ラグビーの聖地、秩父宮ラグビー場の移転・建て替え 元日本代表「金のため」と指摘

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2023年02月04日 11:00  AERA dot.

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秩父宮ラグビー場を含む明治神宮外苑の再開発について、超党派の国会議員や日本イコモス国内委員会などが見直しを求めている
 樹木伐採の反対活動が起きる明治神宮外苑の再開発に対し、新たな抗議行動が始まった。ラグビーの聖地、秩父宮ラグビー場の移転・建て替えに反対する署名活動だ。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。


*  *  *


──東京都港区の秩父宮ラグビー場を移転し、建て替える計画が進んでいます。元ラグビー日本代表の平尾剛さんは1月、「選手にも観客にもメリットの少ない『改悪』だ」と計画に反対する署名活動をオンラインで始めました。


 秩父宮ラグビー場は屋根が閉じたままになり、人工芝になる予定です。でも、ラグビーはそもそもそういう競技じゃない。青々とした芝生の上で、どんな天気にも対応できるようにプレーするのが本質ではないかと。


 ただ、全天候型で人工芝のスタジアムはフランスにあります。ですから、そのこと自体がとっぴだとは思いません。


■日本ラグビーの象徴


──何が問題ですか。


 たくさんあるラグビー場のうちの一つが全天候型・人工芝になることと、今回は意味が違うと思うのです。秩父宮ラグビー場は日本ラグビーの象徴です。「東の秩父宮、西の花園」と言われるように、ラグビー専用スタジアムは秩父宮ラグビー場と大阪府東大阪市の花園ラグビー場の二つだけです。


 秩父宮ラグビー場は臨場感がすごいんです。陸上トラックがなく、ピッチと観客席の間が近いので、プレーしていて歓声がとても近くに聞こえます。今は変わりましたが、風呂が一つだけでした。試合の後、対戦相手と一つの風呂に入ります。先人たちがラグビーの特徴であるノーサイド精神を体現したんです。


──なぜ、全天候型で人工芝にする必要があるのでしょうか。


 新ラグビー場は赤字を出せない事情があるようです。所有者の日本スポーツ振興センターは国立競技場も持っています。ただ、国立競技場の管理・運営のため、国は年間最大約10億円を負担します。だから、新ラグビー場は収益を上げるイベントを開催できるようにする必要があったと言われています。


 そのために屋根は開かないほうがいいし、イベントで荒れないように人工芝にしなければいけない。巨大スクリーンもあったほうがいいので、設置するために観客数が1万席減って1万5千席になりました。平たく言えば、金のための建て替えです。


■「スポーツウォッシュ」


──新ラグビー場はどのようになるのが理想ですか。


「古いものを守れ」と乱暴に主張したいわけではありません。今のラグビー場は築80年近くなので、何らかの手立てを施さなくてはなりません。ラグビー場より20年以上も古い甲子園球場は、改修して今も利用されています。計画では神宮球場と場所を入れ替えることになっていますが、改修でいいと思います。建て替えによって外苑内の樹木を切るなんてナンセンスです。


──ラグビー界から批判の声があまり聞こえてきません。


 僕もそうでしたが、ラグビー関係者が知らない間に計画が粛々と進んでいたんです。


──日本ラグビー協会会長だった森喜朗元首相が2012年の段階で、都副知事らとラグビー場と神宮球場の入れ替えについて話した記録が残っています。


 スポーツに親しむ場所を作ると言うと、再開発して高層ビルを建てると言うよりも受け入れやすくなる。だから、単なる改修より、新しいスポーツ施設を作ることにすれば再開発に反対しにくくなる。スポーツの健全さというイメージを使って再開発を進めやすくしたという点で典型的な「スポーツウォッシュ」です。


 まずは多くの人に計画の詳細を知ってもらい、その上で何らかの意思を表明してほしい。それがラグビーの未来のためになります。(構成/編集部・井上有紀子)


※AERA 2023年2月6日号



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