オリックス宇田川優希は育成から侍ジャパンへの大出世。覚醒請負人・中垣征一郎が明かす「衝撃の157キロと弾丸フォーク誕生秘話」

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2023年01月31日 12:02  webスポルティーバ

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 宇田川優希の名前が全国区になったのは、昨年の日本シリーズ第4戦だ。

 オリックスの先発、山岡泰輔が招いた5回ワンアウト3塁のピンチで登板し、三振が欲しい場面できっちり三振を奪った宇田川は、6回もマックス159キロのストレートとバットに当てるのが至難の業に見える鋭いフォークで三振を奪う。

 お立ち台では質問に対して「ありました」「うれしいです」「なりました」と3つの短文だけで答え、初々しさを感じさせた。日本一に輝いたオリックスが流れを引き寄せたのは、間違いなく第4戦で回跨ぎをした宇田川のあまりに力強いピッチングだった。

 2022年のシーズンが始まった時には育成選手だった宇田川は7月末に支配下登録され、8月以降、ホークスを差したバファローズに欠かすことのできない中継ぎの切り札となる。そして今、WBCを戦う日本代表に選ばれるところにまで一気に駆け上がった。宇田川にいったい何が起こったのか──その進化に深く関わっていたオリックスの巡回ヘッドコーチ・中垣征一郎がそのプロセスを詳(つまび)らかに語る。




【きっかけは入来コーチのひと言】

── まず中垣さんが宇田川投手に目をつけたきっかけはどこにあったんですか。

「昨年の一軍は夏場以降、リリーフ陣の頭数が足りなくなるであろうことは想像できていました。そうやって考えたとき、リリーフとして戦力になる可能性が非常に高いと思える候補が、宇田川を含めて3人いたんです。彼らには先発の適性もありましたが、その時期から2軍の先発として徐々にイニングを伸ばしていこうと考えたら、夏場以降の一軍に間に合わせるためには時間が足りない。でも短いイニングだったら、一軍で勝負どころに投げられると思いました」

── 3人というのは?

「山颯一郎と宇田川、セサル・バルガスの3人です」

── そして実際、シーズン後半から日本シリーズにかけて、山颯一郎投手と宇田川投手はリリーフの切り札として活躍しました。

「颯一郎と宇田川に関しては、7月から8月のどこかのタイミングでは一軍で仕事ができるはずだと、そう思っていました」

── その時点で育成選手だった宇田川投手を7月末の期限ギリギリで支配下登録に、8月には一軍に送り込みました。彼のどんなところに可能性を感じていたんでしょう。

「その時点でのフィジカルの最大値が高かったということがあります。そういう選手は噛み合わせさえうまくいけば、一気に階段を上る可能性があります。体力×技術=スポーツパフォーマンスの内因というふうに考えると、その内因には心だったり知性だったり、いろんなことが含まれるんですが、僕らが直接、具体的に携われるのは体力×技術です。となれば、体力がすでに備わっている選手は技術の噛み合わせに集中して働きかけることができます」

── どんな技術の噛み合わせを働きかけたんですか。

「そもそも宇田川はフレーム(体格)がいい。背も高くて、しっかりとした骨格をしています。でも、技術を磨くのがそんなに上手なタイプではないんです。投球動作の場合は力づくでねじ伏せることで、本来はできていないことを何となくできている格好に持っていけてしまう。でもそれでは正しい投球動作は長続きしないし、故障につながるリスクもあります」

── 宇田川投手はそういうタイプだったと......。

「彼には技術的な問題がありました。投球動作そのものに問題があって、全力で投げてコンスタントにストライクゾーンにまとまってくるところまでたどり着くとはとても思えなかった。それが僕のなかでパッと色が変わったんです。あれは6月の中旬だったかな......入来(祐作)コーチが『宇田川は何かをはき違えているような気がするんです』と僕のところへ言いに来てくれました。

 入来というのはとにかくいろいろと話をしようとするコーチで、それはもう、しつこいくらい(笑)。その入来が宇田川とよく話をしていたようで、僕に『中垣さんが伝えようとしていることを、アイツはちゃんと理解していないんじゃないか』と言ってくれたんです。そうなのかなと思って、宇田川ともう一度、話をすることにしました」

【魔法のドリルで衝撃の157キロ】

── その時には、どんな話を?

