「隠れ貧血」は貧血の人の2倍以上 医師「女性の不定愁訴、原因の一つに鉄不足」

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2023年02月03日 17:00  AERA dot.

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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
日本は世界有数の「鉄欠乏大国」とも言われ、ほかの先進国と比べて鉄不足の女性が多い。貧血の予備軍である「隠れ貧血」の段階から対策することが貧血予防になるほか、不定愁訴の改善にもつながることがわかってきた。


【イラスト図解】隠れ貧血、接種したい食材は?*  *  *


 日本人女性の10人に1人、月経がある女性では5人に1人は貧血がある。さらにその2倍以上の人が当てはまると推測されているのが「隠れ貧血」だ。貧血の前段階の状態で「潜在性鉄欠乏症」とも言われる。


 貧血は、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を指し、血液検査で、ヘモグロビン値(血色素量)が成人男性の場合13g/dl未満、成人女性では12g/dl未満の場合に診断される。


 貧血は原因によってさまざまな種類があるが、最も多いのが鉄欠乏性貧血だ。ヘモグロビンは赤血球の中にあり、酸素と結合して全身に酸素を運ぶ。ヘモグロビンの材料となるのが鉄だ。


 体内の鉄が不足すると、まず肝臓などに蓄えられている「貯蔵鉄」が使われる。そして貯蔵鉄も枯渇すると、ヘモグロビン値が低下し、鉄欠乏性貧血となる。


 隠れ貧血は、ヘモグロビン値は正常だが、貯蔵鉄の指標であるフェリチン値が低下している状態だ。世界保健機関(WHO)は、思春期以降でフェリチンが15ng/ml未満であれば鉄欠乏としている。また「日本鉄バイオサイエンス学会」では、フェリチンの基準値を男女とも「25〜250ng/ml」とし、「12〜25ng/ml」は貯蔵鉄の減少、「12ng/ml以下」は貯蔵鉄の枯渇としている。


「平成21年国民健康・栄養調査」によると、フェリチン値が15ng/ml未満の成人女性は約23%。月経があり、特にフェリチンが減少しやすい20〜40代の女性は約48%が15ng/ml未満だ。


■鉄剤で全身倦怠感や精神的な症状が改善


 隠れ貧血は、貧血の予備軍といえるだけではなく、倦怠感や息切れ、動悸、めまい、頭痛のほか、不安や不眠など、鉄欠乏性貧血と同様の症状が出やすいことがわかってきた。西崎クリニック院長の岡田定医師はこう話す。



「女性は昔から不定愁訴を訴えることが多いのですが、原因の一つに鉄不足があるのではないかと考えています」


 女性は月経で鉄を失うほか、妊娠や授乳期で鉄の需要が増す。


 女性の鉄の推奨摂取量は、月経がある世代は1日10・5ミリグラムだが、20〜40代の摂取量は6〜7ミリグラム(令和元年国民健康・栄養調査)。妊娠中はさらに鉄を多く摂取する必要があり、フェリチン値50ng/ml以上が望ましいとされているが、それを満たす妊婦は約2割。鉄欠乏があると、妊娠中に貧血になり、低出生体重児や早産の可能性が高くなることも報告されている。


「欧米を中心とした50カ国以上では国民の鉄欠乏を国家的な問題と考え、小麦粉にあらかじめ鉄を添加するなどの対策をしています。日本ではそうした対策はありません」(岡田医師)


 鉄欠乏性貧血の場合、治療は鉄剤の服用が基本となる。しかし貧血がなくても、フェリチン値が低い人(15ng/ml未満)は、鉄剤を使用することで全身倦怠感のほか、不安などの精神症状も改善するといった報告がある。


「隠れ貧血の人に鉄剤を処方すると以前と比べて『疲れにくくなった』『頭がすっきりした』という人が多くいます。隠れ貧血を改善するには、少なくとも3カ月間、貧血がある場合は貯蔵鉄を増やすまで半年間服用する必要があります」(同)


 代表的な鉄剤「クエン酸第一鉄ナトリウム錠(商品名フェロミア錠50ミリグラム)」は、悪心、嘔吐、腹痛など消化器症状の副作用があり、継続できない人も少なくない。2021年からは、フェロミアに比べて消化器症状が軽いといわれている薬も使用できるようになった。


「服用量は少なくなりますが、顆粒タイプの『フェロミア顆粒』を20ミリグラムに減量、もしくは小児用シロップの『溶性ピロリン酸第二鉄(商品名インクレミン)』で、副作用が軽減されるので、錠剤を継続できない人にはおすすめです。こうした対策をすればほとんどの人が鉄剤を継続できます」(同)



 ただし、貧血がない場合は、鉄剤は保険適用となっていないので注意が必要だ。


■「ヘム鉄」の意識的な摂取を


 市販のサプリメントを使用する方法もある。フェロミア錠の場合、1日1錠で50ミリグラムの鉄を摂取できるが、サプリメントは、多いものでも1日10ミリグラム程度。それでも隠れ貧血の段階であれば毎日継続すれば効果は期待できる。


 食事から鉄を摂取することも重要だ。食事からの鉄の摂取が不十分だと、鉄剤を中止すれば再び鉄不足になる。獨協医科大学埼玉医療センター輸血部部長の樋口敬和医師はこう話す。


「隠れ貧血の段階であれば、食事から積極的に鉄を摂取することで、フェリチン値が改善する可能性もあります」


 鉄には肉や魚に含まれる「ヘム鉄」と、大豆、海藻類、野菜、穀物などに含まれる「非ヘム鉄」がある。両者は吸収率に大きな違いがあり、ヘム鉄は10〜40%、非ヘム鉄は1〜8%だ。しかし日本人の食事中の主な鉄の供給源は非ヘム鉄であることが多い。


「ほうれん草やひじきは吸収率が低く、鉄を摂取しようとすると大量に食べなければなりません。鉄の摂取を意識するなら、ヘム鉄を多く含むレバーや赤身のお肉などが効果的です」(樋口医師)


 女性の鉄不足は、閉経すると解消されるが、高齢になると再び不足する傾向がある。胃酸の分泌が低下して鉄を吸収しにくくなることが一因だ。フェリチン値に加えて、ヘモグロビン値も低い場合は、鉄欠乏性貧血で、何らかの病気が原因になっている可能性もある。


「閉経後の女性や男性で鉄欠乏性貧血がある場合は、潰瘍やポリープ、がんなどによる消化管からの出血の可能性もあるので受診して検査を受けることが大事です」(同)


(文・中寺暁子)


※週刊朝日2023年2月10日号より


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  • 生理がある年齢の女性が「隠れ貧血」なら子宮筋腫か内膜症が必ずある!内科じゃなく産婦人科受診してほしいです。
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