「Bing」の大幅アップグレードでGoogleを追撃!? Microsoftが「OpenAI」に最大100億ドルの投資をするワケ

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2023年02月08日 06:12  ITmedia PC USER

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MicrosoftによるOpenAIへの追加出資を知らせるブログのエントリー

 米国のAI研究機関の「OpenAI」が2022年にリリースした「ChatGPT」が大きな話題を呼んでいる。先日、それがどのような特徴を持ち、どのような課題を抱えているのかレビューを交えつつ紹介した。



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 昨今はChatGPTで大きな注目を集めるOpenAIだが、同機関は画像生成AIモデル「Dall・E2」の開発も手がけている。驚くほどに流ちょうな文章を生成するAIモデルや、呪文のように話し言葉を唱えるとその説明に近い絵画を生成するAIモデルなど、Open AIは一般のユーザーを含めてさまざまな驚きを提供し、これまでにない新しい価値を提供している。



 詳しくは後述するが、OpenAIは元々非営利の学術研究プロジェクトとしてスタートしたが、高品位のAIモデルの開発/運営をするために2019年10月にMicrosoftから10億ドルの投資を受け入れた。さらにMicrosoftは2021年にも同組織を追加投資し、2023年1月には数年間に渡って数十億ドルの投資を実行することを表明した。この投資は最大で100億ドルに達する可能性があるとの報道もあるが、新しい驚きや新しい価値を提供しているからといって、Microsoftが日本円にして1兆円を超える投資を行うつもりというのは、よほどのことである。



 以前は技術面からOpenAIを紹介したが、今回は「なぜMicrosoftがOpenAIに再び(しかも巨額の)投資をしたのか?」「Microsoftはどうやって投資を回収するのか?」といった側面に焦点を当てて、Microsoftの戦略をひもといていきたい。



●OpenAIの“自主性”を維持しつつ、自社製品に取り込むMicrosoft



 ChatGPTやDALL・E2自体は、とても優秀なAIモデルだ。しかし、過去の歴史を振り返ってみると、どれだけ技術面で先行していようとも、時間の経過と共にOpenAIに追いつく企業は次々に登場することは間違いない。ただ、それでもMicrosoftはOpenAIの“自主性”を重んじ、そこから生まれた“果実”(研究成果)を戦略的に自社製品へと取り組んでいくつもりであるようだ。



 2023年1月に発表された「数十億ドル規模の追加投資」は、過去2回の投資の延長線上にあると思われる。MicrosoftやOpenAIからは出資スキームの説明はないが、海外の各種報道を総合すると、投資のスキームは以下の通りとなる。



・Microsoftは、数年に渡って数十億ドル(最大で100億ドル規模)の投資を実施



・投資の回収が完了するまで、MicrosoftはOpenAIが生む利益の75%を受け取れる



・投資の回収後、MicrosoftはOpenAIの株式の最大49%を取得できる



 加えて、OpenAIの各種AIプラットフォームはMicrosoftのクラウド基盤「Azure」に移植され、学習プロセスでもAzureが使われるようになる。



 しかし、筆者はMicrosoftの真の狙いはインターネットの「使い方」「使われ方」の革新ではないかと見ている。



●アイディアを口にするだけでプログラムが完成!?



 ここで少し情報を整理しておこう。2019年に投資した段階で、MicrosoftはOpenAIと言語モデル「GPT-3(Generative Pretrained Transformer 3)」のコードを独占的に利用できるライセンス契約を締結していた。先日紹介した「ChatGPT」は、GPT-3の最新モデル「GPT-3.5」の技術的ショーケースという扱いである。



 GPT-3には異なるパラメーター調整や学習が施された「エンジン」が幾つかあり、APIを介して任意のエンジンをするという形態を取っていおり、現状ではクラウドサービス経由でのみ利用可能だ。



 なぜこうなったという点だが、GPTの開発プロジェクトはかつて比較的オープンな体制で進められていた。しかし、GPT-3の前身に当たる「GPT-2(Generative Pretrained Transformer 2)」は、英語限定ながらも比較的自然な文章を生成できるようになったため、悪用を危惧して公開範囲を限定したという経緯がある。



 なお、先に紹介したChatGPTについては、OpenAIが機能を丸ごとAPI化したものを利用できるようになる予定で、現在はウェイトリストにおいて希望者を募っている。



 OpenAIの顧客は、予算や目的に応じて利用したいAIモデルを選択し、自分たちの開発するアプリケーションから使用することになる。ただし、先述の通りクラウド上のAPIを介して利用しなければならない。



