約3年ぶりに、米カリフォルニア州サンフランシスコでリアルなGalaxy Unpackedが開催された。同イベントは、サムスン電子が新製品をお披露目する場として定着しており、1月から3月の間にSシリーズを、8月にNoteシリーズやフォルダブルのZシリーズを発表するのが恒例だ。かつては、Sシリーズを時期が近いMWC(旧Mobile World Congress)会期中にスペイン・バルセロナで発表することも多かったが、2019年の「Galaxy S10」以降、Sシリーズの発表イベントはサンフランシスコでの開催が続いている。
一方で、2020年2月の「Galaxy S20」シリーズを最後に、世界をコロナ禍に突入。Unpackedも“オンライン化”を余儀なくされた。2022年8月に「Galaxy Z Fold4/Flip 4」を発表した際は、リアル開催への道を模索していたようだが、国や地域によって海外渡航の是非には温度差があり見送られた経緯がある。3年ぶりとなる現地でのUnpackedで、サムスンはどのようなメッセージを送ったのか。その詳細を報じていく。
●3年ぶりのリアル開催にわいたUnpacked、カメラやパフォーマンスをアピール
3年ぶりのリアル開催となったGalaxy Unpacked。その冒頭でステージに立ったのは、MXビジネス部門で社長兼部門長を務めるTMロー(盧泰文)氏だった。ロー氏は、Galaxyの歴史を振り返りながら「Galaxyは10年以上前から、スマートフォンがお届けできるものを再定義し続けてきた。(中略)もう一度、スマートフォンができることを再定義したい」として、「Galaxy S23 Ultra」を披露。そのカメラやパフォーマンスで、「手のひらの上で、無限の生産性や創造性を切り開くことができる」端末だと力説した。
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イベント全体を通して最も時間が割かれたのも、Galaxy S23 Ultraの紹介だ。ロー氏からバトンを渡されたVP(Vice President)のドリュー・ブラッカード氏は、まず同端末のビデオ機能を紹介。映画監督のリドリー・スコット氏や、ナ・ホンジン氏らがGalaxy S23 Ultraを使って撮影した作品を紹介した。こうした“プログレード”の撮影が可能なのは、Galaxy S23 Ultraの特徴の1つ。動画機能は8K、30fpsまで対応しており、HDR 10+もサポートする。
続けて、同モデルが搭載するサムスン製の2億画素センサーを解説。16のピクセルを1つにまとめるピクセルビニングによって暗所に強くなることや、AIが被写体を認識し、個別に最適化を施す仕組みが紹介された。サムスン電子は、Galaxy S22シリーズから「ナイトグラフィー」の旗印の下、夜景撮影に強い特徴を全面に打ち出しているが、Galaxy S23では、それをさらに強化した格好だ。
カメラに次ぐ特徴に挙げられたのが、バッテリーとパフォーマンスだ。Galaxy S23シリーズは、Galaxy S23が3900mAh、S23+が4700mAh、S23 Ultraが5000mAhのバッテリーを搭載している一方で、前モデルからサイズは大きく変わっていない。また、3モデルともQualcommの「Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxy」を搭載。Galaxy S22シリーズとの比較でCPUは34%、GPUは41%、NPUは49%性能が向上していることがアピールされた。
このパフォーマンスを生かすのが、ゲームだ。Snapdragon 8 Gen 2は3Dグラフィックスで光をシミュレートする「レイトレーシング」に対応しているが、Galaxy S23シリーズは3機種とも、この機能をサポート。先のブラッカード氏は「PCのようなゲーミング体験を実現した」と自信をのぞかせた。
デバイス連携を含めたエコシステムの広がりも、Galaxyの特徴の1つ。Galaxy Unpackedでは、PCの「Galaxy Book3 Ultra」や「Galaxy Book3 Pro 360」「Galaxy Book3 Pro」も発表され、同モデルとスマートフォンやタブレットが連携する様子が紹介された。Galaxy BookシリーズはWindows 11を搭載するPCだが、サムスン電子が独自アプリを搭載。スマートフォンのGalaxyとデータを自動で同期したり、Galaxy TabシリーズをPCのセカンドスクリーンとして利用したりといった機能が搭載されている。
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日本では、Galaxy Bookシリーズが本格展開されておらず、2017年に法人限定で発売されたのを最後にGalaxyブランドのPCは投入されていないが、海外、特に北米ではiPhone、iPad、Macのように、お互いがシームレスに連携する製品群として期待されていることがうかがえる。Galaxyは北米でのシェアが高く、Appleの対抗馬と目されているだけに、デバイス連携を訴求できる素地が整っているといえる。こうした背景を理解すると、製品連携の紹介に時間を割いた理由も、理解しやすくなる。
●Google、Qualcommとの蜜月関係も強調、チップはfor Galaxyに
GoogleやMicrosoftといったパートナーを招き、その蜜月関係をアピールするのもGalaxy Unpackedでは“恒例行事”といえる。今回、Unpackedでステージに上がったのは、QualcommでCEOを務めるクリスティアーノ・アモン氏。GoogleでAndroidやChromeのプラットフォームやエコシスエムを担当するSVP(Senior Vice President)のヒロシ・ロックハイマー氏もステージ上に招かれ、TMロー氏と握手を交わした。
