
1月29日、サンティアゴ・ベルナベウ。王者レアル・マドリード戦で、"古巣"に戻ってきたレアル・ソシエダの久保建英(21歳)は、際だった活躍を見せている。今シーズン、レアル・マドリードから完全移籍したわけだが、「手放したのが惜しい、買い戻すべきではないか」と思わせるほどの出来だった。試合はスコアレスドローだったが、自軍に勝ち点1をもたらし、レアル・マドリードから2ポイントを奪い取った形だ。
「タケ(久保)は復讐を果たした」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の辛口記者も、その価値を認めるほどだった。
「タケのプレーは左利きで好みの選手だった。正直に言って、ベルナベウでこのようなパフォーマンスができると思っていなかった。しかし今日は(ティボー・)クルトワに迫って、戻ってはヴィニシウス(・ジュニオール)と守備で格闘し、出色の出来だったと言えるだろう」
久保は、スーパースターの気配を纏いつつある。
今や一挙手一投足が注目され、試合当日のスペイン大手スポーツ紙『マルカ』の一面を、ブラジル代表ヴィニシウス・ジュニオールとともに飾るほどだった。日本人選手がリーガ・エスパニョーラでここまで高く評価されたことは初めてだろう。レアル・マドリード戦後のインタビューでの回答でさえ、「記者、リポーター、選手、監督を全員同時に呆気にとらせるほどの傑出した分析だった」と称賛されるほどだ。
久保の価値は、なぜ高騰しているのか?
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「ゴールが足りなかった」
レアル・マドリード戦後、久保自身が自戒したように、「決定力不足」という批判もできなくはなかった。しかし、プレーに目の肥えたスペインでは短絡的な現象は起きない。アウェーのベルナベウで堂々と戦い、攻守の軸になることがどれほど難しいか。それは、たまたま1点をとる以上の評価に値するのだ。
前半10分、4−4−2のトップ下で先発した久保は、トニ・クロースに対し、鋭いプレスを仕掛け、見事にボールを下げさせている。何気ない前線からの守備だったが、これで圧力を回避し、チームのペースを回復。16分には、左に流れた久保がタメを作って、アイエン・ムニョスの左クロスが敵に当たったところ、こぼれ球をアシエル・イジャラメンディが蹴り込み、初めてのチャンスにつながった。
【「ボールを触るたびに攻撃が好転」】
その後も、久保はラインの間でボールを受け、ゲームメイクにも参加し、苛ついたセンターバックのエデル・ミリトンから、うしろからのファウルを浴びている。戦力的には不利なチームに、要所で猶予を与えていた。後半6分にはプレスバックしナチョからボールを奪い取ると、そのままカウンターに入って、アレクサンダー・セルロートに決定的なスルーパスを送った。
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そして後半、まだ試合勘を取り戻せていないミケル・オヤルサバルと、この日は低調だったブライス・メンデスに代わって、パブロ・マリン、ロベルト・ナバーロという若手が入って4−2−3−1に布陣を変更すると、久保が右サイドでチームを牽引した。
後半15分、P・マリンとのワンツーから右サイドを抜け出し、慌てて追いついたドイツ代表アントニオ・リュディガーをあざ笑う股抜きの一撃を放つが、これは名手クルトワに阻まれる。後半22分には、R・ナバーロが奪い返したショートカウンターでは、久保はリュディガーの背後、エドゥアルド・カマヴィンガの前をとって、パスを呼び込む。これも最後のタッチが大きく、ティボー・クルトワと交錯してチャンスを逃した。
久保は攻守の中心だった。
最後の10分、チームはレアル・マドリードの圧力を受け、苦しい時間帯だったが、そこでも真価を見せている。クルトワへのプレスでマイボールにし、自陣に戻って相手の攻撃にふたをし、終盤にはパスカットからカウンターにも入って、勝機を探しながら時間を稼いで、引き分けに貢献した。
「久保はふてぶてしく、鮮やかさで、知的だった。すばらしいクオリティーの持ち主であることをベルナベウで示した。レアル・ソシエダの真のチャンスメーカーで、スーパーゲームをやってのけたと言える。ふたつの決定機をつかんだが、彼がボールを触るたび、攻撃は好転。あまつさえ、守備のタスクもしっかりこなしていた」
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スペイン大手スポーツ紙『アス』の寸評は、過不足がない。ゲームMVPは、いくつもの決定機をセーブしたGKアレックス・レミーロだろうが、チーム全体を支え、スペクタクルを生み出していたのは久保だった。
久保にとって、イマノル・アルグアシル監督が率いるレアル・ソシエダが最高の居場所だったことは間違いない。「ボールありき」でコンビネーションプレーを重んじるチームだからこそ、十全に力を発揮できている。試合を重ねるたび、彼自身もチームを革新させつつある。布陣、配置された選手にかかわらず、プレーに適応している点は瞠目に値する。重鎮ダビド・シルバが不在でも、レアル・マドリード相手に互角に戦えることを証明した。
「何も失うものがないっていうのはありますけど、いいトレーニングをして、いいゲームができて、そのいい雰囲気に後押しされているのはありますね」
試合後、久保はリーガ3位のチームと自身の好調を重ね合わせるように語った。好循環に支えられているのだろう。開幕前から考えたら、劇的に評価を変えた。この先にまだ物語はありそうだ。