季節限定品を見かけると「買いたい」欲求が膨らむ。家のなかはものであふれている。「痛い目にあっているのにやめられない」(写真:女性(41)提供) 買い物、ギャンブル、SNS、カフェイン、ダイエット、ゲーム……。ほどほどなら問題ないことも、度を越すと依存になる。「いつでもやめられる」と過信せず、リスクを知って生活習慣を見直そう。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。
【かくれ依存症】セルフチェックリストはこちら* * *
いつの間にか寝酒を繰り返すようになった。勤務時間中に何度もたばこ休憩をしてしまう。気が付けば、SNSのタイムラインを追いかけている。
どれも嗜好であり、好きの一つだ。だが、度が過ぎると依存になる。
「好きと依存の境界線って、どこにあるんですかね」
都内の会社に勤める女性(27)はそう首をかしげる。
ファッションやメイクが大好きで、新しい洋服や化粧品に月10万円くらいかけている。家賃や光熱費を払えば、給料はほとんどなくなる。貯金もほぼなし。インスタグラムに購入品を載せるときは、「買い物依存すぎてやばい」とコメントをつけた。
「本気で依存症とは思っていなくて、免罪符みたいな感じなのかも。ただ、最近はこれまで無縁だったリボ払いを使うようになっちゃって、少しだけ怖い」
「リボルビング払い」は欧米でよく使われている支払い方法の一つで、利用金額や件数にかかわらず、毎月一定額を支払うことをいう。月々の支払いを抑えられるメリットはあるが、利息がかさみ、思いもよらない額を支払うことになる場合もある。
■「依存症」一つの共通点
常にスマホを手放せないでいるというのは、都内に住む25歳女性だ。インスタ、ツイッター、ティックトック……。通知もきていないのに、SNSを開いては閉じる。また、違うアプリを開く。いつの間にか数時間が経っている。
「SNSがなくなったらどうしようって不安になる。検査を受けたわけではないけど、依存症かもって思います」
2人の女性たちは、依存症なのだろうか。
「どの依存症にも共通することをあえて一つ挙げるなら、自分の中にある『大切なものランキング』の順位が変わってしまうことです」
そう説明するのは、国立精神・神経医療研究センターで薬物依存研究部長を務める松本俊彦さんだ。たとえば、自分自身の健康や家族関係、友人、財産など、一人ひとりにとって大切なものがある。その大切なもののランキングの一番上に依存対象が居座るようになったら、依存症の可能性が高くなる。
「モチベーションやパフォーマンスを上げるための手段だったものが、いつの間にか、それを使うこと自体が目的化し、行動のルールが変わってしまう。大切な人を悲しませたり、健康や社会的地位、経済状態を犠牲にしている状態は注意が必要です」
たとえば、カフェイン。大脳を興奮させる作用があり、摂取すると一時的に仕事や勉強の効率が上がったように感じる。だが、松本さんによれば、「元気の前借り」をしているようなもの。カフェインが抜けると離脱症状が起き、それを補うためにまた摂取したくなる。
「アメリカの精神医学会の基準では、カフェインに依存性はあるものの自分の意思でやめることができるとされています。ただ、若年層の場合はエナジードリンクを飲む本数がどんどん増え、手っ取り早くカフェインをとるために薬局で錠剤を入手するようになるというケースも増えています」(松本さん)
■買い物好きだったのに
子どもの部屋に錠剤の空き瓶が転がっていたり、薬を買うために親の財布からお金を盗んだりして、発覚することも多いという。「大切なもの」のランキングが変わった例の一つだ。
ほかにも、アルコールやゲームといった日常的なツールが依存症につながるケースは珍しくない。そこで、アエラでは、松本さんへの取材をもとにランキングの変動を見直すチェックリストを作成した(最下部参照)。
