
愛しているJ! Jリーグ2023開幕特集
移籍によって飛躍が期待できる選手(2)
J2からの個人昇格組
近年のJ1で見られるトレンドのひとつに、J2クラブ(J3以下のカテゴリーのクラブも含む)からJ1クラブへの移籍、いわゆる"個人昇格"を果たした選手の活躍がある。
彼らは、高校、あるいは大学を卒業する時点ではJ1クラブから声がかからずとも、まずはJ2クラブでプレーし、そこで活躍することによって個人昇格を勝ち取ってきた。なかには、J2でさえそれほど注目されていなかった、意外な"掘り出し物"が見つかることもあるから面白い。
J1クラブが下位リーグから光る素材を探し出してくるという意味では、そこにはさながら、"Jリーグ版現役ドラフト"の趣もある。
今季のJ1各クラブの陣容を見渡しても、楽しみな個人昇格組は数多い。それだけ彼らが戦力として期待されているということなのだろう。
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そんな個人昇格組のなかから、今季が初のJ1挑戦となる選手に絞り、注目株を挙げてみたい。
まずは、モンテディオ山形からガンバ大阪へ移籍加入したDF半田陸である。
21歳の半田は、パリ五輪を目指すU−21代表(昨季時点)でも主力を務める世代屈指の右SB。山形のアカデミー(育成組織)で育ち、2019年にトップチーム昇格以降、J2で4シーズンを過ごしてきたが、今季ついに個人昇格に至った。
2019年U−17ワールドカップにも出場しており、チームのベスト16進出に貢献。当時は右CBを務めていたが、現在は右SBが主戦場だ。力強い対人守備に加え、タイミングのいい攻め上がりでも力を発揮する。
能力的にはJ1でも通用するレベルにあることは間違いなく、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)ら、U−17ワールドカップをともに戦ったチームメイトには、すでにJ1を経験している選手も多いだけに、1年目からでも彼らに劣らぬ活躍を期待したいところだ。
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続いては、ロアッソ熊本からサガン鳥栖へ移籍加入したMF河原創だ。
福岡大を卒業後、2020年に当時J3所属だった熊本入りした河原は、ルーキーシーズンから主力として活躍。キャプテンも務めた昨季は、ボールポゼッションを高めた攻撃的なサッカーを中盤の底から支え、J2昇格1年目のチームを4位に躍進させる大きな原動力となった。
バランスを意識したポジショニングのうまさや、長短のキックを操るパスセンスのよさだけでなく、身長169cmと小柄ながらも1対1で巧みにボールを奪い取る術にも長けており、河原のプレーからは体格から受ける印象以上に力強さが感じられる。
熊本と鳥栖には志向するサッカーに共通する部分が多く、移籍1年目とはいえ、河原が力を発揮しやすい環境は整っているに違いない。一昨季のJ3から毎年カテゴリーを上げ、ついにたどり着いたJ1の舞台でも、中盤を支配する姿が見られるはずである。
また、個人昇格1年目ながら早々に出場機会が得られそうなのは、町田ゼルビアからアルビレックス新潟へ移籍加入したMF太田修介だ。
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ヴァンフォーレ甲府のアカデミー出身である太田は、日本体育大を経て、古巣・甲府のトップチームに加入。最初の2シーズンはリーグ戦出場わずか5試合にとどまったものの、甲府在籍3年目の2020年にリーグ戦31試合出場6ゴールと、潜在能力を開花させた。
左右を選ばないサイドアタッカーとして、自慢のスピードを生かした縦への突破を武器とするのはもちろんのこと、驚異的なスプリントでゴール前へ走り込む得点感覚にも優れている。2021年に町田へ移籍したあとも、キャリアハイを更新してきた得点数は昨季、ついにふた桁に達し、チーム最多の11ゴールを記録した。
