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近年、動物の虐待や飼育放棄、悪質な業者による販売、不適切な飼養が社会問題となっています。個人や団体、地域が行き場をなくした動物たちを守るため、日々保護活動に取り組む一方で、動物たちが命を失う悲劇は後を絶ちません。
環境省Webサイト「動物の愛護と適切な管理」は、2020年4月1日〜2021年3月31日に殺処分された犬・猫の全国総数が2万3764匹と発表。昨今、国内では殺処分への否定的な意見と保護への関心が高まり、殺処分数は減少傾向、保護犬・猫の譲渡数は増加傾向を見せています。微力でも地道に保護という選択を伝え続けていくことが、動物たちの命を守ることにつながるかもしれません。
今回ねとらぼ生物部では、犬の保護活動の中でも特定の犬種を対象とした「ブリードレスキュー(単犬種レスキュー)」に注目。すでに欧米では大きく発展している活動のひとつですが、日本ではまだ一般的とは言えない中、約10年に亘ってキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(以下、キャバリアと略)の保護活動を行っている、「キャバリアレスキュー隊 東京」の代表・本多歩さんを取材。ブリードレスキューの知られざる活動内容やキャバリアが手放される理由、特定犬種を扱う意外なメリットと存在意義、保護活動の実態などについて聞きました。
●犬種の魅力を知ったからこそ保護活動に関心
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――キャバリアレスキュー隊 東京の設立はどのような経緯だったでしょうか。
大学生のころに実家の両親がキャバリアを2匹お迎えしました。見た目の愛らしさもさることながら穏やかで優しい性格のキャバリアの魅力に、私もすっかり虜になり、後に自らもブレンハイムの男の子「ニコラ」を迎えたのです。保護活動に関心を持ったのは、実際に一緒に暮らして犬種の魅力を知ってからのことでした。「こんなに愛らしい犬種なのに飼育放棄される子がいるなんて……!」とショックを受け「自分に何かできることはないか?」と保護活動について勉強し行動に移しました。2012年、収容期限の過ぎたキャバリアを近県の保健所から引き受け、預かりボランティアをしたのが最初です。
2012年ごろに、SNS「mixi」を通して知り合ったキャバリアオーナー有志で収容犬の情報を集めるところから、おのおの個人で活動し始め、5人ほどの組織で活動するようになったのは1年後です。それから10年……現在は預かりスタッフ、会計、監査を含めて12名ほどになりました。他にもWebサイトを更新してくださる方、長距離専門で搬送して下さるボランティア様、全国の収容犬情報にキャバリアの情報がないかをチェックしてくださる方、地方で急な引き取りの際に一時預かりなどをしてくださる方、保護時とお見合い前にシャンプーとトリミングをしてくれる人などたくさんの人にご協力いただいています。
――具体的な活動内容について教えてください。
キャバリアの保護犬情報は、「協力団体からの情報提供」「保健所の収容犬公表」「里親募集サイト」で主に収集します。年に数件、個人の飼育放棄の相談も舞い込みます。それぞれの事情ごとに、基本は現場に引き取りに行きます。当会にはシェルターがありませんので、保護した子は預かりボランティアの家庭でお世話いただき、適切な医療措置を受け、里親が見つかるまで家庭犬として暮らします。私の家でも常に1匹は預かっている生活です。
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保護した子たちの情報は、「キャバリアレスキュー隊 東京のWebサイト」や各種SNS、ブログ「キャバリア ニコラ様 ご奉仕日記」で発信し、里親希望者からの連絡があれば、飼育条件確認・お見合い・トライアル期間を経て譲渡します。本格的に譲渡も開始した2013年から2022年の年末までに301匹の卒業犬が本当の家族に迎えられました。この他、残念ながら当会でケア中のまま看取った子が7匹います。
年に数回、啓発活動のためのイベント参加や活動資金のためのフリーマーケットも開催しています。コロナ禍以降中止していた譲渡会も様子をみて再開できれば……と思っています。
――「飼育放棄する」理由はどういったものが多いのでしょうか。
