「これだからフェミニストは……」という魔女狩り 日本は「真ん中」の軸が男性側に大きく偏っている

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2023年02月01日 16:00  AERA dot.

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被害について訴えるColabo代表・仁藤夢乃さん
作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、フェミニスト批判について。


【写真】北原みのりさんはこちら。*   *  *


 2014年、岡山県で49歳の男が小学生女児をカッターナイフで脅し誘拐、監禁した事件があった。その男の部屋の壁や天井には、びっしりと2次元少女のポスターなどが貼られており、男は犯行の動機を「自分好みに育て、結婚するつもりだった」と語った。その後、『源氏物語』をひきあいに「萌えキャラを批判するなら源氏物語も批判しろ」「少女を自分好みに育てるのは、文学(芸術)作品のテーマであった」という声がSNSやメディアで目立ったことを受け、私は、少女への性虐待を想起させる作品は2次元であっても問題だと雑誌メディアなどで主張した。その後、私のもとには頼んでいないモノが送られてきたり、暴力的な電話やネットでの誹謗中傷に悩まされたりする日々が続いた。


 いつまでこういうことが繰り返されるのだろう、と思う。社会活動家の仁藤夢乃さんが、観光庁が後援する2次元少女キャラ「温泉むすめ」を批判した時も、前衆議院議員の尾辻かな子さんが公共の場での2次元少女広告を批判した時も、2人とも殺害予告をはじめ、ネットでの激しい誹謗中傷や攻撃にさらされた。特に、困難を抱える10代の女性を支援してきた仁藤さんは、その後、避難した女性たちをタコ部屋に押し込めている、生活保護を利用したビジネスをしているといったデマを拡散されるなど甚大な被害を受けている。


 性産業(の業者や買春者)や、ポルノ(またはポルノ類似表現)を批判すると、「これだからフェミニストは……」という声があがり、「フェミニスト」という言葉が魔女狩り認定のレッテルのように使われてきた。フェミニストのせいで自分たちの大切なロリ・コンテンツが攻撃されている、フェミニストのせいで自分たちの大切なAVが攻撃されている、フェミニストのせいで自分たちの大切な性風俗が批判されている、フェミニストのせいで世の中が生きにくい、フェミニストのせいで表現の自由の危機が……ということのようだが、実際にはフェミニストが何を言おうが言うまいが、2次元少女も、AVも、性風俗も、巨大ビジネスとして今日も安泰である。表現の自由に危機が迫っているとしたら、原因はフェミニストではなく、萎縮するメディアと政治の問題だろう。男たちの生きづらさの原因にだって、フェミがそこまで関わっているとは思えない。そこまでの影響力をフェミニストが持っていたとしたら、この日本はとっくにジェンダーギャップ最下位周辺をうろつくような国から抜け出していたはずだし。



 今、仁藤さんが主宰するColaboだけでなく、若年女性の支援に対する批判も起きはじめている。なかでも、「税金が使われる団体で少女だけを支援するのは問題だ。少年も支援しろ」という主張を真面目に繰り広げている人たちが少なくなく驚く。女の子ゆえに巻き込まれる被害を誰よりも知る当事者たちが、当事者たちとつながり支援をする。それが仁藤さんたちが行ってきた活動だ。


「性暴力は誰もが被害にあう」というのはよく言われることだが、実際には、誰もが平等に被害にあうわけではない。加害者は、子供だから、女だから、セクシュアルマイノリティーだからと、相手を選ぶ。また、社会経験が圧倒的に少なく、性の知識を満足に持つ機会を与えられなかった若年女性たちが性産業に巻き込まれ搾取されているのも事実だ。女性たちの現実を可視化し、これは政治で解決すべき社会問題なのだと声をあげてきたのがColaboだ。そういう女性たちに、「女だけじゃ不公平、男女平等なら男も救え」というのはあまりにも幼稚な要求というものだろう。男の子の支援が必要だと思うのなら、そう考える人が動けばいいのだ。


 平等を実現するには想像力が不可欠だとつくづく思う。


 昨年から私は、美容家の吉川千明さんとFM FUJIで「おんなのひとのはなし」というラジオ番組のDJをしている。子宮頸がんの予防啓発をPRする番組だ。子宮頸がんは性交で感染するヒトパピローマウイルス由来のがんだが、海外では女の子も男の子もワクチン接種をすることで、子宮頸がんは絶滅寸前といわれている。一方日本は、そもそも女の子だけが公的ワクチンの接種対象で、ワクチン接種率そのものが低い。ヒトパピローマウイルスはコンドームでは防ぐことができないため、日本はいまだに年間1万人ほどが子宮頸がんと診断され、毎年約3000人が亡くなっている。


 ラジオを通して、医療関係者の話を聴く機会が増えている。先日は、子宮頸がん予防キャンペーンの予算について話すなか、「女性しかかからない病気に税金を使うのは不公平だというクレームが行政にくる」という話が出て驚いた。そもそもの「平等」「公平」であることの「真ん中」の軸が、性差別社会では男性側に大きく偏っている証拠だろう。「中立」と考えられていることそのものが、女性のいない世界でつくられた男性目線のものだったりするのだ。


 そんな「男より」の社会で、長い間放置されてきた女性の困難に向き合うために、ようやく行政や政治が動きだしはじめている。その背景には、仁藤さんをはじめ、女性たちの運動の歴史がある。フェミニストは、女性側から見える社会を当事者として語ってきた。女性のいない社会で、女性の声が軽視される社会で、これまで問題とされてこなかったことを「これは社会が変わるべき問題なのだ」と声をあげてきた。それは時に過激に感じられることもあるかもしれないし、社会に不調和を生むかもしれない。もちろん、フェミニストが全て正しいと言いたいのではない。ただ、フェミニズムは徹底的に女たちの声なのだ。その声に耳を塞ぎ、「男はどうするんだ?」「女ばかり甘えるな」と甘えた声を出す前に、私たちはもっと優しく変われるはずなのではないか。


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  • 『魔女狩り』しまくっているのはあんたら男性蔑視、女尊男卑のキチガイフェミばかりじゃないか。
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