「まず、宇田川に素朴な疑問をぶつけてみたんです。『その右足の使いはおかしいと思う。2人でこうやっていこうと決めたことをやろうとしているふうには見えないんだけど、そこはどうなの?』って......そうしたら『僕は右足で地面を押すためにこのほうがいいと思ってやっています』と言う。いやいや、それはそうじゃない、と......」

── そのあたり、専門的な話になるとは思いますが、具体的に教えていただけますか。

「体重移動をする時に右ヒザを外側に割るような動きになったら、足の裏が地面に噛まなくなってしまいます。そうなれば、当然、地面を押すことなどできない。地面をしっかり押そうと思ったら、右ヒザを割る動きはあり得ないんです。でも宇田川は地面を押すために、あえて右ヒザを外へ割る動きをとり入れていました」

── それはなぜ?

「そのほうが体重移動の際の推進力を得られると思っていたみたいです。しかも右足を使ってる感を自分で得られるんでしょうね。でも右ヒザを外へ割ると、右足と左足がバラバラに離れて、最後に回るとき、円の直径が大きくなってしまいますから、回転動作が難しくなる。クッと回れなくなるんです。

 だからもう一度、筋道を立てて話すところに立ち戻ってみました。『オレはこう思う』『いや、僕はこうだと思ってやっていました』『それは違うんじゃないか』と、互いに忌憚(きたん)なく話をしていたら、どうやら目指すところは同じなのに方法論にズレが生じていることがわかったんです。そこでもう一度、ドリルからやってみようじゃないか、ということになりました」

── "世界のナカガキ"が編み出した"魔法のドリル"ですね。

「また、そうやって煽らないで下さいよ(笑)。動作修正のためのドリルです。それを3回。15分くらいのセッションをたったの3回やっただけなのに、いきなりの大爆発です。もう、ビックリしました」

── 大爆発とは?

「いきなり157キロを投げたんです。それも、本人は『えっ、こんなにラクに投げてるのに、なぜ?』という顔をしていました。今まではヒザが外を向いていたせいで下半身の力が分散して、上半身に頼るしかない投げ方だったんです。でも脚を出す方向が定まった結果、力の向きがまとまりました。あとは、どこで手を出すかのタイミングさえつかめば、ボールは自然とストライクゾーンに収まってきます」

【宇田川のボールは世界で通用する】

── 160キロ近い、しかも力のあるボールがストライクゾーンへ......。

「宇田川に限らず、僕がピッチャーの技術的な修正や改善を試みる時に考えることは、大きく言うと方向とタイミングを合わせることだけなんです。宇田川の場合には右脚の使い方を修正して、体重移動をうまくコントロールすることが最も明確な課題だと考えました。体重移動のエネルギーを狙った方向にうまく得ることができれば、それが次に回転のエネルギーに転化した時の爆発的な力を発揮することにつながります。体重移動からの左脚の踏み込みに、腕のスイングを伴う回転動作を合わせるタイミングをいかに最適に近づけるか......その作業が、右脚の動きの改善をきっかけとして一気にまとまっていきました」

── 宇田川投手については育成選手から一気に日本代表へ、ということで話題になっていますが、WBCではどんなピッチングを期待しますか。

「彼のボールは十分、世界に出られると思います。コントロールへの不安も相当解消されていますし、彼のボールの強さがどれくらいメジャーのバッターに通用するのか見てみたいですね。いや、これ、すごいんですよ......いつの間にか、小っちゃいフォークと大きいフォークを投げ分けられるようになっちゃったんです。手を出すタイミングが合いだしたら、制御しきれなかった大きいフォークも試合で使えるようになったんですよね。宇田川の大きいフォークは、本当にすごい。千賀(滉大/メッツ)投手の"お化けフォーク"に勝るとも劣らないのではないかと思います」

── 中垣さん、では命名して下さい。

「命名? また、そんな無茶ぶりを......」

── だって、宇田川投手、山颯一郎投手のことを中垣さんが"弾丸ボーイズ"と名づけたじゃないですか。

「それも名づけてないけど......では、もうそのままの"弾丸フォーク"でどうですか(笑)」

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