「吠える」「物を壊す」などいわゆる問題行動は少ない犬種で、運動量も大型犬ほどではないので、“手に負えなくて”飼育放棄するケースは少ないです。しかし、残念ながらキャバリアは遺伝的な心臓疾患(僧帽弁閉鎖不全症)を発症することが多く、定期的な心臓検査や、発症して進行した場合は通院・投薬などお金や時間がかかります。また、脳など“治すことが難しい”部位が病気になるケースもあり、そういった意味では知らなくて迎えた人は“手がかかる”と思われるかもしれません。
私が最初に引き取ったのは、さまよっていたところを保護・収容されていた男の子で、重度の水頭症を患っていました。おそらく病気のせいで捨てられたのではないかと思います。手放す人もいれば、キャバリアがそういう犬種だと十分理解して引き取ってくれる人もいる……そこにブリードレスキューの最大のメリットがあります。
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●“ブリードレスキュー”のメリットは里親と保護犬のミスマッチが極めて少ないこと
――遺伝疾患のある犬種をあえて引き取る人が多いということでしょうか。
その通りです! 当会で保護している子たちに里親を申し出てくれる人の約8割は、以前キャバリアと暮らした経験や看取った経験を持つ人です。心臓に遺伝疾患があることも、かかりやすい病気も全て理解した上で手を挙げてくださり、待っている人が出るほどです。当会も、マイナスな情報を含め医療情報はすべて開示することで「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを防ぐように努力しています。「前の子にはここまでやったけど……」と最大限つくしてあげた経験談などをお聞きすると、安心してお渡しすることができます。これまで新しい家族が決まった301匹のうち、戻って来たのは3匹……お見合いに来られなかったシニアの子や、先住の猫ちゃんとの相性問題があった場合だけです。
里親希望者の2割には、キャバリアの飼育・看取り経験がない人や、まったく犬と暮らした経験のない人もいます。子どもがいる人や医療関係者が多いイメージです。そういう人たちは、“キャバリア”という犬種へのこだわり以上に“保護犬を幸せに”という熱意を持っていることがほとんどなので、基本的里親条件を満たしていれば、譲渡しないということはありません。病気のことを含めて、しっかりとキャバリアの特性をお伝えして家族に迎えてもらっています。1人でも多くの人にキャバリアがどんなに素晴らしいパートナーであるかを伝えるのも当会の役割だと思っています。
――苦労したこと、つらかったことはありますか。
正直、保護活動をしているとつらいことばかりです。目を覆うような現場、ペット業界の闇……保護活動をしなければ知らなくて良かったことにも向き合っていかなければなりません。現在、我が家にいる2匹も、1匹は8歳まで子どもを生まされていた元繁殖犬です。悪質な業者は、動物愛護管理法に明らかに触れる劣悪な飼育環境の中、遺伝疾患を持ってることを知りながら繁殖を続けています。もう1匹は、ニュースにもなった大規模ブリーダー崩壊の現場からレスキューしました。先天的な疾患のため、重度の水頭症、また脳梁(のうりょう)欠損でいつ何が起きるか分かりませんが、こうして普通に家庭犬として過ごせる時間が長く続くように願っています。
命を預かる保護活動に休みはないですから、私もスタッフも毎日忙しくしていますが、「かわいそう」「大変そう」より「かわいい」「幸せになって良かった」と前向きに思ってもらえる発信を心がけています。
海外では認知されているブリードレスキューもまだ日本では知ってる方も少なく、始めた当初は「犬種で命の選別をするのか」と批判を受けたこともありました。助けたくても全ての犬を助ける力がないのなら……どこかで線を引くしかなかったのです。それが、私の場合はたまたま犬種であり、よく分かっているキャバリアなら“たとえどんな状態でも助ける”と強い信念を持ってやっています。
●2度不幸な目に遭わせたくないから……
――「保護犬を迎えよう」という風潮が高まる中気を付けていることはありますか。
当会から保護犬の正しい情報をお伝えするだけでなく、迎えてくださるお家の状況、家族についてもかなり細かく事前に確認させてもらっています。“家族の中に1人でも反対者はいないか?”“フローリングの滑り止めや脱走防止柵の設置”“お留守番の時間”など……そして、どんな状況になってもちゃんと医療ケアをして最後までかわいがってくれるかを直接会って確認しています。1度でもつらい目にあった子を、もう2度と不幸な目にあわせないためです。
――その他に地域などの条件はありますか?
