もはやタブーでもないシニアの本音、閉塞感あふれる今の日本を切り取った『茶飲友達』外山文治監督インタビュー

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2023年02月04日 15:00  ORICON NEWS

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映画『茶飲友達』(公開中)を撮った外山文治監督 (C)ORICON NewS inc.
 実際にあった高齢者売春クラブ摘発事件から着想を得た社会派群像劇『茶飲友達』が、2月4日より全国で順次公開される。昨年12月に予告編が公開されると、「考えさせられるし、予告編で涙流れました」「70、80でも性欲まだあるってなんか怖い。怖いけど観たい」「『正しいことだけが幸せじゃないでしょう』で鳥肌立った」などと大反響。監督・脚本の外山文治氏に話を訊いた。

【動画】予告編の反響に外山文治監督から感謝のコメント

――本作を企画した経緯は?

【外山】2013年10月に高齢者売春クラブが警視庁に摘発される事件がありました。当時、私は高齢者を扱った映画を撮った(2013年公開『燦燦 さんさん』)こともあって、その事件のことを知り、クラブの会員だった1350人(男性1000人、女性350人、最高齢は88歳)はその後、どうなってしまったのだろう、ということに思いを馳せざるを得なかったんです。まさに超高齢化社会の日本が抱える、老人の孤独死、介護問題、おひとりさま問題などの不安が反映された事件だと思ったことが出発点でした。

 犯罪を正当化するつもりはありませんが、自分の価値観も正義感も揺らいだし、摘発して本当に良かったんだろうか、何が正しいんだろう、といろいろ考えたあの時の自分と同じような感情のざわつきを観客にも感じてもらえるような映画を作りたいと思い続け、それから月日が経って、ようやく事件をヒントに書き上げたのが『茶飲友達』です。実際の事件をそのまま映画化したわけではありません。10年経ってさらに困窮した社会の諸問題をあぶり出すために世代を超えたオリジナルの群像劇にしました。

――『茶飲友達』は絶妙なタイトルだと思うのですが、「『飲茶(ヤムチャ)友達』と間違えていた」というコメントもあって、若い世代にはピンとこない人が多いのではないでしょうか。

【外山】そうかもしれないですね。実は、私も長編デビュー作の『燦燦 さんさん』の初日舞台あいさつで、出演してくださった山本學さんが「茶飲友達募集します」とおっしゃって、ネットニュースになったことでその意味を知ったんです。「恋人」ではなく、「茶飲友達ぐらいは欲しい」という言い方をシニアの方はするのですが、そこには男女のほのかな甘い匂いもある。「茶飲友達」と言う言葉にニヤリとする人もいれば、新しい響きに聴こえる人もいるといいな、と思いました。どこかかわいらしさもある言葉だけれど、その中には欲望や感情がある。記号ではない、人間らしさが伝わればいいなと思い、タイトルにしました。

――大反響の予告編ですが、外山監督自ら編集されたそうですね。

【外山】たいてい予告編は宣伝部に任せるものですが、今回は自分で作らせてもらいました。序盤は「高齢者売春」というセンセーショナルな言葉で、シニアの実情が明らかになっていく。同時に若者が高齢者をたぶらかしているようにも見える。でも、後半になるとそれだけでは終わらないんじゃないか、と思ってもらえるように編集したつもりです。誰もがみんなどこか寂しさを抱えていて、それを埋めるために道を踏み外してしまったとして、その想いは本当に悪なのか、と視聴者の感受性を揺さぶる予告にしたいと思っていました。

■70代以上の男性の8割が異性とのスキンシップを求めている

――「70代以上の男性の8割が異性とのスキンシップを求めている」というせりふがありますが、えっ、そうなの?と思う人も多いのではないでしょうか。

【外山】純粋な世の中の声だと思います。ある程度の年齢に達したら性的なスキンシップは必要としないものだ、という先入観と、そういうことをしないでいてほしいという願望が、多くの人にはあるのではないでしょうか。シニアを神聖化しているというか、そういうこととはもう無縁な人たち、欲望とは無縁な人たち、シニアはそうあるべきと決めつけてしまうことによって、よりシニアが孤独になっている側面もあると思います。

 私自身、20代の頃から高齢者を主人公に映画を撮ってきましたが、生きる尊厳とか、人生とは、みたいなテーマでしか語ってこなかった。そういうことばかり担わせてしまっていた。でも等身大のシニアの方たちにも欲望はあるし、心の穴を埋めたいと思うことに年齢は関係なくて、そこを自分は書いてこなかったことへの反省もあります。実際、70代以上でスキンシップを求めてる人たちはいらっしゃるので、それを描いたからといって、“タブーに斬りこむ”みたいな、大げさなことでもないような気もします。

――日本の高齢化は1970年にはじまり、その後、高齢化率は急激に上昇し、いまや4人に1人が高齢者の「超高齢社会」です。もはやタブー視するには割合が多すぎる。

【外山】アンタッチャブルなものに触れたとか、サンクチュアリに踏み込んだとか、そういうことでは全くない、本当に身近な問題を、いよいよ我々は語るべきだという思いに至りました。日常を描く、その延長線上として。

