中日・山浅龍之介に漂う「名捕手」の匂い。高卒ルーキーが一軍キャンプに抜擢された理由

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2023年02月02日 17:01  webスポルティーバ

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 プロ野球のキャンプも始まり、いよいよ球春が到来した。今年はWBCの報道で持ちきりだが、ルーキーの動向も気になるところだ。そこで密かに注目している無名の実力派を紹介したいと思う。

 昨年のドラフトで、捕手部門では大阪桐蔭の松尾汐恩がいの一番に指名された。身体能力にすぐれ、これまでの捕手とは一線を画す敏捷性のある動きが特徴で、そういう意味ではとても興味深い存在だったが、別の意味で注目したい捕手がいる。

 聖光学院(福島)の山浅龍之介がその人だ。




【納得の一軍キャンプ抜擢】

 昨秋のドラフトで中日から4位指名を受けて入団。4位といっても、捕手では松尾、西武3位の野田海人(九州国際大付)に次いで名前が挙がったのだから、昨年の捕手のドラフト候補のなかではトップランクの評価を得ていたことになる。

 その山浅が新人合同自主トレ中に一軍キャンプ抜擢と聞き、びっくりした気持ちもあったが、納得のほうが大きかった。

 聖光学院時代は2年春からレギュラーマスクを任されていたというから、選手を見る目の厳しい斎藤智也監督からも認められていたということだろう。

 福島県内では勝って当然の存在だった聖光学院が、夏の甲子園14大会連続出場を逃した2年夏もマスクを被り、最後の打者になったのも山浅だった。言葉では言い表せないほどの悔しさを味わったに違いない。

 新チームとなり、2年秋からの1年間、二度の甲子園も含め何度も山浅のプレーを見たが、見るたびにうまくなっているのがはっきりわかった。

 なかでも、守備ワークに非凡な才能がプンプン漂っていた。

 山浅はいつもどこかを見ている。打席に入る打者だけじゃない。グラウンドのどこかに何かヒントはないかと、視線をあちこちにまき散らしていた。バッテリーを組む投手はもちろん、野手のポジショニング、風、雲の動き、ネクストバッターの様子、そして両チームのダグアウトの動き......。

 捕手の"集中力"とは、そうしたものだ。決して一点集中ではない。思い起こせば、福井商時代の中村悠平(ヤクルト)がまさにそうだった。

 腰を下ろしてから相手ベンチを見る捕手は結構いるが、山浅は相手ベンチに視線を注ぎながら腰を下ろしている。市立和歌山高時代の松川虎生(ロッテ)も常に相手ベンチに目を光らせ、敵将からすごく嫌がられていたのを思い出した。

【相手の作戦から足を奪う強肩】

 また山浅に関して言えば、忘れられないシーンがある。二塁走者を刺しにいく牽制だ。

 いっさいの無駄を削ぎとったような一瞬のアクションから、真一文字の二塁送球でランナーを刺しにいくプレーそのものが、すでにプロ仕様だったが、そんな場面を見ながら「もしかしたら......」と勝手な推理を巡らせたことがあった。

 変化球のサインをわざと二塁走者にわかるように見せる。ストレートより緩めのボールになるか、ショートバウンドの可能性がある分、走者のリードが大きくなったところを「待ってました!」と、矢のような送球で仕留めにいく。そんな"ワナ"でも仕掛けているように見えるほど、山浅のピックオフプレーは鮮やかだった。

 走られて刺すタイプじゃない。あらかじめ"肩"を見せておいて、相手の作戦から"足"を消去してしまう、本物の"強肩"の持ち主だ。

 プロではまだそんな場面を披露したわけではないが、ロングのキャッチボールの正確さや、ブルペンでのキャッチングだけでも"一軍キャンプ抜擢"につながる理由はあったはずだ。

 マウンドから見て、いかにも投げやすそうな構え。ショートバウンドの止め方、捕球から返球のリズム......数え上げればキリがないほど、山浅にはピッチャーが心地よく投球できる要素が詰まっている。

 まだキャンプは始まったばかりだが、大きなケガやアクシデントがない限り、山浅は一軍キャンプをまっとうできるのではないかと思っている。

 それは中日の捕手登録がわずか7名というやむを得ない理由によるものではない。あくまで、実力によるものだ。

【実戦力の高い打撃も注目】

 キャンプが進めば、バッティングの筋のよさも次第に露わになるだろう。

 昨年の夏の甲子園で、山浅は16打数4安打(打率.250)と目立ったインパクトは残せなかったが、美しいライナー性の打球、選球眼のよさはバットマンとしても十分に可能性を見せつけた。決して"金属バット"に仕事をしてもらっているタイプではない。

 打の才能の片鱗が見えてくるのは、キャンプ中盤だろう。シートバッティングから紅白戦、そしてオープン戦へと進んでいくなかで、「実戦力の高さ」が持ち味の山浅のバッティングにより注目が集まるはずだ。

 昨年の中日は、正捕手の木下拓哉が120試合でマスクを被り、それに次ぐのが石橋康太の28試合。高卒ルーキーがもっとも食い込みにくいとされてきた"一軍捕手"の座を、昨年ロッテの松川がシーズンを通してマスクを被り続け、定説を崩してみせた。

 アマチュア時代、山浅の"プロ仕様"のプレーを何度も見てきた者として、彼には松川と同じ匂いを感じずにはいられない。キャッチャーボックスにいてくれることの存在感と安心感。「頼もしさ」と表現していいかもしれない。

 松川同様、1年目から一軍捕手の一角に山浅が食い込んだとしても、驚くことはないだろう。それほどに、山浅には捕手としての能力と可能性が詰まっている。

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