ぬまた・あきひろ/1975年、東京都生まれ。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。「ぬまっち」の愛称で講演活動なども(photo 横関一浩) 性別で区別しないことを伝えようと、各学校でジェンダー教育を重視した取り組みが進められている。小学校教諭の沼田晶弘さんのクラスでは、男女の「区別」の発想がなく、あだ名かファーストネームで呼び合うという。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。
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お互いの名字を「さん付け」で呼ぶことを奨励する小学校が増えているようです。「男の子は『くん』、女の子は『さん』で区別するのはおかしい」という意味で「さん付け」に統一をという議論は、以前からありました。そこへ近年、「あだ名がいじめにつながる」との視点から「では『さん付け』で」という流れも加わった形です。私は自分のクラスで「さん付け」で呼び合うことはしていません。
まず「男女の呼び方の区別をなくして『さん』に統一を」については、そもそもの発想に違和感があります。わざわざ「区別をなくす」という話を始めてしまう時点で、そこには「男女を区別する意識」が、もっといえば男女差別もあると思います。
学校で「○○委員会に男女1人ずつ」などありますよね。いやいや、クラスから2人でよくないですか、といつも思います。以前、私の6年生のクラスでは一番足の速い子が女子でした。「やっぱ、スーパースターはこいつだ」となってその子が運動会の応援団長になったこともあります。男子か女子かなんて誰も考えていませんでした。
私はそこに「区別」の発想がありません。私のクラスでは「くん」も「さん」も付けません。あだ名か、ファーストネーム(さんやくんも付けない)で呼び合うようにしています。
大事なのは、まずは私と子どもたちとの関係値がしっかりとできた上で、クラスでもあだ名やファーストネームで呼び合うように持っていくことです。
授業初日に、子どもたちに「交換条件」を出します。「先生のこと『ぬまっち』と呼んでいいよ。その代わり、先生はあなたのことをファーストネームで呼ぶよ。いい?」と。「いいよ」と半分くらいが答えますが、半分くらいは保留。そしたらこちらもまだ、ファーストネームでは呼びません。だんだん関係ができていき、1週間もすると全員からオッケーが出ます。
あだ名についても「関係値ができてから」が重要です。いじめの報道で聞くような「○○豚野郎」などは「あだ名以前」の悪質な呼び方。いい関係ができている、自分の認める人からつけられたあだ名は、うれしがっている子もたくさんいます。もちろん授業中など「さん付け」で呼んだほうがいい状況もある。TPO(時、場所、場合)さえわきまえれば、「さん付け」にこだわる意味を感じません。
どう呼び合うにしても、お互いの信頼関係を高めた上で、がいちばん大事。エビデンスも不確かな「あだ名はいじめにつながる」という「余計なリスク」を排除する目的で議論が生まれている状況はおかしいですし、「『さん付け』に直せば、それでうまくいく」みたいな論調には違和感を持っています。
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年1月30日号