて見る】
2022年末に開催された冬コミ「コミックマーケット101」では、その年の夏コミから来場者数上限を引き上げ。2日間の来場者数は、前回から約1万人増加して合計18万人を記録した。
過去には4日間開催で75万人を動員したコミケは、コロナ禍以降は人数制限など導入。しかしここ2回は、世の中的な感染の状況を踏まえながら徐々に緩和の方向に進んでいる。
2025年に迎える50周年を前に、今のコミケは何を見据えているのか。イベントを運営するコミックマーケット準備会の共同代表・市川孝一さんに話を聞いた。
取材:恩田雄多 文:小林優介
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チケット値下げ、“ふらっと来れる”コミケへの思い
──まずは今回の「コミックマーケット101」を振り返ってみて、率直な印象を教えてください(取材は2日目の午後に実施)。
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会場を見渡すと、誰もいないサークルスペースが少なく、サークルさんの欠席率は大幅に下がっている。夏コミと比べて、“参加しよう”という意識へと徐々に変化しているなと思いました。
──2021年12月以来、1年ぶりにサークル参加したという人も、人数の増加を実感していました。加えて、その要因として、チケット価格の値下げを挙げていました。
市川孝一 今回、アーリー入場チケット(5000円)を除き、コスプレ一般入場チケットは3500円から2000円に、午前入場チケットは2000円から1500円に、午後入場チケットは1000円から500円へと変更しました。
コミックマーケット準備会としては、多くの方々が会場に来られることを重視しています。だからこそ、夏コミの結果を踏まえて、イベントを続けられる範囲で切り詰められる部分は切り詰め、値下げに踏み切りました。
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市川孝一 そうですね。今回、値下げはしましたが、それでもチケットは最低500円。発券手数料が330円必要なので、実質830円かかってしまいます。
人によっては大きい出費と感じる人もいるでしょうが、金額の問題よりも、ふらっと来てそのまま入れる時間をつくりたいという思いは変わりません。
たとえば現在のチケット制の場合、1日目の様子がメディアで報じられて、「ちょっと行ってみようかな」と思った人が2日目に行こうと思っても、チケットが完売していたら入れない。
我々としても心苦しい部分なので、どこまでチケットの価格を下げられるのか、どうすればフリー入場を導入できるのか、そのバランスや方法を探っています。
──来場者が増える一方で、印刷会社に話を聞くと、サークルがつくる新刊の数はコロナ禍前と比べるとまだまだという声もありました。準備会として、より新刊が増えるような施策は考えていますか?
市川孝一 コミックマーケットはあくまでも器であり場であると考えています。もちろん、新刊が増えればそれだけ新しい本に巡り合う機会が増える、それ自体は我々としてもありがたいし嬉しい。
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──コミケとしては、創作の場であり続けることが重要ということですね。
市川孝一 そもそも「つくってほしい」と言われて簡単につくれるものではないので、まずは過去の本でもいいから参加してみてほしいです。
ただ、参加を通じて何を得るか、新刊を出そうと思えるかといった部分に関して、我々は干渉しません。我々にできることは見守ることだけ。でもだからこそ、創作したものを発表できる場として、コミケットを維持していきたいです。
若手が主導したコミケ初心者ガイド
──今回、「n日目コミックマーケット準備会」というTwitterアカウントを通じて、初心者向けの情報を積極的に発信していたのが印象的でした。以前のインタビューにもあった、新しい世代を意識した展開ということでしょうか?市川孝一 今回は、初めてコミケットに来る人向けに、事前準備・当日それぞれで初心者ガイドをつくったり、Twitterのスペースを使った情報発信を行いました。
それらは新しい世代を意識した展開であると同時に、準備会の若手から「やりたい!」と声が上がった企画でもあります。
「コミケットは知ってるけど、参加するには何をどうすればいいのか?」という疑問に対して、我々の世代が初心者向けの企画を考えると、どうしても玄人目線になってしまう。本当に初めて来る人への意識が抜け落ちてしまう可能性があります。
\ #C101 企画まとめページ /
— ☀️n日目☀️コミックマーケット準備会 (@comiket_air) December 27, 2022
コミケ初心者ガイド(準備編)
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──開催回数100回以上、50年近い歴史があるからこそということですね。
市川孝一 今回は準備会の若手が主導してくれたことで、本当の意味で初心者と同じ目線に立った企画ができたのではないでしょうか。
コミケットには参加する人は、サークルさんも一般の方も準備会スタッフも、何かをしたいという目的意識を持っていると思います。若手スタッフには、やりたいことがあればどんどんやらせてあげたいですし、今後、定期企画にできないかと相談しています。
コミケ50周年に向けて「まずは12万6000人」
──ここからは少し未来の話をさせてください。2022年12月に星海社から発売された書籍『コミックマーケットへようこそ 準備するから準備会』では、過去のコミケで頒布された作品のアーカイブについて言及がありました(※)。個人的にも歴史をきちんと残すという意味でアーカイブは必要だと感じましたが……。市川孝一 私もアーカイブが欲しいと思っている1人です(笑)。とはいえ、本だけでも300万冊以上あります。
電子的なアーカイブをつくるにしても、ただスキャンするだけではなく、いつ頒布された誰の作品なのかといった書誌データも用意しないといけないですし、そもそも、見本誌をコミケット側で自由にスキャンできるものでもありません。
また、通常の本よりも同人誌は開きにくいものが大半ですし、CD-ROMや立体物はどうするのか、そもそものコストなど、考えないといけないことが多い。
※コミックマーケットで頒布された作品の見本誌は、会期終了後、米沢嘉博記念図書館で一定期間閲覧できる。閲覧期間が終了した見本誌は倉庫へ移動され、現在はビル1棟に第1回以降のすべての見本誌およそ300万冊が収められている。
──物理的な量も膨大であれば、保存方法も媒体に応じて考えないといけない。
市川孝一 さらにもっと昔には、カセットテープやビデオテープで頒布していたサークルさんもあったので、どうやってそれらにも対応していくのかも考える必要がある。
文字通り大変ではありますが、50周年も目前に迫っているので、これまでの節目の年と同様に、歴史をきちんと記録として残していくことは改めて大切だと思います。
──では最後に、直近の未来として2年後に迎えるコミケ50周年に向けて、現時点での展望を教えてください。
市川孝一 まずは、来場者数を現在の東京ビッグサイトの上限である1日当たり12万6000人に近づけること。これは50周年はもちろん、今後のコミケットを通じてという意味合いが強いです。
その上で、できることなら2019年以前のような状況に戻していきたい。当然、まだまだ時間はかかると思いますが、実現するためにもコミケットを継続していきます。
──周年という意味では、30周年や40周年時に開催された「コミケットスペシャル」(※)など、通常とは異なる特別なイベントも考えているんでしょうか?
市川孝一 選択肢のひとつだとは思いますが、正直、具体的なことはこれからです。あと2年かけて、何ができるのかを考えていこうと。
とはいえ、繰り返しになりますが、まずは次の「コミックマーケット102」をはじめ、今後のコミケットをきちんと開催する。若いスタッフにも「やりたいことがあれば言ってほしい」と伝えているので、通常のコミケットの規模を大きくしつつ、その中で50周年のアイデアを練っていこうと思っています。
※コミックマーケット準備会が主催する同人誌即売会で、夏コミ・冬コミとは別に、ほぼ5年ごとに様々な節目で春頃に開催されていた。リアル開催は、40周年のタイミングとなった2015年の「コミケットスペシャル6 〜OTAKUサミット2015〜」が最後。