「たばこ」ってどうやって作られてるの? 沖縄・伊江島の葉たばこ農家の作業現場で見た風景

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2023年01月30日 10:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
「たばこは心の日曜日だよ。ホッとするでしょ? 」



笑顔でそう語ったのは、葉たばこ農家の前田将也さんだ。愛煙家からすればこんなにしっくりくる格言もないだろう。


煙の苦味や香りなど、たばこの魅力を挙げればキリがないが、「心に安らぎを与えてくれる」という点については、ほかの何にも代えがたい魅力がある。しかし、そのたばこが実際にどう作られているかということは、なぜかほとんど知られていない。



普段、嗜んでいるたばこは、どのようにして生まれているのか。葉たばこの名産地として知られる沖縄県・伊江島を訪ね、葉たばこ農家たちの営みを追った。

■笑顔と笑い声が絶えない葉たばこ農家の作業現場に潜入


「今日はみなさん、お忙しいなかお集まりいただきありがとうございます。それでは今日も頑張りましょう! えい、えい、おーっ!」



元気な掛け声が響き渡ったが、呼応する人はほとんどいない。むしろ女性たちの笑い声がクスクスッと広がり、「そんなのやったことないよ」「急に何さ?」という声も漏れ聞こえてくる。



どうやら我々取材クルーを意識し、アドリブで“それっぽい絵”を作ってくれたらしい。もちろん、ボケ(冗談)も混じっているだろう。いずれにせよ、もともと和んでいた現場がいっそう明るくなったようだ。この後も終始、笑顔と笑い声は絶えない。


2022年12月15日、この日は葉たばこ農家たちが共同で使用しているハウスで葉たばこの種蒔き作業を行った。葉たばこ産業が盛んな伊江島では、12月中頃に苗床に種を蒔き、2月まで育苗してから畑へと移植し、4月から6月の間に収穫の時期を迎える。


苗床で育苗する理由は、種が極めて「微細」だからだ。種はなんと直径約0.5mmで、約1万2,000粒でようやく1gになる程度。しかし、そんな小さな種が120cm以上の草丈に生長し、収穫用として約20枚の葉をつけ、葉は大きいもので長さ約70cm、幅約30cmにまで成長するのだという。


種は事前に白い砂(通称・蒔き砂)とよく混ぜ合わせる。種をそのまま苗床に蒔いてしまうと、色が土と同化し、まんべんなく行き渡っているかが判別できなくなるからだ。


蒔き砂と混ぜ合わせた種は、農家たちがみんなでまんべんなく、何重にも蒔いていく。


種を蒔いたらホースで水をやり……


その上に、ガーゼのようなふわりとした布をかぶせる。これは保湿だけでなく、種が風で飛ばないようにする意味合いもあるらしい。


この日の作業はここで終了。作業時間は約1時間で、今回蒔いた種の量は10農家が1年間で育てる量の約半分にあたるという。成長した苗はそれぞれの農家の畑へと植えられ、収穫後は時間をかけて乾燥させ、JTが全量を買い取る仕組みとなっている。

たばこ産業のユニークな点は、まさにここにある。



ほかの農業と違い、日本の葉たばこ農家は例外なくJTと売買契約を結んでいるので、収穫した作物が売れ残ることもなければ、ひとりの農家が一人勝ちするようなこともない。この日に見たように、葉たばこ農家はそれぞれが独立した社長でありながら、地域のみんなが一体になって作物を育てるひとつのチームでもあるのだ。


■「やっぱり伊江島がいいな」 ― 葉たばこ農家の思い


JTとの契約による影響もあって、葉たばこ産業は数ある農業のなかでも比較的安定感のあるジャンルだと言える。しかし、後継者不足や過疎化など、地方特有の悩みがないわけではない。今の農家はこの状況をどう受け止めているのか、前田さん親子に話を聞いた。


父の将也さんは言う。



「今、伊江島の葉たばこ農家は全部で41人。ピーク時は100人を越していたんですけどね。『奨励品種』と言って、まだ沖縄が本土に復帰する前に、葉たばこを育てることが(行政から)推奨されたんです。大きな産業がない島だったから、島を挙げてみんなで葉たばこを作ろうってなって、奨励金も出た。私が小学2〜3年生の頃に親父が畑を始めたのが最初でしたね」



さらに将也さんは、「昔は機械がなかったから、みんな手作業で。這いつくばって収穫しましたよ」と振り返り、「今は『AP-1』という機械で収穫から植え付けまでできるのでだいぶ楽になったし、生産量も増えましたね」と語った。


畑での作業は時代が進むにつれて便利になった。しかし、息子の将太さんは当初、畑を継ぐつもりはなかったという。



「私は農業が嫌いだったんですよ。大学卒業後に一度畑を手伝うようになったんですが、やっぱりイヤだと思って、23歳のときに千葉県で現場の仕事を始めました。でも、千葉から東京や横浜の現場に通勤するのが辛くて(笑)。渋滞にハマったら5時間もかかるじゃないですか。伊江島なら5分もあればどこにでも着く。やっぱり伊江島がいいなって痛感しましたね」


伊江島に帰った将太さんは、すぐに畑作業を手伝うようになった。実作業については初代である祖父に教わったという。



「畑を継ごうと決めてからは、作業が大変だと思ったこともないですね。覚悟があったというか、もう内地に未練がないから。伊江島のたばこ青年部の活動も楽しかったし。野球したり、お酒を飲んだり……みんな昔からずっと知り合いですからね。今はコロナで活動できていないけど、仕事以外での楽しみもたくさんあったんですよ」



将太さんには現在6人の子供がいるが、後継問題については特に考えていないようだ。



「継ぎたいなら継いでもらってもいいけど、まだ全然考えていません。子どもは『将来、畑で働きたい』って言うこともあるけど、毎日言うことが変わるから(笑)。もし、仕事をしないでフラフラするようなら手伝わせるけど、好きに生きたらいいのかなって思っています」


一方の将也さんは、息子が畑を継いだことについて「やっぱり嬉しかった」と当時の心境を明かす。



「自分も親父から譲ってもらった農地だし、まだ葉たばこ農業がピークの頃だったので。葉たばこは産業として安定しているし、かかる諸経費も少ない。出荷の経費もJTが持ってくれるから、離島には向いている作物なんですよね。値段も安定しているし、“豊作貧乏”になることもない。一度息子が千葉に出て行ったこともあったけど、若い頃はみんな外に出ていくから。私が何を言ってもそれは変わらないと思います」


伊江島の葉たばこ農家は、まだそこまで深刻な人手不足に悩まされているというわけではないようだが、それでも葉たばこ農家の数は減少を続け、過疎化や高齢化といった課題はある。同時に、喫煙者が減少の一途を辿り、たばこを吸える場所も年々狭まっているという現実も無視できない。



しかし将太さんは、「とりあえず、現状維持できればいいんじゃないか」と悲観せず、「生活のためにも、量と質は毎年維持していきたい」と意気込む。これは将太さんだけでなく、葉たばこ農家の仲間たちみんなが共有する目標でもあるだろう。常に明るく、穏やかで、冗談を言い合う農家たちに、悲壮感はまったくない。(猿川佑)

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