平石洋介は西武の復権へ「チームをガラッと変えないといけない」。山川穂高、源田壮亮ら中堅に望むこと

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2023年02月03日 17:42  webスポルティーバ

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平石洋介インタビュー(後編)

 昨シーズン、西武のバッティングコーチを務めていた平石洋介は、ベンチで地団駄を踏んでいた。

「ここでエンドランを仕掛けられたら嫌やなぁ。来るか? 絶対にアカンぞ、アカンぞ......ああ! ほらもう、やられた!」

 やきもきしていた平石が、心のなかで絶叫する。オリックスとの対戦は、こんなシーンが多かったという。昨シーズンだけではない。中嶋聡が監督になった2021年から、当時ソフトバンクのベンチにいた平石は「心理戦で負けた試合が結構あった」と語る。

「監督が代わると、チームってこんなに変わるんやなって......。もちろん監督だけで勝てたわけではないでしょうけど、中嶋さんが監督になってから、選手はやらされているわけではなく、自ら戦う集団になってきたり、明らかに変わりましたよね」




【オリックスとの差を埋めるには】

 2021年からパ・リーグ連覇を果たし、昨シーズンは26年ぶりの日本一となったオリックスは、平石の言葉から察するに西武の大きな道しるべとなりうる存在だ。

 監督が代わり、チームも変わる──それこそが、今の西武が求めていることでもある。昨秋からヘッドコーチとなった平石はチーム改革の担い手として期待されているからこそ、当時のヘッドコーチで今シーズンから監督となった松井稼頭央をはじめ、球団から呼んでもらったのだと肝に銘じている。

 ユニフォームが変わっても、平石の指導者としての根っこが入れ替わるわけではない。

 西武に来た当初からウォーミングアップの重要性を説く姿勢がそうだ。試合や練習に入るまでの準備を怠らなければ、本来しなくていいはずのケガを防げる。体が整えばメンタルも安定し、高いパフォーマンスを出せるかもしれない。それらは全て、長い現役生活へとつながる一助となるはずなのだ。

「チャラチャラしてそうに見えて、しっかりやっている選手もいるんです。でも全体的には、まだまだぬるいところがあるなって」

 その「ぬるさ」が試合中でも散見されていることを、平石はソフトバンクにいた頃から感じとっていた。

 二度の盗塁王を獲得するなど走力が持ち味の金子侑司が、内野ゴロを打った瞬間にアウトと決めつけ流しながらファーストベースへ走っていた。平石は西武のコーチとなってすぐにそのことを指摘すると、金子は「もう抜きません。約束します」と宣言し、その足に息吹を吹き込み走ってくれた。

 自分が受け持つバッティング面にしてもそうだ。くすぶっていた愛斗に、ピッチャーによってバットを短く持つ必要性など柔軟な姿勢を説き、脱皮のきっかけを与えた。

 西武を指導して1年。まだ気質がぬるかったとしても、しっかり伝えれば選手に響く。平石にはその実感があった。

 そのチームは昨シーズン、リーグトップの防御率2.75と投手陣の安定により、最下位から3位まで浮上した。潜在能力はある。

「ライオンズの戦力が充実していたかと言えば、そうじゃなかったと思うんです。でも、3位までいけた。首位との差もそんなになかった。だから、『もうひとつ工夫できれば』って考え方もできますよね」

 優勝したオリックスとの「3.5ゲーム差」を埋める工夫とは、攻撃陣を指している。

【平良海馬の決断も後押し】

 それは、リーグ最下位だったチーム打率.229の底上げだけではない。金子に促したように、走塁をもっと浸透させる必要がある。常に次の塁を狙う姿勢も攻撃だし、それらが集結して初めて得点力もアップする。

「去年はそういう部分が甘かった場面がいっぱいあったんでね。絶対に隙を見せてはいけない。むしろ、相手が隙を見せたら突いていく。打つだけでなく、そこでも攻めていかないとね」

 昨シーズンまで西武を指揮した辻発彦は、強力な「山賊打線」を築き上げた功労者である。だが、いつまでもそこに甘えてばかりはいられないのだと、平石は強調するのだ。この姿勢を真っ先に示した男こそ、新監督となった松井だった。

「チームをガラッと変えないといけない」

 昨シーズンの西武の戦いからバッティングコーチの平石が感じていたことを、当然のようにヘッドコーチだった松井も懸案事項としてとらえていた。だからこそ、シーズン後の秋季キャンプでは個人のレベルアップよりもチームの連携に時間を割いた。ヘッドコーチとなった平石も、前年同様にウォーミングアップへの意識を高めさせ、選手の体に染み込ませる。

