WBC直前でも「変える怖さは全くない」なぜ山本由伸はフォーム改造に着手したのか?

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2023年02月04日 07:24  ベースボールキング

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左脚をほとんど上げない新しいフォームで投げ込む山本由伸[写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー【第58回:山本由伸】

 2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第58回は、WBCで世界一を目指す日本のエース、山本由伸投手(24)です。7年目の今季は投球フォームを改造中で、2月2日に入ったブルペンでは左脚を上げない新しいフォームを披露しました。

 「これまでのものを大事にし過ぎず、新しい感覚を積極的に得たい。今までの取り組みの延長線上にあるもので、変える怖さはありません」と、進化を続けます。


◆ なぜフォーム改造に着手したのか?

 昨季、史上初めて2年連続の投手4冠に輝いた右腕には、「現状維持」「満足」という言葉はないのだろう。

 東京五輪、クライマックスシリーズ、日本シリーズとオフ期間が短かった昨年の春季キャンプ。今年は3月にWBCを控え調整を早めていることが早いブルペン入りにつながっているのだが、報道陣の目をくぎ付けにしたのは、キャンプイン初日の1日のマウンドだった。

 マウンド上で身体を一塁方向に向けて立ち、そこから右回りをして捕手に投げ込む。一見すると二塁へけん制するような動きで本塁に投げる変則投法。一連の動作を繰り返して右肩からの始動や、踏み込んだ左脚の位置など時間をかけながら確認作業を続けた。

 「割と(フォームが)固まって来ています。実戦に入ると多少は変わるかもしれませんが、基本はこれになります」

 改造の理由を尋ねられると「体重移動の流れがすごくいいので」と、体重移動を挙げた。

 2日には、左脚を上げずにクイックのような投げ方で、西武からFA移籍した森友哉を相手に、35球を投げ込んだ。


 実は、新しい投球スタイルをメディア関係者に見せたのは、大阪市内の球団施設で行われた1月27日の自主トレ公開だった。キャッチボールだけのメニューだったが、ノーワインドアップで左脚をほとんど上げずに投げ込んだ。

 この時は、「体重移動の部分を(オフに)ずっとやって来たので、多少フォームのリズムは変わったかなと思う」との山本の言葉を受け、調整の中での一つの試みのように思えた。

 世界一を目指すWBC、リーグ3連覇、2年連続日本一に挑むキャンプを前に、大きくフォーム改造をすることはないという思い込みもあった。

 しかし、山本は「いい意味で、これまでのものをそんなに大事にし過ぎず、新しい感覚やいい感覚を積極的に得られるように(オフの期間)取り組んできました」と、常に前を見据えていた。

 クイックのような投げ方には、出力が落ち球速が落ちる危惧もあるが「それはないでしょう。投げながらいい感覚だけれど、どうかなと思っていましたが、トラックマンの計測数値で(以前の投げ方より)落ちたものはなかったそうです」と科学的な分析で裏付けがあるといい、「クイックをやっているわけではなく、ゆっくりと投げています。急いだらいいことはありませんし、ここの間が大事。それはこれまでと変わりません」と説明する。


◆「新しいことをやっているわけではないんですよ」

 ベースにあるのは、「去年の自分を上回る」という小学生時代からのテーマ。

 プロ入り後も、新しいトレーニング方法を学び、バックスイングが大きいフォームにたどり着いた。当時、「あの投げ方では無理がある」などという声がチーム内にもあったが、ブレることなく貫いたからこそ今がある。


 「変えることに怖さはないのか」という質問には、「全くありません」と言い切った。

 「まだまだ、いい投げ方はいっぱいあります。小学1年生で野球を始めたら、3年になった方が上手いじゃないですか。1年生と同じような投げ方はしませんよね。その延長ですよ。変えればいいという問題ではありませんが、僕がやっているのは今までの取り組みの延長線上にあるんです。新しいことをやっているわけではないんですよ」

 テレビの取材には、投球動作で二塁けん制のような投げ方をする理由を問われ「秘密です」と答えなかった。説明をしたくないのではなく、短い時間で説明しきれないことが分かっているからの対応だ。

 「いろいろトレーニングをやって、試行錯誤しながら来ました。難しいことをちょっとだけ話すと、勘違いを生みます。高校生がそこだけを真似するのも難しいので、ちゃんと説明できる時にします」と山本。

 山本が使う槍投げ用の練習器具などは、アマチュアの選手にも愛用されているが、なぜこの練習をしているのか、どのようなトレーニングをして来たのかを理解することが大事。器具を真似するだけでは身につかず、ケガにもつながる怖さを知るからこその諫言だ。


 一方で、新球には取り組まない。例えばチェンジアップ。「ミスして抜けたりして打たれたら悔いが残る球は投げたくありません。フォークボールは抜けても凡打になったりしますし、カットボールも抜けてもファールになる球がいいですね。決まったら抑えられるけれど、失敗すれば打たれてしまう球は投げたくありません」と否定的。

 球速が120キロでもカーブが大きな武器になっているのは、強いボールを投げることが出来るから。強いチェンジアップを投げることが出来ればいいが、現状では優先順位は低いという。


 オフにはWBCの準決勝、決勝の開催地でもあるマーリンズの本拠地・米マイアミを訪れた。

 「マイアミがどんな街かも知らないし、イメージが全くわかなかった。満員のスタンドの中でマウンドに立つのはどんな感じなのか、すごくワクワクしました」

 「レベルの高い試合に出られるのは、選手としてうれしい。そこで得られる経験や新しい技術が身に付き、レベルアップにつながると思います。すべての意味ですごく楽しみです」

 世界最高峰に向け、山本由伸は立ち止まらずさらに進化を続ける。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

【動画】山本由伸が新フォーム披露!キャンプ初日に見せた“逆回転”練習も

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