ロックハイマー氏はUnpackedにたびたび登壇する“レギュラー選手”だが、アモン氏の登壇は珍しい。背景には、サムスン電子がGalaxy SシリーズのプロセッサをSnapdragonに一本化したことがある。これまで、Galaxy Sシリーズは、地域によってSnapdragonと自社製のExynosを使い分けていた。日本で展開されるGalaxy Sシリーズは、キャリアのIOT(相互接続試験)を通す都合もあり、基本的にはSnapdragonが採用されていたのに対し、Exynos版を発売している国や地域も多い。
2021年に発売されたGalaxy S22シリーズもプロセッサに幅を持たせ、「Snapdragon 8 Gen 1」と「Exynos 2200」のどちらかが採用されていた経緯がある。Unpackedで新製品を発表する際にも、「4nmのプロセッサ」といった形で詳細がボカされていることが多かった。これに対し、サムスン電子はGalaxy S23シリーズのプロセッサをSnapdragonに絞り、独自カスタマイズを加えることで他社との差別化を図った。それが、先に挙げたSnapdragon 8 Gen 2 for Galaxyだ。
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アモン氏が「世界最速のSnapdragon」と語っていたように、同チップは、通常のSnapdragon 8 Gen 2よりCPUのクロック周波数が高く、その最大値は3.36GHz。GPUのパフォーマンスも向上させているという。Snapdragon 8 Gen 2は、Cognitive ISP(Image Signal Processor)を採用し、写真や動画を撮影する際に被写体を分析し、それぞれのパーツに最適な処理を施すことが可能だが、これを採用した初のスマートフォンもGalaxy S23シリーズだという。同シリーズのナイトグラフィーが大幅に強化されたのは、センサーの刷新だけでなく、このISPによるところが大きい。
こうした“特別扱い”が許されるのも、Galaxyの販売ボリュームが大きいからこそといえる。Qualcommにも、それだけのカスタマイズを施す理由がある。同社の競合となるMediaTekのプロセッサが勢いを増したことで、Qualcommはモバイル分野のプロセッサでシェア2位に転落。ミッドレンジ以下が強かったMediaTekだが、最近ではハイエンド向けにも注力しており、主に中国メーカーを中心に採用が進んでいる。
この状況で、トップシェアのGalaxyを押さえられるのは、Qualcommにとってもメリットが大きいといえそうだ。アモン氏は、Unpackedの壇上でサムスン電子と25年に渡る関係の強さを強調。「近年、われわれの関係はさらに緊密になり、最先端のプレミアム体験を提供するために、何が可能かという境界線に立ち続けている。その最高の例がGalaxy S23シリーズだ」と持ち上げた。
●3社共同で次世代XRを推進、一方で残るマイナーチェンジへの不安
Googleのロックハイマー氏も、サムスン電子と緊密に連携していることをアピール。「Google Meet」のフォルダブル端末向けカスタマイズや、RCS(Rich Communication Service)対応のメッセージサービスを紹介した上で、プラットフォーム側の協力関係としてサムスンのTizenとGoogleのWear OSを統合したことに改めて言及した。ロックハイマー氏によると、Tizenとの統合以降、Wear OSのユーザーは過去の3倍に増加しているという。
また、サムスンとGoogle、さらにQualcommは、3社が一丸となってXRを推進していくことを明かした。Googleはプラットフォーム側として、ARCoreを用意しており、QualcommはXRデバイス向けのSnapdragonに注力している。具体的な計画は明かされなかったが、これらを組み込んだデバイスが、サムスン電子から登場する可能性はありそうだ。ロックハイマー氏は、「次世代のXR体験を提供するには、最先端の高度なハードとソフトウェアが必要になる。だからこそ、サムスン電子やQualcommとの協業はとてもエキサイティングだ」と語る。
ゲストも迎え、3年ぶりのリアル開催にわいたGalaxy Unpackedだが、スマートフォン全体の市場が縮小している中、Galaxy S23シリーズがどこまで販売を伸ばせるかは未知数だ。Galaxy NoteをUltraとして復活させ、Galaxy Sシリーズのラインアップを見直した2022年に比べると、ややインパクトに欠けていたのも事実。Galaxy S23シリーズでもその戦略を踏襲しているため、見方によっては“マイナーチェンジ”とも捉えられる。実際、「Galaxy S23/23+」は、プロセッサなどを刷新している一方で、ディスプレイやカメラなどのハードウェアスペックについては「Galaxy S22/22+」から据え置かれている。
Galaxy S23 Ultraに関してはメインの広角カメラが2億画素へと高画素化し、画質は向上しているが、Sペンなど、その他の特徴はGalaxy S22 Ultra譲りの部分が多い。デザインも、ディスプレイのカーブが緩やかになるなど変化はあったものの、Galaxy S22 Ultraから大きく変わっているわけではない。機能面では最高峰の1台であることは間違いないが、フルモデルチェンジとは言いづらいのが実情だ。ハイエンドモデルにはイノベーションが求められるだけに、先行きに一抹の不安を覚えた。
とはいえ、3機種とも米国価格はGalaxy S22シリーズから据え置きで、ハイエンドモデルとしての競争力は高い。2022年から、サムスン電子は4世代のOSアップデートや5年間のセキュリティ更新を保証しており、買い替えサイクルが長期化する中、長く使える1台としての安心感もある。日本に展開するモデルやその価格はまだ明かされていないが、発表を期待したい。
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