今季が大卒6年目と個人昇格までには少々時間がかかったが、その分、初のJ1挑戦に期するものがあるに違いない。近年のJ1では昇格1年目のクラブが、J2当時のライバルチームから獲得した選手をうまく取り込むケースは多く、太田もまた、ポゼッション志向が強い新潟にあって、持ち前のスピードが貴重なアクセントとして生かされるはずだ。
以上、昨季J2での活躍度を踏まえ、今季J1でのプレーが楽しみな選手を挙げてはみたものの、その他にも楽しみな選手は数多い。
ここから先は、気になる選手を駆け足で紹介してみたい。
DFでは、東京ヴェルディからコンサドーレ札幌へと移籍したDF馬場晴也。
昨季はU−21代表にも名を連ねた馬場は、CBが本職ではあるものの、東京Vのアカデミー出身らしく足元の技術にも長けており、昨季J2ではボランチを任されることも多かった。札幌で変幻自在の"ミシャ式"サッカーに適応することで、さらなる成長が期待できるだろう。
MFでは、町田から鹿島アントラーズへと移籍したMF佐野海舟。
昨季はシーズン途中に腰を痛めて戦線離脱。リーグ戦後半をほぼ棒に振ってしまったが、本調子なら、中盤でのボール奪取やスペースカバーに冴えを見せるボランチだ。鹿島のハイレベルなポジション争いを勝ち抜くのは簡単ではないだろうが、米子北高卒5年目の22歳にとっては、大きくステップアップする絶好のチャンスを迎えている。
そして最後にFWだが、ここには多士済々の精鋭たちが顔をそろえた。
熊本からG大阪に移籍加入のFW杉山直宏は、左利きのアタッカー。
得意の右サイドで見せる切れのいいカットインは、典型的なレフティのそれだ。中へ行くと見せて縦に抜けていくことでもでき、幅広いプレーで相手DFを翻弄する。レフティらしい、天才肌のプレーを見せる選手である。
同じ熊本から浦和レッズへ移籍加入したのは、FW高橋利樹。
昨季チーム最多の14ゴールを記録した得点力だけでなく、ハイプレスのスイッチ役となる前線でのハードワークも彼の魅力である。浦和にはFWブライアン・リンセンをはじめ、レベルの高いライバルが多いが、J2で見せたけれんみのないプレーを、埼玉スタジアムの大観衆の前でも見せてほしいところだ。
東京Vからアビスパ福岡に移籍加入したのは、FW佐藤凌我。こちらもまた、チーム得点王の肩書を引っ提げての個人昇格となった。
ゴール前での粘り強いプレーで得点に絡み、昨季積み上げたゴール数は13。労を惜しまぬディフェンスも含め、オールラウンドに働ける万能型ストライカーは、短い時間での結果を残せるタイプだけに、出場機会さえ得られれば早々に結果を残す可能性がある。
そして最後にもうひとり、J3松本山雅からの"2階級特進"で個人昇格をつかんだのは、鳥栖に移籍加入したFW横山歩夢である。
昨季開幕戦でいきなりゴールを奪い、大きな注目を集めた19歳は、シーズンを通してFWの主軸として活躍。スピードと思いきりのよさを武器に、チーム最多の11ゴールを記録した。
また、松本での活躍が認められたことで、今年のU−20ワールドカップ出場を目指すU−19代表にも選ばれ、そこで中心選手としてプレー。今季高卒3年目でまだまだ粗削りな分、伸びしろも大きいだけに、初のJ1挑戦でも物おじせずにプレーできれば面白い。鳥栖の前線は昨季の主力がごっそり抜け、イチからの競争になる状況も味方につけたいところだ。
こうして個人昇格組を見てくると、彼らのほとんどが昨季、J2やJ3で確かな実績を残し、ある意味で「当然の個人昇格」を果たした選手であることがわかる。J2で4位躍進の熊本から、3人もの選手を紹介することになっていることは象徴的だ。
だからこそ、彼らが初のJ1の舞台でどれだけできるのかは、興味深い注目ポイントとなる。
J2でこれだけやれれば、J1でも間違いなく通用する――。そんな前例が増えていけば、個人昇格組の重要性は今後、さらに高まっていくはずである。