 一方で、先述の通りMicrosoftはGPT-3について、APIを介さずにアクセスできる独占的ライセンスを保有している。その活用の典型例が、Microsoftのノーコード/ローコードプログラミングツール「Power Apps」での活用だ。



 ノーコード/ローコードプログラミングツールは、テンプレートやマウス操作でプログラミング言語を知らなくてもプログラム(アプリ)を作成できることが特徴だ。Microsoftは2021年5月、Power AppsにGPT-3を組み込み、話し言葉から必要なコードや数式を類推し、プログラムに反映できるようにした。



 例えば「データベースAから、“PC USER”と“Microsoft”を含む記事を探して、その中から2020年以降、筆者が“本田雅一”の記事を古い方から順に並べて」と話かけると、それを「Power Fx」(PowerAppsを含む「Power Platform」で共通利用できる数式言語)に変換して提示してくれる。



 プログラムの論理構造はビジュアル化しやすいが、検索クエリをシンプルに使ってもらうのは難しい。そこで「やりたいこと」に対してGPT-3が間に入り、必要なクエリを生成することでアプリ開発のハードルを下げることができるというわけだ。



 他にも使い道はたくさんある。例えば「表の空欄を埋める」といった作業をChatGPTで行えるGoogle スプレッドシート用のプラグインも登場している。



 ただ、現時点では質問に対する応答(答え)に確実性がなく、お試しにやってみて将来の可能性を感じる程度にとどまる。



●OpenAIがMicrosoftの出資を受け入れた理由は?



 先日のChatGPTのレビューでも少し触れた通り、GPT-3は誤った応答をすることもある。しかし、このことはOpenAIのAIモデルが無価値であることは意味しない。



 OpenAIが公開しているChatGPTはあくまでも技術的ショーケースであって、特定の用途にカスタマイズされているわけではない。加えて、学習文献が比較的少ない日本語でのテストは不利ということもある。だが、ChatGPTをよく試してみると、生成される回答(文章)は比較的自然で、チャットを繰り返すと一定の会話も成立する。



 彼らOpenAIの技術は、間違いなく優秀である。しかし、これだけでは最大で100億ドル、日本円換算で1兆円超の投資する理由には乏しいような気もする。Microsoftは、どうやって投資を回収するのだろうか?



 その方法の1つとしては、Microsoftが提供するアプリに特化(最適化)したAIモデルを作ることが考えられる。「Word専用」「Excel専用」といった具合にアプリごとにAIモデルを作ることで、各アプリの優秀なアシスタントを作るという寸法だ。



 例えばWord専用AIモデルであれば、Wordのドキュメントを読み込んで自動的に要約するといったことも考えられる。その要約文をPowerPointに渡すと、PowerPoint専用AIモデルがそれに沿ったプレゼンテーションシートを生成してくれる……なんてこともできるかもしれない。



 各アプリに最適なAIモデルを搭載――言葉にすると簡単そうに見えるが、AIモデルの作成には思っている以上にコストがかかる。



 細かな数字はさておき、大規模なAI(推論)モデルを動かすには、それに見合った演算能力(サーバや演算アクセラレーターなど)が必要になる。規模が大きくなれば、学習用データを用意するための費用もかさむ。いくら優秀なAIモデルを動かしたとしても、学習に用いる「教師データ」が優れていなければ、格調高い文体で“誤った”文章を理路整然と吐き出すだけの役立たずになってしまう。



 例えば、GPT-3のAIモデルは1750億ものパラメーターを持つ大規模なものだとされている。学習だけでなく、サービスを維持するための各種費用、クラウドサービスの利用料金、顧客へのサポートを提供するための費用……と、思いつくだけでも必要なコストはいくらあっても足りない。



 各種プロセッサの処理効率の向上や消費電力の改善によって、演算そのものに掛かるコストは徐々に下がるだろう。だが、インターネットの世界を駆け巡る情報量は加速度的に増加し続けている。演算コストが下がっても、その能力増強で相殺されてしまうことも想像に難くない。



 元々は非営利の研究開発プロジェクトとして発足したOpenAIだが、Microsoftからの資金注入を受け入れ、同社にGPT-3のコードへのアクセスを独占的に認めた背景には、巨額な資金を必要としていたという事情もあったようである。今後、静止画に関するAIサービスを拡充したり、あるいはその範囲を動画に広げたりしようと考えると、強力な“後ろ盾”が必要だったということである。



