【霧雨魔理沙がWikipediaから削除される日 ウィキとファンカルチャーとの最悪な相性の画像・動画をすべて見る】
理由は、日本語版ウィキペディアにある霧雨魔理沙の記事が、2007年4月27日にできて以来16年間、ずっとWikipediaの独立記事作成の目安を満たしていなかったためです。
同人ゲーム「東方Project」に登場する霧雨魔理沙に関する情報はほぼ全て、サークル・上海アリス幻樂団主宰であるZUN氏の手の入った一次資料か、ファンのつくった検証可能性を満たさない情報ばかりでした。
後述しますが、それらは出典に問題があるため、ウィキペディアでは存続できません。議論では、「単独記事としての存続は不能だが、『東方Project』へのリダイレクトとしては存続できる」との意見が見られました。
例えばにじさんじのライバーは、自らの配信履歴や企画内容を振り返るとき、ウィキペディアではなく非公式ウィキを参照します。
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ウィキペディアはもはや、ファンがつくり出していく文化についていけていません。
どういうことなのか？ ウィキペディアンVTuberである筆者が解説します。
霧雨魔理沙の項目がウィキペディアから削除されようとしている
2022年12月30日（金）12:41（UTC）、Wikipedia:削除依頼/霧雨魔理沙が提出されました。
霧雨魔理は、人気ゲームシリーズ「東方Project」に登場するキャラクターで、主人公の一人です。ゆっくり解説に登場する金髪のキャラクターの元にもなりました。もしも削除と決まれば、ウィキペディアから霧雨魔理沙の記事はなくなります。
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具体的に説明するには、専門用語を使うほかありません。出典が一次資料ばかりだったためです。
では、一次資料とは何でしょう。そして、なぜ出典が一次資料ばかりではいけないのでしょう。
ウィキペディアが一次資料を出典にすることを禁止する理由
「一次資料」とは、例えば交通事故なら、目撃者の証言です。何か実験をしたら、結果をまとめた論文です。ある事象について、それに深くかかわった人がつくった資料です。
東方Projectなら、上海アリス幻樂団のかかわったゲームや出版物です。ウィキペディアでは、それを出典にしてはいけないのです。
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以上のルールは、ウィキペディアのガイドラインに明記されています。
ウィキペディアの記事は、公表ずみの信頼できる二次資料（一部では三次資料）に基づいて書かれていなければなりません。（中略）記事が一次資料だけを出典としている状態は避けねばなりません。Wikipedia:独自研究は載せない 2023年1月6日 (金) 05:30
なぜ一次資料を使ってはいけないのでしょうか。
もしも一次資料を使って良いのなら、ろくに査読を受けていない実験結果をもとに、怪しい健康法が書かれるでしょう。自己出版本をもとに、怪しい投資のコツが書かれるでしょう。
ピューリッツァー賞クラスのジャーナリズムやノーベル賞ものの研究でさえも、それがウィキペディアで最初に発表されることになるのであれば、掲載を拒否せざるを得ないのです。Wikipedia:独自研究は載せない 2023年1月6日 (金) 05:30
日本語版ウィキペディアの霧雨魔理沙の記事の、特に削除依頼が提出された直後の版（2022年12月30日（金）12:41（UTC））を見てみます。
『封魔録』など二重カッコで囲まれている漢字三文字は、どれも東方Projectのゲームタイトルや本のタイトルです。すなわち、19ある出典のうちの16が一次資料に基づく出典です。記事の履歴をみても、二次資料に基づく出典は、上の画像の状態が関の山のようです。
削除されても仕方ない状態の記事が放置されていたのです。では、いったいなぜ削除されても仕方ない状態の記事が放置されていたのでしょうか。
もちろんウィキペディアの質が低下していることも原因の一つだと言えるでしょう。そしてそれとは別に、東方Projectの特性も大きな原因の一つだと考えられます。
ファンがつくり出していく文化
もともと同人ゲームである東方Projectは、同人活動が非常に盛んです。
同人ゲームが大手企業の据置型ゲーム機に移入されたり、同人音源がサブスクリプションに対応したりなど、ファンによる創作物のウエイトが、他ジャンルより大きいという特徴があります。各キャラクターの設定や性格もまた、ファンによる創作が大きくかかわっています。
すると、東方Projectに関する情報はどうなるでしょうか。上海アリス幻樂団による一次資料と、ファンによる同人作品が大半を占めるようになるのです。
この状態で、霧雨魔理沙の記事をウィキペディアに書くことを考えてみましょう。
公式サイドから出されたキャラクター設定には、一次資料を出典として付けることになります。同人発のキャラクター設定には、出典を付けずに書くほかありません。同人誌を出典にするわけにはいかないからです。
霧雨魔理沙の記事には
「魔法の森に住む人間の魔法使い」
「金髪のロングヘア―」
など、キャラクターを説明するうえで必要不可欠な情報が載っています。
しかし、この記事を書いている時点で、上に挙げた記述には出典がありません。出典がないからと言ってこれらを除去してしまうと、もはや調べものの役には立ちません。
「削除されても仕方ない状態の記事が放置された」というよりも、「適切な出典がろくにない状態が続かざるを得なかった」と言った方が正確でしょう。
最終的に霧雨魔理沙の記事は、
このままでは問題がある
東方プロジェクトへリダイレクト（転送）するのが適当
リダイレクト化のための議論をはじめましょう
という結論が出て終息しました。
現在、リダイレクト議論を始めないことによって、記事を存続させている状態です。
ファンカルチャーにおける「非公式ウィキ」の重要性
ファンによる活動が盛んなのは、東方Projectに限りません。YouTuber、VTuber、またゲーム実況者などの配信業もまた、ファンによって文化や設定が大きく左右されます。例えばVTuberならファンネームやハッシュタグはファンの意見を聞き入れて決める場合がほとんどです。
「いつ何のゲームを実況したのか」「いつ何の企画を行なったのか」あるいは配信中に漏らした細かな情報などが、ニュースや書籍になることはほぼありません。つまり、本人の配信という一次資料しかない、という例が大半を占めるということです。その場合、ウィキペディアの各種ルールに抵触し除去されてしまう内容となってしまいます。
ファンによるWikiならそれら全てを網羅することができます。このようなファンによるWikiは一般に「非公式ウィキ」と呼ばれています。この場合、「公式ウィキ」あるいは「本家ウィキ」はウィキペディアを指すことになります。
「非公式ウィキ」の情報量と正確さは、配信者自身が活動を振り返ったり、配信計画を練るときに調べものに使ったりするほどです。
もちろんウィキペディアでは、そのような使い方はできません。そのような使い方をそもそも想定していません。
東方Projectのような同人文化も、YouTuberやVTuberといった配信文化も、ファンがつくり出していくファンカルチャー文化は今後も盛り上がっていくことでしょう。
そしてファンがつくり出していく文化と、ウィキペディアとの相性は相当よろしくないと言わざるを得ません。
ウィキペディアに載ることを目標にしない方がいい
もしこの記事を読んでいるあなたが配信業に関わっている、または今から関わろうとしているなら、いわゆる「本家ウィキ」のことは全く忘れ去った方が良いでしょう。ウィキペディアのルール上、ファンがつくり出した文化を掲載するのが非常に難しいからです。
あるいは、あなたの推しが配信者の場合も同様です。
ファンがつくり出した文化をウィキペディアに載せるには、二次資料が必要です。二次資料とは、配信者本人でもなく、その関係者でもない第三者が書いた一本の記事のことです。一冊の本のことです。
ウィキペディアに載せるには、途方もない努力が必要です。
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