写真 これまで一気に上れた階段を途中の踊り場で一息つかないと上れない、青信号に間に合うように小走りすると息切れがして途中であきらめる、休み休みでないと家の掃除をできない、朝から足がむくんで靴がきつくなった、疲労感がとれない、1週間で2〜3kg体重が増えた……心不全でよくみられる症状です。心不全は、心臓から血液を送り出す力が弱まった状態で、悪化すると命にかかわることも。早期に発見して改善に努め、心臓の機能を長く維持することが肝要です。本記事は、2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。
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■心不全では心臓のポンプ機能が低下する
健康な心臓は、1分間に60〜100回収縮し、1回ごとに60〜80ccの血液を送り出しています。送り出された血液は全身をめぐり、細胞に酸素と栄養分を運びます。心不全はこの心臓のポンプとしての機能が低下した状態を指します。
息切れ、疲労感、むくみは心不全であらわれやすい症状です。全身をめぐる血液量が減少するため、酸素や栄養分が不足し、息切れや疲労感が起こります。また、心臓の押し出す力が弱まることで血液がとどこおりがちになって(うっ滞)、水分や老廃物を排出しにくくなり、足のむくみや体重増加がみられます。
■重症になると安静にしていても息苦しくなる
ポンプ機能がさらに低下すると「重症心不全」となります。
じっとしている安静時でも息がしにくい、横になると息苦しいので座った状態で過ごす(起坐呼吸)、夜間に息苦しくなって目が覚める、などの症状も起きてきます。首の静脈(頸静脈)が腫れてくるのも特徴的です。
重症心不全にならないために、どのような治療を受ければいいのでしょうか。治療によって低下した心臓のポンプ機能の回復は、どこまで望めるのでしょうか。
■すべての心疾患から心不全が起こり得る
心不全は心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症、不整脈、先天性の心臓病など、あらゆる心臓の病気が原因になるといってもいいでしょう。すでにこれらの病気にかかっている人は、心不全のリスクが高く、注意が必要ということになります。また、高血圧や糖尿病、動脈硬化、慢性腎臓病(CKD)、肥満といった生活習慣病など、全身の病気も原因になることがあります。高血圧や動脈硬化など、生活習慣病には症状があらわれにくいものもあり、放置していたら心不全の一歩手前、というケースもあるといいます。
心不全が疑われたら、血液検査、心電図検査に加えて、胸部X線検査・心臓超音波検査(心エコー)・心臓MRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像診断、さらに6分間歩行テスト、心肺運動負荷試験(CPX)などがおこなわれます。
血液検査では、心不全状態になると上昇する「BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)」の値や、腎機能、肝機能などで心不全の状態を評価するとともに、糖尿病などのほかの病気の併発の有無も確認します。画像診断では、心臓の大きさ、形、動き、血液の流れ、弁の様子、肺に水がたまっていないかなどが調べられます。6分間歩行テスト、CPXなどでは、運動耐容能(どの程度の運動に耐えられるか)や、日常生活への影響の程度を調べて数値化します。
さらに必要に応じて、心臓カテーテル検査をおこないます。これは足の付け根の血管からカテーテルという細い管を入れて心臓まで通し、心臓内の圧力や、冠動脈という心臓に栄養を供給する血管の状態などを調べる検査です。心筋(心臓の筋肉)の組織を採取して異常を調べる「心筋生検」をおこなうこともあります。
これらの検査で原因となる病気を突き止め、さらに総合的に心臓の状態を評価し、心不全の重症度を判断します。
■薬物療法を中心に、原因となる病気の治療も
心不全の治療は、症状の改善と、心不全の悪化による入院を減らすことが目標になります。治療の柱は、薬物療法、原因となる病気の治療、生活習慣の改善の三つです。
薬物療法は、おもに次のような働きをもつ薬剤を、複数組み合わせて用います。効果と副作用をしっかり評価しながら、用量や飲み方を細かく調整をしていきます。医師の指示通りに忘れずに服薬することが大切です。
原因となる病気の治療として、次のような治療が薬物療法に並行して実施されます。
済生会熊本病院循環器内科部長の古山准二郎医師は次のように話します。
「心不全の治療は、『薬』『カテーテル治療』『デバイス植え込み治療』の三つを適切に組み合わせていくことが大切です。手術などの負担の大きい治療には耐えられない場合も多いですから、心臓の状態や全身状態に合わせて慎重に治療法を選択します」
■生活習慣の改善は、心機能の維持に不可欠
重症心不全では、日々の生活が心臓の状態を維持することに直結するため、生活習慣の改善が重要です。次のようなことを、医師や理学療法士、管理栄養士など、医療スタッフと連携しながら、実践していきます。
<運動療法>適度な運動で筋力を維持して体力を向上させることが、心臓の負担を減らすことにつながります。医師や理学療法士と相談のうえで運動強度や時間、回数などを決めて、無理せず続けます。<活動の制限>過剰な活動は心臓に負担をかけます。安静にしすぎるのはいけませんが、できることを把握して、無理のない生活を送ります。<食事>とくに気をつけたいのは塩分の摂取量。1日6g未満にします。バランスのよい食事を心がけます。食欲不振が続くときには必ず医師に相談しましょう。また、便秘は排便時にいきむことで心臓に負担をかけます。食物繊維を多くとる、発酵食品で腸内細菌叢を整えるなどで便秘を防ぎます。<水分摂取>体内に水分がたまらないよう、必要以上に水分をとることは控えます。医師と相談して飲水の目安を決めておきましょう。<入浴>入浴は血管を拡張させて心臓への負担を軽くしますが、長湯や熱いお湯、寒い時期の入浴は逆に心臓に負担をかけます。医師と相談のうえで入浴法を決めましょう。<その他の自己管理>禁煙、節酒、かぜなどの感染症にかからないようにする、体重や血圧の把握などに努めます。 立川綜合病院循環器内科医長の布施公一医師は次のように話します。
「患者さんのなかには、薬物療法が非常に効果をあげる人や、CRT−Dの植え込みで心臓の状態がかなりよくなって、活動の制限が緩和される人もいます。少しでもよい状態を維持できるように、あきらめずに治療を続けてほしいと思います」
なお、日本心不全学会では心不全の患者を対象に「心不全手帳」を発行しています。地域や病院でそれぞれに、心不全の治療や生活のしかたについての冊子などをつくっているところもあります。参考にするといいでしょう。
(文・別所 文)
【取材した医師】
済生会熊本病院循環器内科部長 古山准二郎 医師
立川綜合病院循環器内科医長 布施公一 医師
「重症心不全」についての詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、2023年2月27日発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』をご覧ください。
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