二日酔いで仕事の約束をすっぽかしたり、ギャンブルのためにお金を借りるようになったりと、以前と変化がある場合は「かくれ依存症」の注意が必要だ。当てはまるからといってただちに依存症だというわけではないが、生活習慣の見直しの参考にしてほしい。
広島県に住む女性(41)もランキングの順位がいつの間にか変動し、買い物好きから「買い物依存症」になっていた一人だ。
自宅の戸棚を開けば、日用品の詰め替えパックが所狭しと並ぶ。数を数えると、詰め替え用の洗剤とハンドクリームがそれぞれ七つに、ボディーソープが四つ、入浴剤が6種類も。
「そんなに減るものでもないし、一つあれば十分なんです。でも、つい買ってしまう」
もともと洋服を買うことが好きで、20代前半までは給料の範囲で買い物を楽しんでいた。貯金も100万円ほどあった。
女性に「買い物依存症」の兆候が見え始めたのは、24歳の頃だ。当時勤めていた職場でパワハラを受け、ストレスからうつ病を発症。心労の重なりに比例して洋服を買い集め、貯金は底をついた。分割払いでごまかしながら買い物を続けた。
■頭の中を「消しゴム」で
休職してからも買い物は止まらず、気づくとカード会社から多額の請求が届いていた。キャッシングにも手を出し、27歳のときにはカードを止められた。
「でも、何も思いませんでした」
なぜなら、複数のカードを使いまわしていたから。1社止められても、別のカードはまだ使える。買い物を続けるうちに、滞納額は200万円に膨らんだ。
当時一緒に暮らしていた親が慌てる様子を見て、初めてまずいことをしたと気づいた。
「親にも怒られ、ちゃんと借金を返せと何度も言われました。ただ、精神状態もあまりよくなく、どうすればいいかわからなくなったんです」
精神的な不調もあり、現在生活保護を受けて暮らしている。毎月5日に保護費が支給されるが、2週間ほどで使い切ってしまう。次の支給日が来ると、しばらく買えなかった反動からすぐ買い物に走る。
「朝食を食べて少しすると、頭の中に『あれが欲しい』という衝動がポーンと浮かぶ。夕方には収まるので、落ち着くまで頭の中を消しゴムで消すようなイメージで戦います。でも、どうしても買ってしまうことが多い」
なぜ、人は依存してしまうのか。松本さんは、背景に孤独や苦痛があると指摘する。
「快感だけでハマっていると思われがちですが、僕はそう思いません。ネガティブな感情を緩和するのに、その依存対象が役立っているからやめられない。違法か合法かを問わず、寂しさやつらさ、自分は誰からも愛されていないんじゃないかといった不安を持っている患者さんはすごく多いんです」
■かくれ依存症 セルフチェックリスト
一つでもあてはまったら要注意。生活習慣を今すぐ見直して。松本俊彦先生への取材をもとに編集部が作成
★アルコール・終電でしょっちゅう寝過ごす
・財布やスマホをよくなくす
・二日酔いで大事な約束をすっぽかしてしまうことが増えた
★カフェイン・短時間で何本もエナジードリンクを飲んでしまう
・コーヒーやエナジードリンクでは効果が足りない気がして、カフェイン成分の入った錠剤を摂取するようになった
★ギャンブル・パチンコや競馬、競艇などギャンブルのことが頭から離れない
・ギャンブルのためにキャッシングをしたり、友人や恋人、家族からお金を借りるようになった
・ギャンブルで得たお金をすべてギャンブルのためにつぎ込んでしまう
★買い物・いつの間にか同じものが大量に家にある
・せっかく買ったのに袋から出さずに放置するものが増えた
・買い物のためにキャッシングを繰り返すようになった
★ダイエット・いつもダイエットのことを考えている
・食べ過ぎたときに吐いてコントロールするようになった
・体重や体型のささいな変動に一喜一憂してしまう
★ゲーム・ゲームができない環境にイライラする
・仕事や授業中もゲームのことが頭から離れない
・課金するために生活を切り詰めたり、お金を借りるようになった
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年2月6日号より抜粋