「ヤバイ」ことになっている? 大阪・関西万博の予定地・夢洲 「長靴がずぼっと沈んだ」 課題浮き彫りに

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2023年02月07日 20:25  AERA dot.

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大阪・関西万博の会場となる大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)
 2025年に開催される大阪・関西万博。そしてその跡地に予定しているカジノを含む統合型リゾート(IR)。現在、大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)で工事が進んでいるが、関係者にとってはちょっと頭の痛いことが起きているという。


【写真】長靴がずぼっと土の中に!「雨あがりとはいえ、いきなりずぼっと長靴が沈んでいってヤバイと思いました」


 そう話すのは大阪市の職員だ。一緒に見せてくれたのは、長靴が土の中に埋まっている写真。



 この写真は、大阪・関西万博が開かれる大阪市此花区の夢洲の予定地だ。


 万博終了後は、約49ヘクタールの土地がIRへと変貌(へんぼう)する計画になっている。


 米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスなどの共同出資で大阪IR株式会社を設立して、大阪市や大阪府と基本協定を締結し、運営する。


 府や市は、2029年の秋から冬ごろに開業する段取りを描いている。すでに、土地所有者の大阪市は、大阪IRと協議し、土地改良費約790億円を負担することを決めている。


「私が歩いた場所はこれから掘削、整地、改良が行われるという場所で基本的に関係者以外は立ち入り禁止。想像以上に地盤は悪く、当初は790億円の改良工事で地盤沈下が収まるのか疑問に感じました」


 と前出の大阪市職員は話した。


 実際に夢洲の工事現場前に行くと、大きな重機のごう音が響き、トラックが頻繁に出入りしている様子が見える。


 フェンスの奥には雑草のはえた広大な土地があり、ダンプカーが行き来する。地下鉄・大阪メトロが延伸されて新駅がつくられ、万博やIRの中核と計画されている場所だ。



 夕方になり、現場から帰っていく作業員に聞いた。


 地下鉄関連工事に関わっているといい、


「工事がしにくい、やわらかい地盤であるのは間違いない。海の上の関西空港の工事をした経験もあるが、こちらの方がはるかに沈下しそうな印象」


「地中を掘るとけっこう水が出ますね。こういう地盤だと沈下は早い気がします」


 と教えてくれた。


 万博会場と比較される関西空港は海上空港のため、地盤沈下が最大の課題とされた。このときは一定の間隔で地面に垂直に砂の杭を打ち込むサンドドレーン工法で地盤を強化し、安定させていった。


 しかし、夢洲はこのような特殊な工事はされていない。


 大阪府と大阪市が国にIRの区域整備計画を申請し、現在、国の有識者委員会が審査をしている。昨年中にははっきりすると思われた認定の可否がまだ出ていない。理由の一つが地盤沈下問題だという。この点について、大阪市の松井一郎市長はこう話す。


「課題は地盤の部分だけととらえている。地盤については根拠ある数字をしっかり出していきたい。夢洲の埋め立ての地盤について、土壌汚染だとか地盤がどうしても液状化するだとか指摘されている。その問題点解決について、対応策を求められているのできちっと説明する」


 だが、問題はそう簡単ではなさそうだ。大阪市港湾局の


<土地造成事業(大阪港埋立事業)実施状況説明資料>


 などによると、淀川には年々、砂や泥が堆積しており、船の運航に支障をきたすため大阪市が除去している。その土砂に加えて、廃棄物や建設残土などが夢洲の埋め立てに使われているのだ。現在は「大阪湾フェニックス計画」と呼ばれ、近畿2府4県から廃棄物などを受け入れている。


「淀川など大阪市内の不要な土砂を市外に持ち出すと費用が高額になる。そこで人工島の埋め立てに使い、コストを削減している。空港建設が前提でコストをかけている関西空港とは違い、夢洲は不要な土砂、廃棄物などの処分のために人工島をつくり、その後で利用方法を考えるということ。事業認可は1970年代におりている。万博の開催、IR誘致が決まっていれば違った工法をとったでしょうが、当時は廃棄物や残土処理が最優先課題だったはずなので……」(大阪市幹部)


 大阪・関西万博は半年、カジノは恒久的な施設なので、地盤沈下の影響はカジノの方が大きいと言えそうだが、実は万博も、別の理由で『ヤバイ』状態になっている。


 目玉となるのが、世界から出展されるパビリオン。なかでも、万博のテーマとなっている「いのちの輝きプロジェクト」。


 映画監督の河瀬直美氏、メディアアーティストの落合陽一氏ら8人が手掛ける計画だ。しかし、万博の中心となるテーマ館のパビリオン建設の入札が不調となり、工事にとりかかれない事態になっている。


 また「大催事場」「迎賓館」も落札はなく、日本国際博覧会協会のホームページには、昨年に一般競争入札となった工事10件が不調と書かれている。


 すでに万博関連工事を受注している大手ゼネコンの幹部は不調の理由を「2025年に万博開催ですよね。もう2年しかないわけです。それに万博のパビリオンというのはわかりやすく言うと、世界に一つしかなく、なおかつ高いクオリティーのものを建設しなければならない。ある程度の規格が決まっているマンションやビルなどと違い、複雑です。万博のホームページに、河瀬さんや落合さんらのパビリオンのイメージが掲載されていますが、あれを見るだけで二の足を踏みます。もちろん費用は高くなります。おまけに、ウクライナ情勢や世界的なコロナ禍で資材の高騰が続いている。日本国際博覧会協会から出ている値段ではまったく利益がとれません」


 と説明し、こうも話した。


「業種はまったく違いますが、東京オリンピック・パラリンピックで汚職事件がありました。広告会社が仕切ってまとめる。昔ならわれわれの業界も大手ゼネコンがまとめて“調整”なんてことはありました。けど、あの事件を見ると、そんなことはできません。それに万博の会場建設費の上限は決まっていますからね」


 と業界の裏事情を打ち明ける。


 万博の会場建設費は1850億円。国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ拠出することになっている。


 松井市長は、


「もともと厳しめに見積もって入札をかけていた。1850億円の上限を維持するために必死でコストをおさえる努力をしている。それがあるから不調なのかもしれない。高い品質のものを安く、1850億円の総予算におさまるように、お互いが知恵を振り絞ってやっている」


 と説明する。


 大阪府の吉村洋文知事は


「入札は条件を変更して再度、行うと聞いている。入札の不調が万博全体の工期、予算に影響を及ぼすことはない」


 との見解を示す。



 府のある幹部は


「現在の対策費は、土壌汚染、液状化、地中埋設物の撤去の三つで790億円。地盤沈下は含まれていない。吉村知事も追加費用について、かなり神経質のようだ。夢洲のような埋め立て工法で地盤沈下を抑える技術は“未知”という見解もあり、どれだけ負担が必要になるのかわからない。それになんといってもまだ国から認定がおりていない。綱渡りのようだ」


 と不安要素が多いことを指摘する。


 事業者の大阪IRは、昨年3月の大阪市議会で事業の撤退の有無について聞かれ、


「あるかなしやというご質問については、あるかもしれません」


 と答えている。そして大阪市議会ではIR誘致のために、不動産鑑定を大阪市などの当局が「操作」したのではないかとの追及が白熱している。


 万博とカジノは「ヤバイ」状況を脱することができるのか?


(AERA dot.編集部 今西憲之)


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  • 日本維新の会のやることは杜撰だということが分かりやすい案件です。大阪都構想と同じ。IRを誘致するという時点で維新のお里がしれます。
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