【ヘッケルン】 シズル感あふれるカラメルがこれまた美しい 港区虎ノ門。オフィス街の一角に小さな喫茶店『ヘッケルン』が佇んでいる。
【画像12枚】手作り感が魅力!「ヘッケルン」のおすすめメニュー
いつ行ってもスーツ姿の男性を見かけない日はないのだが、彼らが飲むコーヒーの脇に、必ずといっていいほど並んでいるものがある。1971年の創業以来、マスターの森静雄さんが作り続けている「ジャンボプリン」(コーヒーとセットで700円/以下すべて税込)だ。
この店のプリンは極めてシンプル。生クリームもサクランボもない、カラメルだけのプリンが人気だ
「創業当初から味を変えていません。変化は飽きるけど、素朴な味は飽きない。50歳、60歳の男性客がプリンを注文します」
■老若男女問わず、ジャンボプリンが大人気!
他所ではまちがってもスイーツを頼まないであろう世代も、この店に来るとついプリンを頼んでしまうのは、お母さんが作ってくれた懐かしい味に似ているからかもしれない。
カラメルが甘すぎず卵の味わいをじゃましないところも嬉しい。
「素朴な味が卵の味を活かす。それが大事」
8時開店と同時にプリンを提供するため、森さんは毎朝始発で出勤し、5時半過ぎにプリンを作り始める。
けれど、注文してもすぐに出てこない料理もある。
たとえば、タマゴサンド(430円)がそうだ。
■何事も丁寧に。それがヘッケルン・スタイル
はじめて来た客がタマゴサンドを注文すると「なぜすぐに出てこないのか」と小言を言う人もいるという。
「そんなのは無視。すぐに食べたかったらコンビニへ行きなさいって言うよ」
ゆで卵こそ用意してあるが、注文を受けてから卵の殻をむき、ボウルに入れ、マヨネーズなどの調味料を加えて混ぜる。それを切りたてのパンにはさみ、ひと口大に切って出す。
「作り置きをして冷蔵庫に入れておけばすぐに出せる。でも、座ったらなんでもすぐに出てくる風潮がおかしいんだよ」
どんなに忙しくてもタマゴサンドは作りたてを供する。
「うちのタマゴサンドは冷たくないんだ。待たされても食べれば味の違いわかるはずだよ」
プリンは別にして、誰が来てもヘッケルンでは頼まれてから作り始める。
コーヒーは時間をかけてサイフォンで丁寧に淹れる。それが創業以来52年間、森さんが守ってきたポリシー。
■フランス料理を10年修業後マスターに
料理は、ヘッケルン開業前の1961年から10年間修業した『アラスカ』で学んだ。
アラスカは、のちに『ホテルオークラ』の総料理長になる小野正吉さんが働いていたことで知られるフランスレストランだ。
森さんが入店した年に小野さんはホテルオークラ開業準備のためにアラスカを去った。
当時アラスカは都内各地に店舗があり、森さんは日比谷店の厨房でフランス料理を研さんした。
そして10年後独立。レストランを開業しようと試みた。
ところが。
「資金が50万円足らず、レストランではなく喫茶店をオープンしたんだ」
森さんが作るフランス料理を食べてみたいものだが、それはさておき。
ヘッケルンのマスターにおさまったからこそサンドイッチやプリン(アラスカ仕込みの味だと思いたい)をコーヒーと一緒に味わうことができる。
■80歳! 元気の秘密はどこにあるのか?
森さんは朝5時から閉店後の21時まで16時間立ちっぱなし。
真夏だろうが、真冬だろうがいつも半袖。声も大きく、いつもパワフル。
御年80歳。元気の秘密はどこにあるのか。
「元気の秘密? 動くことだね。休日は家でじっとしていないのが息抜き。銀座の画廊を覗いたり、フランス料理を食べに行ったり、コーヒーを飲みに出かけたり。一番好きな場所は動物園と水族館」
上野動物園かと訊いたら即座に否定された。
「旭川市旭山動物には二度行ったし、山形県の加茂水族館(クラゲ水族館として有名)、沖縄美ら海水族館にも行ったよ」
元気の素が動くこととは思わなかった。
賢明なる読者諸君、森さんを見習い、元気に動き回ろう。森さんに会えば、元気の素をもらえるかもしれない。
【ヘッケルン】
住所/東京都港区西新橋1-20-11安藤ビル1F
電話/03-3580-5661
営業時間/8時〜19時(土曜〜17時)
定休日/日祝日、第2土曜