皇后さまは昨年12月9日、59歳の誕生日を迎えた(写真:宮内庁提供) 最近、皇后雅子さまのファッションは白が続いている。何を着ても自由ではあるが、少し気がかりだ。皇后陛下のファッションを考える。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。
【写真】三の丸尚蔵館の収蔵品を見ながら笑顔で会話を交わす天皇ご一家* * *
東京国立博物館に「博物館に初もうで 兎にも角にもうさぎ年」を見に行った。天皇陛下と卯(う)年生まれの皇后雅子さまが、1月23日にお忍びで鑑賞したと報じられていたからだ。
うさぎだけに白っぽい作品が並ぶかなーと予想していたが、実際はカラフルなうさぎもたくさんいた。江戸時代の火事装束には赤いうさぎが鎮座し、明治時代の刷り物では赤と緑のチェック柄のマフラーを巻いたうさぎがにわとりと話していた。
と、色の話をしたのは訳がある。最近、雅子さまが白いのだ。着ているものが、かなりの確率で白い。昨年12月9日、59歳の誕生日に公表された写真・ビデオが白のスーツで、インナーも白だった。元日に公表された天皇ご一家のそれも白のスーツに白のインナー。襟の形や合わせた真珠のネックレスなどよく見ると違うのだが、一瞬、同じ服かと思うほど似ていた。
■元気のバロメーター
それからも「新年祝賀の儀」(1日)のロングドレスが白、「新年一般参賀」(2日)のそれもほぼ白(ファッション誌は「エクリュ」と表現、フランス語で「黄みがかった白」だそうだ)だった。「講書始の儀」(13日)は水色のドレスだったが、「歌会始の儀」(18日)では再び白(「オフホワイト」と紹介するメディアも)になった。皇宮警察本部の年頭視閲式(20日)はコート、パンツ、帽子がすべて白(エクリュかもしれない)で、福島県の特別養護老人ホームの入居者とのオンライン交流(25日)もオフホワイトのジャケット&白いインナーだった。
「博物館に初もうで」で、雅子さまはどんな服装だったのだろう。TBSが車内から笑顔で手を振る両陛下の姿を撮っていたが、雅子さまの服装は映っていなかった。だから会場にいたカラフルなうさぎたちに、「雅子さまもカラフルな服だったかも」と想像したりした次第だ。
と、ここまで書いてきたものの、雅子さまの着る服なのだから、色も形もお好きなものを着ればよいことだとは承知している。余計なお世話と知りつつ、白続きが少し気がかりなのだ。
ファッションと元気さとは比例する。長年、「会社に何を着ていくか」に悩んだ者としての実感だ。元気なら出勤前の服選びも楽しい。が、そうでないと、考えるのも億劫(おっくう)だ。そんな観点で雅子さまの誕生日ごとに公表される写真をご成婚から見ていくと、やはり服装は元気のバロメーターだと思う。
「適応障害」と公表された前後(2003〜05年)は写真の公表はなく、06年に復活してからも控えめな色の服装が多かった。それが代替わりの決まった17年にワインレッドになり、令和になった19年はゴールド、20年は光沢あるパープル、21年は再びゴールドと“華やか”が定番に。それが一転、22年が白で、誕生日以後も白が続いている。
■「プレタ路線に戻った」
元朝日新聞記者でジャーナリストの堀江瑠璃子さんは、文藝春秋2月号に寄稿した「美智子さま・雅子さま・愛子さま『華麗なるお召し物の系譜』」で雅子さまの最近のファッションについて言及していた。59歳の誕生日ファッションについては、「新調されたらしい(もしかすると、プレタポルテ)へちまえりの白のスーツ姿で、インナーも白、それに二連の真珠のネックレス、真珠のピアス」と描写し、「かつての雅子さまのセンスとは違うような」とも書いていた。
ポイントは「もしかすると、プレタポルテ」だと思う。プレタポルテ(=高級既製服)に対し、皇室ファッションの王道は「オートクチュール」と堀江さん。オートクチュールの定義は後述するが、雅子さまのそれへの第一歩を堀江さんは、1994年の中東訪問時の鮮やかなグリーンのロングジャケットととらえていた。そして、いったんはそこに踏み出したものの、体調の悪化で「プレタ路線に戻ってしまったよう」だと指摘する。
グリーンジャケットのどこがよかったか。「自分を表現され始めたのを感じた」と堀江さん。皇室ファッションに「主張」を求めているのだと思う。オートクチュールを辞書で引くと、「高級衣裳店。また、そこで仕立てられる高級注文服」とある。「注文し、仕立てる」。何を? 自分そのものを。自己を表現し、着る。それが皇室ファッションと、この記事で理解した。
堀江さんは、雅子さまのファッションセンスを高く評価している。だから「現在の雅子さまのファッションは、さびしくて物足りない」とし、「女性のおしゃれ心は、元気な時こそ機能するもの。どうか早く元気を取り戻してほしい」と書いていた。
体調は本人にしかわからない。そのことを承知の上で拝察するなら、うさぎをお忍びで見にいく雅子さまの笑顔からも、体調は悪くないのではないだろうかと思う。その上で、雅子さまに「主張するファッション」を求めるのは私も同じだ。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2023年2月6日号より抜粋