自然の恩恵をうまく活用 岩手・松川温泉松楓荘が備えし温泉トラルヒーティング

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2023年01月28日 18:01  おたくま経済新聞

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自然の恩恵をうまく活用 岩手・松川温泉松楓荘が備えし温泉トラルヒーティング

 岩手県にある「松川温泉松楓荘」は、全国でも非常に珍しい送迎用の「ボンネットバス」に乗って向かうことができる旅館。


 豪雪地・岩手の山間部にあるため、冬シーズンは辺り一面雪化粧。非常に厳しい寒さになるのですが、館内は自然の恩恵のちょっとした応用で温暖な環境です。宿泊客がその様子をTwitterで報告しました。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


「今日泊まってる温泉宿、暖房無いし布団は薄いし夜絶対寒いなー、と思っていたら何故か部屋がずっと暖かい。よくよく見てみると意匠付きの板の裏に管が通されていて、手をかざすとぽわっと暖かくて最早ストーブのよう。温泉の熱でこんなに暖が取れるのか…と感動した」


 この日、Twitterに上記のつぶやきを行ったのは京都府在住の学生、べーたさん。辺境地にある宿を旅することを趣味にしている人物です。


 「東北へ一人旅をしようと思っていたところ、屋根に大雪が積もった松楓荘の写真を見つけ、自分の好みにぴったりだと感じたのがきっかけです。『ボンネットバス』に乗って向かうことも理由のひとつでしたね」


 冬休みを利用して、遠路東北へ向かったべーたさん。期間中は様々な場所に降り立ち、その様子を日頃の京都の代わりに、現地レポートしました。今回反響を集めた「松川温泉松楓荘」は、1月5日の宿泊場所として選んでいます。


 ボンネットバスに加え、矢継ぎ早な鉄道旅もあり、夕刻に宿に到着したべーたさんは、そのままひと眠り。数時間後目を覚ましたとき、体が全く冷えてないことに気づきます。


 「大雪の中の木造旅館では、主にストーブなどで暖を取るんですが、その中で寝ると、体が冷えるのはもちろん、のどを痛めることもあるんです」


 ところが、この日は体がぽかぽかでした。その秘密が、壁下に取り付けてあった意匠付きの板の「裏」にあったというわけです。


 「それが『地熱発電』の蒸気だったんです」


 実は、松楓荘がある岩手県八幡平市(はちまんたいし)の松川温泉には、日本初の地熱発電所である「松川地熱発電所(出力2万3500kW)」が存在。そこで使われた蒸気の一部が当館にも供給されているのです。


 「『こんな仕掛けがあるんだ!』と感動でした」


■ 松楓荘にも聞いてみた

 起床時の衝撃そのままに、寝ぼけまなこで行ったべーたさんの投稿には、結果1万を超えるいいねが寄せられる反響となりました。


 これに対し、当の松楓荘はどう感じたのか。編集部では電話取材を行っています。


 「え、そうなんですか?」


 取材に応じてくれた女将さんから開口一番返ってきたのは、まさかの疑問形。実は松楓荘はSNSアカウントを全く運用しておらず、話題になっていること自体知らなかったようです。


 「これ(地熱発電の蒸気)で話題になった感は正直ありませんねえ。『SNS経由』というのもよく分からないです」


 任に就いて40年になるという女将さんですが、どうにもピンとこないとのこと。とはいえ、SNS上では、べーたさんの他にも多くのユーザーが松楓荘の宿泊報告をしており、一定以上の人気はあることは間違いないようです。


 今回話題となった地熱発電の蒸気ですが、松楓荘では、松川地熱発電所より直接購入して、全部屋に暖房設備を整えているとのこと。それを活用し、夏には野菜を、冬にはべーたさんも投稿しているゆで卵のサービスを実施しています。


 日本初の本格的な地熱発電所であり、地下から蒸気を組み上げる方式をとる松川地熱発電所は、かつては昭和天皇・皇后両陛下も視察に訪れるなど、八幡平にとっての誇りです。とはいえ、竣工し運転を開始したのは、今から60年近く前の1966年のため、正直なところ目新しさはないですよと女将さん。


 セントラルヒーティングならぬ「温泉トラルヒーティング」に加えて、松川にかかる木製の吊り橋を渡っていく洞窟岩風呂も松楓荘を語る上では欠かせない名物です。土砂災害のため、一時期閉鎖していましたが無事復旧し、開湯から280年目となる2023年も変わらず営業しています。



<記事化協力>
べーたさん(@onecuprain)


<取材協力>
松川温泉 松楓荘
岩手県八幡平市松尾寄木1-41


(向山純平)


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