※写真はイメージです「体を冷やしたらだめ!」と言われ続け、「温活」という言葉もすっかり定着している。しかし、67歳に到底見えない若さを誇る南雲吉則医師は、「体は冷やすべきだ!」と主張する。そのワケは?
【図表】水シャワー健康法の初級からステップアップ編はこちら* * *
『50歳を超えても30代に見える生き方』(講談社+α新書)など、数々のベストセラーを出した南雲吉則医師は現在67歳。今も変わらぬ体形と見た目の若さを保っている南雲さんが習慣化しているものの一つに「水シャワー」がある。
約20年前、浴室でシャワーを浴びるときに、水が湯に変わるまで時間がかかっていたが、面倒臭がって水のままシャワーを浴び続けていたことがきっかけだったという。
「冬になっても水でシャワーを浴び、乾いたタオルでゴシゴシ拭いていたら体がポカポカして、手先がピンク色になってきたんです。そこで、昔は乾布摩擦や健康を祈願する水ごりなどがあったことを思い出しました」(南雲さん)
水シャワーを続けているうちに冷え性が改善され、体重も減ってきたことから、「実は体を冷やしたほうが健康にいいのではないか?」と考えるようになったという。
「体温が上がれば代謝が上がり、免疫力も上がるというのはよく言われること。では、体を温めれば体温が上がるのかと言えば、そうではありません。気温が高い赤道直下の人は体温が上がって熱中症になり、北極圏の人は体温が下がって低体温症になるということはないからです。人間は恒温動物なので、脳や内臓などの温度である深部体温を37度前後に保つ体温調節中枢の働きによって、深部体温を一定に保っているからです」(同)
体温調節中枢は、外側から体を温めるほど毛穴を開いて体表面積を広げ、汗をかいて熱を放出する。体表面から体内の熱が奪われるように仕向けて、深部体温を下げていく。
逆に体が冷えると、毛穴を引き締めて熱が出ていくのを防ぎ、深部体温を高く保とうとする。
「寒いとき、体は酸素と一緒に脂肪を燃焼させて深部体温を上げようとします。この働きは、細胞内のミトコンドリアという細胞小器官によるもの。外部から寒さ刺激があると、ミトコンドリアが活性化するのです」(同)
南雲さんは、このミトコンドリアの活性化こそが健康の増進や若さの維持、エネルギッシュな活動に深く関わっていると考えている。ミトコンドリアの活性化には、寒さ刺激のほかに「有酸素運動」や「空腹」も効果的という。そのため、南雲さんは毎日のウォーキングと、1日1食も長年習慣化している。
また、ミトコンドリアは活性化によって細胞内の数が増えるという。数が増えて常に活性化されるようになると、エネルギーの産生力も強化される。それが人を健康たらしめることになる、と南雲さんは力説する。
「私はがんの専門医。がんをいかに予防するかを考え続けてきました。ミトコンドリアを活性化させると脂肪が燃焼してエネルギーの産生力が上がるため、肥満が解消され、免疫細胞の働きもよくなってがんや感染症を防ぐ力が高まります。細胞の生まれ変わりも促すため、若々しい細胞が次々と作られることになります。現在67歳の私が50代と間違われるのも、水シャワーの実践でミトコンドリアを活性化させているおかげです」(同)
それならなぜ、健康のために体を温めるという考え方が主流になってしまったのだろうか?
「私も疑問だったのですが、ポピュリズム(大衆迎合)の一種では? 乾布摩擦や寒中水泳より体を温めるほうが取り組みやすいですし」(同)
どうやって水シャワーで寒さ刺激を与えるのか。南雲さんは真冬でも頭から水をかけているが、寒さ刺激に慣れていない人には抵抗感があるはず。記者も本特集にあたって水シャワーを体験したが、覚悟が決まらず、取材前日の夜に、追い詰められるように挑戦したほどだ。
「健康のために1日1万歩ウォーキングしなさいと言われても歩けないように、水シャワーもいきなりは無理でしょう。ウォーキングならまずは5分というように、水シャワーも手先や足先にかければいい。心臓まひなどが心配であれば、なおさらできるところから始めればいいんです」(同)
長野県在住の管理栄養士・長井佳代さんも、水シャワー実践者で、きっかけは寒中水泳だった。
「仲間と挑戦したのですが、すごく気持ちよくて寒さ刺激のよさを実感しました」(長井さん)
全身に水シャワーを浴びることに抵抗感があった長井さんは、朝起きたらすぐに浴室でパジャマのすそをひざまでまくりあげ、ひざ下に冷水をかける方法を試してみた。
「水シャワーだと全身を拭かなきゃいけないし、ひざ下に水をかけるほうが手軽。一発で目が覚め、一日中元気で活発でいられるようになりました。長野の氷のような冷水をかけるのが日課です。また、寒冷地の長野で歩き回っているうちに背中のぜい肉も落ちました。寒さ刺激で脂肪燃焼効果が高まっているのだと思います」(同)
栄養指導を行う長井さんは、仕事柄無理せず長く続けられることを第一に考えている。寒さ刺激も、ひざから下に冷水をかけるほうがやりやすいと考えた。
「やるかやらないかは本人次第。やらないことでチャンスを逃していることもあるはず。やってみようかなと思う気持ちも、若さや元気につながると思うんです」(同)
取材のために挑戦した記者のその後だが、頭から冷水をかぶるのは時期尚早と反省。風呂から上がる直前に、ひじとひざから先に水をかけるところから始めてみた。すぐにポカポカするのを実感できるため、今のところ毎日続けられている。
昔ながらの健康法とも言える水シャワーによる寒さ刺激、まずは試してみてはどうだろうか。(ライター・吉川明子)
※週刊朝日 2023年2月10日号