基本的に“遠いという理由だけ”で、譲渡も保護の引き受けもお断りすることはありません。例えば、九州→東京でも健康状態をみながらリレー搬送してくれるボランティアさんも各地で募ります。心臓の悪い子が多いため、夏場は避けることと事前の医療チェックは必須ですが、飛行機での移動の方が負担が少ないと判断すれば、バゲージボランティア(動物輸送の手助けを行うボランティア)をお願いすることもあります。里親希望者さんへの何より1番の条件は「その子を大切にしてくれること」です。譲渡の流れや条件についてはWebサイトをご覧ください。
――現在里親募集中の子はいますか?
現在、6歳の男の子「ペペ」が里親を募集中です。他に募集準備中(ケア中)の子が3匹、トライアル中の子が1匹いて、最新情報はWebサイトで随時更新していますのでチェックしていただければと……。また、準備中の子たちの様子はブログ「キャバリア ニコラ様 ご奉仕日記」にて発信しています。
●保護することが目的ではなく、その先の幸せを約束したい
――今後の活動予定は?
5月に大きなキャバリアのイベントに参加を予定しています。コロナも落ち着いてきましたので、今年こそは譲渡会やフリーマーケットなどの独自イベントを再開し、そこでかわいい保護っ子をご紹介できたらと思っています。引き続き、キャバリアの特性を良いところも悪いところも広くお伝えし、安易な気持ちで飼い始めない、飼い始めたら最期まで責任をもって愛情深く接する、保護犬だとしても、他の犬と変わりなく愛おしい存在だということなど……当たり前のことですが、それを多くの方に知っていただけるように保護活動と啓発活動を平行して行っていきたいと思っています。
――キャバリアレスキューの目指しているところはどこですか?
今は、1匹でも多くの子を保護して、保護した先の幸せを約束できる家族とつないであげることが大命題です。
究極は、いつか行き先のないキャバリアがいなくなって、キャバリアレスキュー隊 東京が存在しなくても、虐待や里親詐欺の心配がなく、個人でも受け皿が見つけられるような社会になることです。
――ブリードレスキューのあり方について考えを聞かせてください。
キャバリアレスキュー以外にも犬種に特化したブリードレスキューを行う団体はいくつかあります。“犬種”の他にも“猟犬”や“短頭種”といった特徴ごとや、“看取り専門”などに特化したレスキューの団体もあります。また、地元の愛護センターと深く連携している団体さんは、処分の期限がある中、なんとか救おうと奮闘されています。どんな形であれ、1匹でも多くの幸せのために動いているみなさんにいつも敬意を持っています。
始めたころは、まだ犬の殺処分も10万匹を超え、大人しいキャバリアであっても、年をとっていたり希望者がいない場合は処分されていました。時間をかけて少しずつ少しずつ、ブリードレスキューだからこそ、病気が多くても重くても、それをご存知な里親希望者さまにご縁が頂けること。またお世話するスタッフも心臓をはじめ遺伝疾患に慣れてるので、ちょっとした症状の変化も見逃さず、手厚くケアできることなど……地元の協力団体様、個人ボランティアさんにご理解・ご協力いただきながら現在の形になり、繁殖リタイア犬の保護などもお声がけいただけるようになりました。すべての犬種に当てはまるわけではありませんが、保護活動の1つの形として認知され、発展してくことを願っています。
(了)
取材協力:キャバリアレスキュー隊 東京
画像提供:キャバリアレスキュー隊 東京/キャバリア☆ニコラ様 ご奉仕日記/キャバリアレスキュー隊 東京(@cavalierrescueteamtokyo)Instagramアカウント
参照:環境省Webサイト「動物の愛護と適切な管理」
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