写真:くろずなおき郷本直也と元宝塚トップの貴城けいがW主演を務める、深井邦彦作・演出による舞台『終わりの行方』が1月25日に初日を迎えた。同日の初演前のゲネプロが報道陣に公開された。
年老いた父親の介護を通して、“家族”とは何なのかを静かに鋭く問いかける本作。2022年の年の暮れ、旭陽一(里村孝雄)がひとり暮らししている家で階段から落ちて負傷する。三女の泰子(貴城)とその夫・輝明(郷本)がリビングで助けを求める陽一を発見し、事なきを得るが、その1週間後に長女の明子(小林美江)、次女の裕子(舘智子)らが集まり、認知症の症状も出始めた父の今後について話し合いを持つことに…。
舞台上では、旭家のリビングで現代(2022年)のパートと二十数年前の過去のパートが入れ替わりながら展開する。過去のパートは母親の死後、引きこもりとなってしまった10代の泰子(遥りさ)、幼馴染の輝明(岡野一平)、父・陽一(有薗芳記)を中心に進み、泰子の様子を見に来た教師(辻本みず希)も加わり、4人が“疑似家族”のようになっていく。
この過去パートでは泰子と父の関係は極めて良好に見えるが、現代パートではそれが一転、老いた父の処遇について泰子は「めんどくさい」と本人に向かって言い放ち「施設に入るか、野垂れ死にするか?」と周囲が引くほどの冷酷な言葉と態度を見せる。物語が進む中で、2人の間に何があったのかが明かされていく。
と同時に泰子と輝明が結婚後も子どもを作らないと決断するに至った経緯、妊娠中の姪(鈴木朝代)とその夫(長谷場俊紀)の産前離婚クライシスなど、様々な角度から“家族”にスポットライトがあてられ、「家族になるってちょっとしんどいですよね?」、「別の人が簡単に、家族が保とうとしているものを覆さないで!」などなど、様々な人たちの口から思わず漏れる家族を巡る言葉にドキッとさせられる。
印象的なのは、様々な局面で登場人物たちが浮かべる笑顔だ。母の死を認めまいと元気にふるまおうとする10代の泰子の笑み、老いた父の変化を認めず、ごまかすように姉たちが困惑しつつ浮かべる笑み。中でも、淡々と事務処理をするかのように父に施設に入るようにと冷たい言葉を紡いでいく泰子が浮かべる穏やかな微笑みは……表情豊かな貴城が演じるからこその凄みを感じさせる。
いったい、この家族はどのような“終わり”を迎えるのか?
「終わりの行方」はシアター・アルファ東京にて1月30日まで上演中。
文章:くろずなおき