 実りの秋になるはず----そう言えるだけの期間を過ごせたと、平石が首を縦に振る。

「春からだと遅いと思っていたんでね。秋から僕をはじめコーチ陣が口うるさく言い続けてきました。監督が変わろうとしている以上は、選手だけじゃなく我々スタッフもみんなで監督の方針を理解して、『協力して戦っていこう』ってやっていかないといけません。この秋は選手もガラッと変わりつつあるなって思えましたね」

 監督が代わり、チームも変わろうとしている。勝算はまだないが、期待感はある。

 西武復権の第一歩。それは、昨シーズンに奮闘してくれた投手陣だ。チームの「ナンバー2」として全体を整備する立場となった平石は、そこを強調する。

「ピッチャーが去年のように頑張ってくれて、そこに攻撃をいかに工夫して彼らを助けられるか。まずはそこです。まだどうなるかわかりませんけど、攻守が噛み合うようにしていかないといけないですよね」

 ひとつ未知数なポイントを挙げれば、絶対的なセットアッパーの平良海馬が先発に転向したことだ。「簡単に成功できるほど先発は甘くない」という声も聞こえてくる。平石はそこを理解しつつも、「ピッチングの間合いとかペース配分とか、先発として学ぶことは多いと思うけど、あいつのポテンシャルならやってくれる」と、平良の決断を後押しする。

【アクセントになる選手の育成】

 野手に関しては、前述のように隙のない攻撃の確立を目指す。

 打線の中心でもあった森友哉がFAでオリックスに移籍したことは、チームにとって大きな痛手だ。ただ翻して考えれば、選手に山賊打線からの脱却を促すいい機会でもある。

 平石は「アクセントになる選手」を求めている。それは、ボールを見極めたり、ファウルで逃れたりと相手ピッチャーに球数を多く投げさせるような、黒子になれる選手だ。現時点でそのプレーできるのは呉念庭や平沼翔太など限られるが、昨年、開幕スタメンを勝ちとった鈴木将平が、シーズン終盤に平石が望むアクセントを体現できるようになるなど、選手の意識が少しずつ変わろうとしている。

 山川穂高や外崎修汰、源田壮亮ら山賊打線の中心として2018年と2019年の連覇に貢献した主力が30代と、脂が乗ってきている。球団初の2000安打を達成している栗山巧、現役トップとなる454ホームランの中村剛也と、ベテランも打線のスパイスとなる。

 若手、中堅、ベテラン。それぞれの力の集結こそが必要なのだと、平石は訴える。

「若手にはどんどん出てきてほしいし、『これだ』という選手がいれば我慢して使うこともあるでしょう。でもね、クリ(栗山)やサンペイ(中村)たちが後輩たちの相談に乗ってくれたり、山川、外崎、源田らの中堅がもっとその気になってチームを引っ張ってくれれば、いい相乗効果がチームに生まれますよ」

【群雄割拠のパ・リーグを制するには】

 変革のシーズンが始まる。パ・リーグは今年も群雄割拠になるだろう。

 主軸の吉田正尚が抜けたと言っても、生え抜きが育つオリックスは3連覇への死角が少ない。覇権奪還を目論むソフトバンクは、日本ハムから近藤健介、ロッテからオスナ、阪神からジョー・ガンケル。そして、メジャーリーグから有原航平と大型補強を敢行した。

 昨シーズンにBクラスだったチームも侮れない。数年にわたり積極的に戦力を整えてきた4位の楽天も脅威だし、ピッチャー育成に定評のある吉井理人が新監督となった5位のロッテも侮れない。最下位だったとはいえ、「BIG BOSS」から「監督」に肩書を変えた新庄剛志率いる日本ハムも不気味である。

「僕が野球をするわけじゃないですけど、楽しみですよ。『どこにも負けたくない!』って、力が入ってしまうんですよね」

 雌伏の1年を経てヘッドコーチとなった平石の言葉に、精魂が漲る。

 今シーズンの西武は、もう山賊打線に頼ることはない。盤石な投手陣に加え、攻撃も少しずつ隙が埋まっていくはずである。

 なにより、新監督の松井自ら変化を宣言し、チームも一枚岩となって戦おうとしている。

 だからきっと、西武は生まれ変わる。

おわり


平石洋介(ひらいし・ようすけ)/1980年4月23日、大分県生まれ。PL学園では主将として、3年夏の甲子園で松坂大輔擁する横浜高校と延長17回の死闘を演じた。同志社大、トヨタ自動車を経て、2004年ドラフト7位で楽天に入団。11年限りで現役を引退したあとは、球団初の生え抜きコーチとして後進の指導にあたる。16年からは二軍監督、18年シーズン途中に一軍監督代行となり、19年に一軍監督となった。19年限りで楽天を退団すると、20年から2年間はソフトバンクのコーチ、22年は西武の打撃コーチとなり、23年に西武のヘッドコーチに就任した。

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