
今秋のワールドシリーズが終わると、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)はFAになる。それまでに、エンゼルスと延長契約を交わす可能性は低そうだ。
昨シーズンの終盤、大谷は試合後の会見で「エンゼルスのファンと球団が好きだ」と前置きしつつ「それ以上に勝ちたいって気持ちのほうが強い」と語った。
もちろん、エンゼルス(2022年成績は73勝89敗/西地区3位。以下同)も勝ちたいと考えている。ただし今年も、2014年以来のポストシーズン進出には疑問符がつく。所属するア・リーグ西地区では、再建中のオークランド・アスレチックス(60勝102敗/5位)をのぞく4球団が10月のポストシーズンを目指している。
ワールドシリーズ連覇を狙うヒューストン・アストロズ(106勝56敗/1位)と、21年ぶりにポストシーズンへ進んだシアトル・マリナーズ(90勝72敗/2位)については、言うまでもない。さらに、6年連続負け越し中のテキサス・レンジャーズ(68勝94敗/4位)もそうだ。昨オフに続いて今オフも大型補強を敢行し、ジェイコブ・デグロム(ニューヨーク・メッツ→)やネイサン・イオバルディ(ボストン・レッドソックス→)ら実力ある投手を加えている。
エンゼルスも、タイラー・アンダーソン(投手/ロサンゼルス・ドジャース→)、ハンター・レンフロー(外野手/ミルウォーキー・ブルワーズ→)、ブランドン・ドルーリー(内・外野手/サンディエゴ・パドレス→)、カルロス・エステベス(投手/コロラド・ロッキーズ→)らを手に入れた。
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もっとも、これらは球団がエンゼルス売却に動いていて、将来の方向性が見通せないなか、ペリー・ミナシアンGMが行なった精一杯の補強といったところだ。
たとえば、FA市場に出ていた選手とエンゼルスが交わした契約は、アンダーソンの3年3900万ドル(約51億円円)が最も高く、年数も最も長い。吉田正尚(ボストン・レッドソックス)の5年9000万ドル(約118億円)や千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)の5年7500万ドル(約98億円)と比べても、規模は小さい。
【大谷をトレードで放出も?】
大谷の望みを叶えるのに、エンゼルスは十分なメンバーが揃った......とは言いがたい。
先月、球団を売らないことにしたオーナーのアルトゥーロ・モレノがここから大型契約にGOサインを出しても、時すでに遅し。FA市場に大物は残っていない。トレードによる補強も、ままならない。エンゼルスには、相手の球団が交換にほしがるプロスペクト(若手有望株)が乏しいからだ。
この状況において、大谷が延長契約に応じることはないだろう。残留した場合、マイク・トラウトと同じ轍(てつ)を踏むことになりかねない。
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2019年の開幕前に、トラウトはエンゼルスと12年4億2650万ドル(約471億円・当時)の延長契約を交わした。しかし、トラウトのポストシーズン出場は2014年の3試合しかない。今年、エンゼルスが勝ち進んだとしても、来年以降の展望は不透明だ。再び球団売却の話が持ち上がっても不思議はない。
もし夏の時点でポストシーズン進出が絶望となれば、エンゼルスは大谷をトレードで放出するのではないだろうか。
FAになった大谷にクオリファイング・オファー(※)を申し出てドラフト指名権を得る方法もあるが、指名した選手が台頭する頃、トラウトは全盛期を過ぎている。それよりも大谷と交換に、すでにメジャーデビューしているか、デビュー直前の選手を獲得するほうが理に適う。
※クオリファイング・オファー=手放したくない選手に対して球団が規定額(MLBの年俸上位125名の平均額)の1年契約のオファーを出すことができる制度。
シーズン途中に移籍しても、大谷はFAになるはずだ。獲得球団が延長契約を望んでも、大谷と代理人からすると急ぐ必要はない。FA市場に出てからも再契約はできるからだ。