――本作は“社会派群像劇”とおっしゃっているように、主人公の佐々木マナが設立した高齢者専門のコールガール「茶飲友達(ティー・フレンド)」に在籍する通称“ティー・ガール”として、いろいろな事情を抱えた人物が出てきますね。介護生活に疲れた女性、ギャンブルに依存する女性、いつまでもチヤホヤされたい女性、最期を楽しんで終わりたいと願う女性…。マナと一緒に「茶飲友達」を運営する若者たちも、親との絆を信じられない女性、両親の事業失敗をきっかけに挑戦することに臆病な男性、妊娠しても子どもが産めない環境に苦しむ女性など、みんな閉塞感を抱えているように見えます。

【外山】みんな寂しくて、息苦しいですよね。多様性を謳う現代ではありますが、一方で同調圧力が強くて身動きがとれない。劇中で、妻子ある男性との間に子どもを妊娠してしまった運営側の女性が「産みたい」と言った時、誰もが気まずい顔をするシーンがあるのですが、彼女は自分の意思を貫こうと奮闘します。ところが周囲も、社会も、本気で手を差し伸べることができない。「自分の子どもに会いたいって変ですか?」と涙する女性に、みんな「変じゃないよ」とは言えない…そういったエピソードをはじめ、本作では老いも若きも生きづらさを抱えている状況が語られています。

 主人公のマナは、そんなままならぬ若者や高齢者の登場人物達を一つに束ねて「ファミリー」と呼んで大事にしていくのですが、皆そのコミュニティに救われるところがある反面、結局のところみんな個人的な都合で生きてるし、そうせざるを得ない状況もあるというのが見えてくる。

 立場が変われば正義も変わるし、“善”か“悪”か、簡単に決められないことがあるのが世の中なのではないでしょうか。しかし皆一様に二極化したがるように思います。本作は善と悪の間に落っこちてしまう人々がいることにフォーカスをあて、現代を生きる人々の日常的な「基準」を計る物差しを問うような想いがありますので、この映画を見ていろいろな捉え方をしていただけたらいいな、と思います。

■主演の岡本玲&シニアのキャストもブレークの予感

――監督は、長編デビュー作『燦燦-さんさん-』では、夫を亡くした高齢女性が婚活を通して新たな人生を見出そうとする姿を描き、「モントリオール世界映画祭」(14年)に正式招待される快挙がありました。老老介護の厳しい現実に直面した夫婦を描いた短編作品『此の岸のこと』(17年)や、21年公開の『ソワレ』は高齢者施設で起きたある事件をきっかけに、若い男女2人が先の見えない逃避行を繰り広げるストーリー。そして、今作の題材となった高齢者専門売春クラブと、映画で“高齢者”を描いている理由はあるのですか?

【外山】20代の若手映画監督に求められることといえば、若者向けに今の時代を瑞々しく切り取ることだったり、誰も見たことがない最先端でセンセーショナルなものを打ち出すことだったりするのですが、自分はそういうことにあんまり関心が持てなかったというか、いずれ挫折しそうな気がしたんです。実際、途方に暮れた時期もありました。そんな時に、街中でシニアがたくさんいる光景を目にして、この人たちは映画を観に行かないのだろうか、観てくれたらいいのに、この人たちが観たくなるような映画を作れば、観に来てくれるかな、といったことを思い、高齢者を題材にした作品を撮るようになりました。もちろん、やればやるほど、問題意識は芽生えるので、次も次もという感じで続いています。入り口としては、高齢者にも映画館に来てほしい、そう思ったところです。

――本作の主人公・マナを演じる岡本玲さんがとても魅力的ですね。

【外山】1月24日の完成披露の舞台あいさつでも伝えたのですが、この作品を経て、岡本玲さんのイメージが変わると思っています。少なくとも映画業界の中では大きく変わるはずです。舞台に多く出演して技術を磨き、確かな実力を持つ“俳優・岡本玲”を、世の中の人たちが新たに認知する、新しいブレークの予感みたいなのものがあって、そのきっかけになる作品になると思っています。

――社会現象にもなった上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』を生んだ、ENBUゼミナール「シネマプロジェクト」の第10弾作品という側面もあり、ワークショップには応募総数677人の中から選ばれた33人のキャストが参加、その年齢差57歳と伺っています。

【外山】ENBUゼミナール「シネマプロジェクト」は、これから世に出たい俳優たちが集まり、ワークショップを経て映画製作を行う企画ですが、主演の岡本玲さんもワークショップに応募してこられたんですね。さらに今回は、シニアの俳優がたくさん挑んでくださいました。シニアだって、これからの俳優として世に出たいと思ったっていいし、活躍が楽しみであることには違いない。それを可能にする枠組みはほかになかなかないので、このシネマプロジェクトは面白い試みだと思います。

――予告編に関心を持ってくれた人たちに、最後にひと言お願いします。

【外山】本当にささやかな作品なんですけれども、予告編を見て面白そうだな、本編を観てみたいな、と思ってくださった方には、自分のアンテナは間違っていなかったと納得してもらえる、期待や関心を超える映画になっている、その自負はあります。高齢者専用売春クラブの姿を通して、現代社会に横たわる閉塞感や、高齢者・若者どちらにも共通する「寂しさ」を描いた作品です。普段ミニシアターを訪れない、それこそ『ONE PIECE』や『SLAM DUNK』が好きな人にも共感していただける作品だと思っています。


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  • 全面には使えないが、一時大事な点で弛緩をくれそう=正しいのこと‥貰うね。ゆるゆる
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