江戸川乱歩を描いたドラマ『探偵ロマンス』が面白い 作品を味わい深くする「怪奇と幻想」を編んだ入門書

2

2023年02月04日 12:21  リアルサウンド

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真


 現在放送中のNHK土曜ドラマ『探偵ロマンス』が面白い。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の制作チームが再集結したことでも話題の同作は、1923年に作家デビューした江戸川乱歩の知られざる誕生秘話を描いたオリジナルドラマだ(全4話)。


 主人公・平井太郎(のちの江戸川乱歩)を演じるのは濱田岳。物語は、大正8年、この太郎が、ひょんなことから伝説の名探偵・白井三郎と出会うことで動き出す。


 いまだ何者でもない作家志望の青年にとってのメンターともいうべき、白井三郎を演じるのは名優・草刈正雄だが、1話目からいきなり怪盗相手に派手な立ち回りを見せてくれる。


 ちなみにこの白井三郎、モデルはおそらく「日本初の探偵」といわれている岩井三郎だろう。1895年、日本最古の探偵事務所を創業した元警察官の岩井は、じっさいにいくつかの難事件の解決に寄与している。また、真偽のほどは定かではないが、若き日の乱歩が彼の探偵事務所に勤務していたという話まである(さらにいえば、横溝正史が『呪いの塔』という作品で、乱歩をモデルにした「白井三郎」という探偵を出しているのだが、こちらの白井は今回のドラマとは直接的な関係はないものと思われる)。



 脇を固める役者陣も良い。とりわけ2話で登場した、太郎の心を惑わす女装の美少年・お百(世古口凌)の妖艶さには目を見張るものがあった。アンドロギュヌス(両性具有)的な美男美女というのは、江戸川乱歩の世界には不可欠な要素であり、それを世古口は見事に体現しているといえよう(この他、同作では、市川実日子が“男装の麗人”を演じる予定だ)。


いつの時代でも求められる乱歩の妖しき世界

 それにしても、あらためて驚かされるのは、江戸川乱歩という作家の根強い人気だ。(今回のドラマはオリジナルストーリーだが)じっさいこれまでも数々の作品が繰り返しドラマ化、映画化されており(記憶に新しいところでは、満島ひかりが明智小五郎を怪演した『シリーズ・江戸川乱歩短編集』などが素晴らしい出来であった)、“作者が亡くなれば作品も忘れられる”という浮き沈みの激しい大衆文学の世界にあっては、なかなか珍しい存在なのではないだろうか(同様の作家に、松本清張、司馬遼太郎、池波正太郎、山田風太郎らがいる)。


 いずれにしても、江戸川乱歩が生み出した妖しげな世界には、いつの時代でも大衆の(そして、創作に携わる人々の)心をくすぐる“何か”があるということかもしれない。


うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと

 さて、最後に、そんな江戸川乱歩の“入門編”ともいうべき1冊の短編集を紹介したい。アンソロジストの東雅夫氏が編んだ、『文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩』(双葉文庫)である。


 収録されているのは、「火星の運河」「鏡地獄」「押絵と旅する男」「白昼夢」「人間椅子」「人でなしの恋」「踊る一寸法師」「目羅博士の不思議な犯罪」「蟲」「芋虫」「防空壕」「お勢登場」「夏の夜ばなし――幽霊を語る座談会」の計13作。


 まさに編者である東雅夫好みの、「怪奇と幻想」に満ちた蟲惑的な作品群だといえるが(つまり、推理物よりも怪奇物の比重が大きい選定になっているのだが)、この1冊さえあれば、江戸川乱歩作品を彩る、人形愛、光学器機へのフェティシズム、ネクロフィリア、覗き趣味、異形の存在への偏愛、白昼夢の幻惑などを堪能できるだろう。


 「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」とは有名な乱歩の言葉だが、パンデミックから戦争にいたるまで、現実の世界が徐々に悪夢めいてきたいまこそ、あらためて彼の夢幻の世界に浸ってみるのも一興だといえるかもしれない。


■放送情報
土曜ドラマ『探偵ロマンス』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送 【全4話】
出演:濱田岳、石橋静河、泉澤祐希、森本慎太郎、世古口凌、本上まなみ、浅香航大、松本若菜、近藤芳正、大友康平、岸部一徳、尾上菊之助、草刈正雄ほか
脚本:坪田文
音楽・主題歌:大橋トリオ
制作統括:櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也
演出:安達もじり、大嶋慧介
撮影場所:京都東映撮影所、関西近郊ロケほか
写真提供=NHK


    ニュース設定