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来オフに大谷を手に入れようとする、あるいは入手が有力な球団については、いくつもの報道が出ている。それらにほぼ共通するのは、ニューヨーク・メッツ、ロサンゼルス・ドジャース、サンディエゴ・パドレス、サンフランシスコ・ジャイアンツの4球団だ。また、ニューヨーク・ヤンキースを含めている記事も少なくない。
【金銭面の最有力はメッツ】
投打の両面で柱となる大谷は、どの球団もほしい(2022年成績は15勝9敗・防御率2.33、打率.273・34本塁打・95打点。以下同)。人気がもたらす収益も魅力だろう。
とはいえ、資金が潤沢ではない球団には、高嶺の花だ。予測されている10年5億ドル(約656億円)はトラウトの総額を上回りMLB史上最高となるが、荒唐無稽な契約ではない。
ヤンキースの投打の柱、ゲリット・コール(13勝8敗・防御率3.50)とアーロン・ジャッジ(打率.311・62本塁打・131打点)の契約は9年3億2400万ドル(353億円・当時)と9年3億6000万ドル(約493億円・当時)だ。それらを合算し、大谷がDHである点などを差し引き、その4分の3としても、5億ドルを超える。
また、米メディア『ジ・アスレティック』のケン・ローゼンタールによると、パドレスのホアン・ソト(打率.242・27本塁打・62打点)は昨夏のトレード前にワシントン・ナショナルズから提示された15年4億4000万ドル(約577億円)の延長契約を断ったという。しかもソトは、マウンドには上がらない。
金銭面からすると、最有力はメッツだ。今オフの動きからわかるように、オーナーのスティーブ・コーエンの資金は無尽蔵に思える。贅沢税を気にする様子もない。先発投手5人のうち、2025年以降も契約が続くのは千賀だけなので、必要性もある。
DHの枠は、メッツに限らず、どの球団も空けることができる。それまでのDHを一塁や外野へ移せばいい。また、メッツのGMはビリー・エップラーだ。大谷のメジャー挑戦に際し、エプラーは当時エンゼルスGMとして交渉を行ない、契約をまとめた。
メッツのマイナス要素としては、東海岸に本拠を構えることが挙げられる。2017年のオフに大谷が交渉に臨んだのは、シカゴ・カブスを除くと、いずれも西地区の6球団だった。
メッツもヤンキースも、書類選考の段階で外されている。しかも、大谷が球団を選ぶ条件のなかで、金銭を一番の決め手とするとも考えにくい。一方、ドジャース、パドレス、ジャイアンツは、前回の書類選考後の7球団に残っていた。
【ドジャーズ有利の声も...】
対して、今オフにドジャースが交わした契約は、どれも2000万ドル(約26億円)を超えていない。まるで、大谷との契約に備えているかのようだ。
来オフは、フリオ・ウリアス(17勝7敗・防御率2.16)、クレイトン・カーショウ(12勝3敗・防御率2.28)、ノア・シンダーガード(10勝10敗・防御率3.94)の3投手がFAになる。レッドソックスから獲得したDHのJ.D.マルティネス(打率.274・16本塁打・62打点)も1年契約だ。本拠地がエンゼルスと最も近い点も、大谷にアピールする材料になるかもしれない。
パドレスからも、ダルビッシュ有(16勝8敗・防御率3.10)とブレイク・スネル(8勝10敗・防御率3.38)の両投手がFAになる。だが、こちらは単純にはいかない。大谷を迎え入れるか、2024年のオフにFAのソトを引き留めるかの二者択一になりそうだ。
また、そこにマニー・マチャド(打率.298・32本塁打・102打点)が来オフに契約を打ち切り、FA市場に出るかどうかも絡んでくる。マチャドは今年が10年3億ドル(約332億円・当時)の5年目だ。
2021年かぎりでバスター・ポージーが引退したジャイアンツは、新たなチームの顔となるスーパースターを求めているように見える。今オフは地元出身のジャッジに9年3億6000万ドル(約472億円)の契約を申し出て断られ、その後、カルロス・コレア(打率.291・22本塁打・64打点/ミネソタ・ツインズ)と13年3億5000万ドル(約459億円)の契約で合意に達したが、右足首の状態に懸念を示した結果、入団には至らなかった。
こうして見てくると、ドジャースがやや有力な気もする。けれども、名乗りを上げる球団は今後、ほかにも出てくるはずだ。まだ、予断は許さない。
投打どちらも「超一流の二刀流」という、唯一無二の存在である大谷翔平を巡り、史上空前の争奪戦が繰り広げられるに違いない。