 OpenAIの強力な後ろ盾となったMicrosoftは、実際にどのように同社の技術を取り込んでいくのだろうか。先に挙げた「アプリごとに特化したAIモデルの実装」以外にも、幾つかのシナリオが考えられそうである。



 純粋にOpenAIの技術にアクセスした上で、同社が開発するAIモデルについて共に研究を行い、さらに自社のクラウド基盤であるAzureを通してあらゆる学習を行う。この際に、Azure自身をOpenAIの技術に最適化していくことで、AIプラットフォームとしての高いパフォーマンスや信頼性を獲得できるだろう。



 さらに、OpenAIのAIモデルをベースに開発したアプリを、「より高付加価値なAPI」に仕立てて有償提供する、というビジネスモデルもあり得る。



●Microsoftの“真の狙い”はインターネットの「革新」か



 しかし、長期的視点に立つと、より大きな可能性が見えるのがMicrosoftの検索サービス「Bing(ビング)」の大幅な改良によるゲームチェンジである。



 現在のインターネットエコノミーでは、Googleの支配力が極めて強い。同社の検索エンジンのシェアは85%前後と圧倒的である。YouTubeやGmailなどのサービス、スマホ向けOSでiOSとシェアを二分するAndroid OSの存在、そしてWebブラウザ「Google Chrome」の存在も相まって、Googleのサービスやアプリのお世話にならずにインターネットを利用することは困難な状況だ。



 しかし、OpenAIが提供するような強力なAI言語モデルを“武器”にすれば、MicrosoftがインターネットにおけるGoogleの独占的な地位を脅かす可能性は十分にあると思われる。



 古い話で恐縮だが、インターネットの黎明(れいめい)期は、インターネットといえば論文の検索/共有のために使われていた「Gopher(ゴーファー)」というプロトコルが主流だった。現在のWeb(厳密には「HTTP」というプロトコル)が主流となったのは、インターネットが一般ユーザーに普及し始めた1990年代後半以降の話である。



 Webでは膨大な情報が複雑にリンクされ、多様な情報が混在する世界――ある意味で混沌とした雑多な情報の塊――に成長していった。そのため、目的の情報を探しにくいという問題が発生した。言い方を少し変えれば、目的地(≒URL)をハッキリと知らないと情報にたどり着けないという状況だった。



 この問題に対処しようとしたのが、米国のベンチャー企業だったYahooだった(現在は日本の「ヤフー」との資本/業務上の関係はない)。そして、技術的アプローチでYahooを追い抜いていったのがGoogleである。



 その後の紆余曲折な道のりは説明するまでもないが、インターネットの世界において必要な情報へとたどり着くための手段は、インターネットにおけるビジネス基盤そのものになっている。程度の差こそあれ、インターネットを利用するサービスを立ち上げるには、Google(の検索エンジン)と“良いお付き合い”ができなければ困難である。



 しかし、OpenAIが研究/開発しているAIモデルと関連サービスは、膨大なインターネット上の「情報」「サービス」「メディア」と「ユーザー」の関係性を根本的に変える可能性がある。



 「ChatGPTを活用してBingを改良する」と表現すると、単に検索エンジンの改良を行うだけと捉えられるかもしれない。しかし、「自然言語で情報が探せるようになる」と表現してみると、目的の情報にたどり着くための手法や手順の変革、果ては検索結果に連携するサービスのあり方やアドテク(広告関連テクノロジー)へのイノベーションをもたらす予感がする。



 将来のプラットフォーマーとしての地位を確保/維持するためにAI技術が重要であることは、当のGoogleも認めている。同社は1月20日、グローバルで1万2000人の従業員を削減することを発表したが、そこで削減したコストをAI技術を中心とする重点領域に戦略的に集中させる考えを示している。



 折しもGoogleは2月6日(米国太平洋時間)、ChatGPTと類似するコンセプトを持つ“実験的な”対話型AIサービス「Google Bard」を発表した。これは同社が研究/開発を進めているAI言語モデル「LaMDA(Language Model for Dialogue Applications)」を下敷きにしており、将来的にはGoogle検索に統合する予定だという。



 GPT-3やChatGPTに対抗するような取り組みを“切り出して”発表したことは、GoogleもMicrosoftとOpenAIの動きを“強く”警戒していることの現れでもある。これに対抗するかのように、Microsoftも2月7日(米国太平洋時間)に「OpenAIとの取り組みに関するプレスイベント」を開催することになった。



 多くの予想通り、BingへのChatGPT(GPT-3)の統合が発表されるのだろうか……? 楽しみに待とう。


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