箱根駅伝「全国化」も地方大学は出場厳しい 1回限りでは埋められない関東勢との実力差

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2023年02月01日 08:00  AERA dot.

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沿道からの歓声を受けて疾走する箱根駅伝5区のランナー/代表撮影
 毎年1月2、3日に開催される東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。関東学生陸上競技連盟(関東学連)が主催する関東の「地方大会」だが、全日本大学駅伝、出雲全日本大学選抜駅伝競走(出雲駅伝)と並ぶ大学3大駅伝に数えられる。そんな箱根駅伝は来年、100回を記念し、予選会の出場権が全国に拡大される。関東勢以外の大学の躍進は見られるのか。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。


【大学順位表】各全国大会での現状の順位はこちら*  *  *


 予選会参加の門戸拡大が全国の学生たちにもろ手を挙げて歓迎されているかと言えば、必ずしもそうではない。咋年11月の中国四国学生駅伝で通算20度目の優勝を果たした広島経済大学の尾方剛監督(同大准教授)は、同大は今年の予選会に「参加しない」と明言する。


「去年6月に門戸拡大が発表された際、選手たちに希望を聞きましたが、参加しないという返答でした。私たちの最大の目標は出雲駅伝や全日本大学駅伝で、そこに照準を合わせて練習しています。その中で距離の長い箱根駅伝予選会にも対応するのは現実的ではありません」


 出雲駅伝、箱根駅伝予選会、全日本大学駅伝は比較的開催時期が近接する。今年の日程は正式発表されていないが、昨年は出雲が10月10日、箱根予選会が10月15日、全日本が11月6日だった。関東の大学の場合、出雲駅伝に出走するのはその年の箱根駅伝上位10校(予選会が免除のシード校)なので「3連戦」にならないが、地方強豪大の場合は比較的短い間隔で3大会に臨むことになる可能性がある。また、出雲駅伝は最長区間でも10.2キロだが、箱根予選会では全員がハーフマラソン(21.0975キロ)を走る。練習方法や練習量も大きく変わるという。


■1回限りで強化はムリ


 尾方監督自身、箱根に憧れ、箱根で輝き、箱根から世界へ羽ばたいたランナーだ。山梨学院大学2年だった第70回大会では10区を走り区間賞を獲得、総合優勝のゴールテープも切った。それでも、「箱根偏重」には異を唱える。


「そのときはオープンカーに乗って甲府市内をパレードまでしたんです。実業団に行ったってそんなことありえません。調子に乗っちゃうし、『勘違い』もしました。箱根の注目度は特別ですが、それに惑わされるのではなく、出場権を得ている出雲駅伝に注力しつつ中距離選手の強化も図っていきます」



 現状では実力差も大きい。全国の強豪校が集まる出雲駅伝、全日本大学駅伝でも例年関東勢が上位を独占する。去年の出雲駅伝では関西学院大学が関東勢の一角を崩して10位に食い込んだが、上位10選手の1万メートル平均タイムで見ると関東の上位〜中堅校との差は小さくない。


 尾方監督もこう続ける。


「現状では我々と関東の大学とは選手層の厚さも全く違います。箱根駅伝の本戦出場を目指す関東の大学では、経営陣が大学の方針としてそれを目標に定め、数年がかりで強化に取り組んでいます。100回大会だけ全国化されても真剣に本戦を目指せる地方大学は多くないでしょう」


 この格差の背景を、陸上解説者の金哲彦さんはこう解説する。


「箱根駅伝が全国的な人気コンテンツとして定着し、子どもたちにとっては『大学長距離と言えば箱根駅伝』になっています。有力な高校生はこぞって箱根を目指せる関東の大学に進学する。予選会に挑戦する地方大学もあるかもしれませんが、はっきり言って『記念受験』以上のものにはならないと思います」


■恒久的全国化に期待感


 現在のところ予選会の門戸が全国に開かれるのは100回大会のみで、101回以降は未定だという。1回限りの全国化では地方大学が本戦出場権を取れる可能性はほぼないと金さんはみる。


「本当に地方大学に箱根に挑戦してほしいと考えているならば、今後ずっと全国化すると表明するしかない。仮にそうなれば地方大学の経営者も陸上長距離により大きなリソースを振り分けるようになる可能性があります。数年後にはおもしろい展開になってくるでしょうし、陸上長距離の裾野拡大にもつながるかもしれません」(金さん)


 箱根駅伝の恒久全国化を望む声は、関東の関係者からも上がる。青山学院大学の原晋(すすむ)監督は、1月4日に出演したTBSの番組で「未来永劫(みらいえいごう)全国化することによって、陸上界の裾野が広がる。サッカー、野球に身体能力の高い選手が集まるのではなく、箱根を目指す多くの若者が全国から育つ。そんな文化が結果として日本長距離界の発展になる」と期待感を口にした。


 恒久的な全国化は関東学連の上部団体である日本学生陸上競技連合などとの調整も必要だ。関東学連の有吉正博会長(帝京科学大学特任教授)も、今回の全国化はあくまで100回を記念するものだと言う。それでも、あの箱根路を全国各地の強豪大学が競い合う絵を夢想する陸上ファンも多いだろう。


 有吉会長が「正月に行われる箱根駅伝は(春からの)本格的な陸上シーズンに向けたスタートでなくてはならない」と話すように、駅伝はオフシーズンの強化手段でもある。箱根駅伝創立の理念でもある世界で戦える選手を育てるために、箱根駅伝の行く末に限らず、大学長距離界全体を俯瞰(ふかん)した取り組みが求められる。(編集部・川口穣)


>>【前編の記事】箱根駅伝なぜ全国化? 「100回を機に原点に立ち返りたい」関東学連会長の思い


※AERA 2023年2月6日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • 箱根駅伝は関東地方大会に過ぎない。そりゃ、わざとですよ。よその地区から来た大学にいきなりシード権取らせないための。
    • イイネ!5
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