「やらされ中学受験」にプロが警告! 子どもの将来を左右する「合格・不合格」より怖い“ツケ”とは

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2023年01月30日 16:00  AERA dot.

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写真はイメージ (c)gettyimages
「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さんです。今回は番外編として、最近感じた中学受験家庭の変化について、お二人が語ります。


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安浪:最近の変化で感じることは、子どももなんですけど、親御さんたちもすぐに正解を聞こうとすることですね。「Hey Siri」と聞くのと一緒で、なんでも聞いてくる。例えば、ある親御さんから「入試本番前にかける言葉はどんなものがいいですか?」と質問が来たので、それに答えたんですね。そうしたら今度は「じゃあ入試が終わって出てきたらどんな言葉をかけたらいいですか?」って質問がきて(笑)。


矢萩:ありますね。朝食のメニューとか、入試本番の待ち時間に私は何をして待っていたらいいですか?とかね。枝葉末節、すべてが不安なんですよね。


■試行錯誤せず効率よくやりたい、という傾向


安浪:移動と移動の間に何を食べさせたらいいですか?とかも。そこで何々はどうですか?って提案すると、「いや、うちの子それ嫌いなんです」とか(笑)。あまり試行錯誤せずに、効率よくやりたい、と思っているのも特徴ですね。例えば、算数は式と図はきちんと書いてください、ってアドバイスするじゃないですか。すると、「いや、うちの子は書きたくないって言っているんです。でも成績を上げたいんですけど」とか。うーん、それは難しいです、って思っちゃいます。


矢萩:確かに、そういう質問は以前より増えてますね。たとえば「最低限漢字と計算はできるようにしておかないと成績は上がりませんよ」と言えば「そうですよね……」となるのが普通だったのですが、「いや、漢字と計算でやる気がなくなっているので、それ抜きでなんとかなりませんか?」みたいな保護者は増えていると思います。



■大人も子どもも傷つきやすくなっている


安浪:そして、今は大人も子どももかつてよりタフさが減っているというか、傷つきやすくなっているから、そのような質問が来ても、やっぱり優しい回答しかしにくいですね。


矢萩:耳が痛そうなことをどう伝えるかは難しいのですが、これ、子育てや受験だけの話じゃないんですよ。僕はキャリアコンサルタントとしても活動しているのですが、キャリアの世界でも「良いフィードバックとは?」という話題はよく出ます。日本では、本人に言いにくいことや耳が痛いであろうことを、いかに傷つけずに伝えるかという技術の話になることが多い。本来は、フィードバックというのはそういうことではないんですが。


安浪:優しいフィードバックばかりしてしまうと、される側は優しいところだけ受け取って、その奥にある本質のところまで取りにいかない、という弊害もありますよね。本人の想像力にもよるのでしょうけど。


矢萩:自分で考えさせるためには、鏡のようなフィードバックが効果的なんです。つまり、何かを具体的にアドバイスするより、「今あなたの状態はこんなふうですよ」と見せて、どう思いますか?というふうに問いかける。自分の状況をいかにメタ認知させるか、ということが大事なんです。たぶん保護者も同じなんじゃないかな。説得しようとするのではなくて「今のあなたはこうですよ、どう思いますか?」っていうやりとりのなかで、アップデートしていくのが本質的なんだろうと思います。


安浪:なるほど。それは参考になります。


矢萩:思考停止している人が多いからこそ、最近中学受験で増えている「思考力試験」に意味があるっていう側面もありますよね。ちゃんと考えられる人に入学してきてほしい、という。


安浪:ある小学校の先生が仰っていたんですけども、例えば理科の授業で実験キットなどを組み立てさせると、昔の子は同じキットでも15分ぐらいでほぼクラス全員が完成できていたのに、今は授業時間全部を使ってもクラスの半分もできないことがあるそうです。できない子たちはまず説明書が読めない、あるいは説明書が読めても自分で作ろうとせずに、できている子を見て、あれでいいんだって正解を見てから取りかかろうとする。自分で試行錯誤して正解を取りにいかなくなった、そこがここ数年の変化だと。



■自分で決める人生、誰かに言われたことをやる人生


矢萩:自分でやるより周りを見る、ということであればゲームもそうですね。自分でやるんじゃなくて実況見ているほうが好きっていう価値観は、確実に増えています。多分そっちのほうが楽なんでしょうね。ゲームだって、クリアするためには技術を上げていかないとできないから、だったら技術が高い人のものを見ているほうがいいじゃん、みたいな。スポーツ観戦に近いものがあるのかもしれない。まあ、これはこれからどう展開していくかわからないですけどね。ただ言えるのはYouTubeを見るにしても、能動的に検索して自分が見たいものを引っ張って見ている子はいいと思うんですが、ある動画を見たら次これはどうですか、みたいなのが出てきて、それを連続でずっと見ちゃっている子たちは心配ですね。自分が見るものすら選んでないんですよ。実際、結構多いと思うんですが。


安浪:かつての教え子で浪人した女の子が、中学受験と大学受験を比べると、中学受験のほうが楽だったって言っていてびっくりしたんですよ。中学受験のときは顔に生気がなくて、遊びたい、受験やめて公立に行きたい!と親子でしょっちゅうもめていたので……。そうしたら、大学受験は予備校には行っているものの、自分でやることを選んでいかないといけない。でも、中学受験の時は、塾や家庭教師の先生に言われたことだけやっていればいいから楽だった、って振り返りをしてました。


矢萩:それだけ自己決定することがストレスになっちゃっている、ってことですよね。


安浪:はい。それは「やらされ中学受験」の怖い側面でもありますね。


矢萩:自分でやることを自分で決められる人になるか、誰かに言われたことをひたすらやる人になるか。そこで二極化して、格差が出てきてしまう。今、それがより加速化しているようにも思います。


安浪:子どもが親の言うことをよく聞くと、親は「よくできる素直な子」って思いがちですが、気をつけたいところですね。


矢萩:誰かの言うことに従うにせよ、それを自分が能動的に選択してるんだったらいいんですけどね。「僕は言われたことをやるほうが幸せなんです。そっちで生きていきます」って。でも、なんとなくそうなっちゃって、なんか人生つまんないな、とか愚痴っているならもったいないな、と思いますね。


(構成/教育エディター・江口祐子)


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  • 厳しいこと言わせてもらうが、試験会場に親は付いて行くなよexclamation ��2子どもが1人か友人同士で試験会場に行けないのなら、受験と通学に必要な能力がないと思うexclamation ��2
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