【膵がん】死亡率が高いがんの代表 近年増加傾向 進行が速いため早期の発見と治療判断が重要

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2023年02月04日 08:00  AERA dot.

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 膵臓にできる膵がんは早期発見がむずかしく、がんが見つかったときにはもう「手術できない」という段階になっていることも少なくありません。がん全体の平均5年生存率が60%を超えるなか、膵がんは約10%。その理由と、生存率を向上させるための新しい治療法についてまとめました。本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。


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■膵臓がんの5年生存率が低い三つの理由


 膵臓は、胃の後ろ側にある細長い臓器です。たんぱく質や脂肪を消化する膵液や、血糖値を下げるインスリンを分泌する役割があります。ここにできるがんを膵がんといいます。


 膵がんは近年増加しているがんの一つで、高齢になるほど増える傾向があります。がんの発生部位別の死亡数は、肺、大腸、胃に次いで第4位。患者数は年々増えています。


 膵がんの死亡率の高さにはいくつか理由があります。


 一つめは、早期発見がむずかしいから。がんが小さいうちはほとんど自覚症状がありません。がんが大きくなって膵臓の中を通る胆管を圧迫すると、胆汁(肝臓で作られる消化液)が血管内に逆流し、皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)がでます。また、便の色が白っぽくなったり、尿が黒くなったりすることもあります。インスリンの分泌が悪くなって糖尿病の症状が悪化することもあるので、気づいたらすぐ受診したいものです。


 二つめの理由は、膵がんは広がりやすく再発しやすいから。膵臓は重要な血管やリンパ節に囲まれているため、血液やリンパ液の中にがん細胞がはがれ落ちて他の臓器に転移しやすいのです。手術をした時点で転移がなくても、画像では確認できないレベルで転移している可能性もあります。


 そして手術の難度が高いことも、膵がんの特徴の一つです。なかでも「膵頭十二指腸切除術」という術式は、切除した膵臓、胆管、胃を腸とつなぎ合わせる大手術。合併症が起こる可能性も高いのです。なかでも膵液(膵臓からでる消化酵素)が漏れ出す合併症は、膵液が腹部の血管を溶かし、大出血につながりかねません。


■手術しなければ生き残れない。手術可能かの判断基準は?


「これだけのリスクを冒してでも手術するのは、手術した人しか完治が望めないからです」と話すのは、奈良県総合医療センター副院長の高済峯医師です。


「近年、手術だけで完治する患者さんも増えてきましたが、何がなんでも手術すればいいわけではありません。からだに大きな負担をかけて手術しても、すぐに再発して亡くなってしまう患者さんも少なくない。それはあまりにも残念です」


 そこで、手術可能かどうかの判断は慎重におこなわれます。そのときの基準のひとつが、以下の「切除可能性分類」です。


(1)切除可能……手術でがんの切除が可能
(2)切除可能境界……手術をしてもがんを取り残す可能性がある
(3)切除不能……遠隔転移がある、あるいは広がりすぎていて手術してもがんを取り切れない


「切除可能境界になった場合、手術するかどうかの基準は病院によって違いますが、治癒率を高めるために手術前に抗がん剤治療や放射線治療をおこないます。手術できない場合にも抗がん剤による化学療法をおこないますが、それで完治することは通常ありません。発見時に切除不能でも、抗がん剤などの治療で効果が出た場合には、切除に持ち込める場合があります。その場合、『手術すれば完治できる』という人を慎重に検討して手術するかどうかを判断します」(高医師)


■膵がんになったらまず抗がん剤。切除不能の人にも手術の可能性が


 膵がんは進行の早いがんです。もたもたしているとがんが広がってしまうので、以前は診断がつくとすぐに手術をしていました。


 しかし最近は「まず抗がん剤治療」というのが膵がん治療の基本になっています。膵がんに対して効果のある薬剤が生まれたことで、ここ数年で膵がん治療に大きな変化が起きていると話すのは、順天堂大学順天堂医院肝・胆・膵外科主任教授の齋浦明夫医師です。


「手術の前に抗がん剤を投与することでがんの勢いが止まったり、小さくなったりする可能性があることがわかりました。効果が出ると、『切除可能境界』や『切除不能』の患者さんでも手術ができます。それで助かる人も増えてきています」


 これは4年ほど前から始まった最新の治療法です。手術後に抗がん剤を使う化学療法も10年ほど前から始まっており、手術と化学療法を合わせることで治療成績をあげているのです。


「現在、膵がんの5年生存率は10%。ほかのがんに比べて低いですよね。でも、私が膵がんの手術をはじめた20年前の5年生存率は6%でした。わずか4%ですが、この数字の中にいる一人ひとりの患者さんにとっては、貴重な進歩だと思っています。今後はもっと増えていくと思っています」(齋浦医師)


■広がるロボット手術。より安全に、より正確に


 からだへの負担の少ない手術として、さまざまな病気で積極的に取り入れられているのが腹腔鏡手術です。しかし膵がん手術のなかでも、特に膵頭十二指腸切除術という手術は複雑で高難度。死亡事故もあり、腹腔鏡手術が実施できる病院は限られていました。そんななか、最近注目されているのがロボット支援下による腹腔鏡手術です。


「肉眼では見えない細い血管も3Dで立体的に拡大されてよく見えます。また、自由に角度を調整できるロボット鉗子によって、術者の指の動きも正確に反映されるのです。膵臓周囲の微細な結果や構造を確認しつつ、適切なラインで切除できるので、患者さんにとってからだの負担が小さいのはもちろんのこと、出血も少なく、より安全に正確に手術ができるのです」(高医師)


 まだ実施できる病院は限られていますが、今後はもっと広がっていくはずです。


 難治性といわれる膵がん。とくに「手術ができるかどうか」は生死を分ける岐路になるため、「できる」と言ってくれる病院を探してしまう患者も多いそうです。しかし前出の齋浦医師はこう言います。


「膵がんの場合、医師の技術で命を救えるケースは少ないと思います。膵がんは進行の早いがんです。セカンドオピニオンを受けるのはよいと思いますが、いくつも回っている時間的な余裕はありません。目の前にいる医師を信じて、治療をスタートすることも重要です」


(文・神 素子)


【取材した医師】
奈良県総合医療センター副院長 高 済峯 医師
順天堂大学順天堂医院 肝・胆・膵外科主任教授 齋浦明夫 医師




「膵がん」についての詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、2023年2月27日発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』をご覧ください。


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