3年間続いているマスク生活。政府による「屋内外問わず個人の判断に委ねる」との方針変更で街中の光景も変わるだろうか コロナ禍になって3年、マスクを外すことに違和感を持つようになった人も多いだろう。そんな中、マスクの着用によって頭痛が悪化した人が増えてきている。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。
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東京女子医大病院で頭痛外来を担当している脳神経外科客員教授の清水俊彦さんは現在、頭痛患者の診察の際、マスクを外している。もちろん「3メートルの距離確保」「ついたて」「短時間」といった感染症対策をきちんと講じた上で、だ。患者には「外したい人は外していいですよ。外したくない人はそのままで」としている。
「コロナ以来、マスクの着用で頭痛が悪化した、頻度が増悪したと訴える患者さんが非常に増えました。マスクが関連する頭痛を、私は“マスク頭痛”と呼んでいます」(清水さん)
マスク頭痛の要因として、脳血管の異常な拡張が挙げられる。不織布性のマスクは飛沫の抑制効果が高い半面、通気性が悪く、自身が吐き出した二酸化炭素がマスク中に蓄積し、それを再び吸ってしまう。すると血中の二酸化炭素濃度が上昇。二酸化炭素は非常に強力な脳血管拡張因子であるため、脳血管が拡張し、その周囲の三叉(さんさ)神経が刺激され、頭痛を引き起こす。
「頭痛を経験したことがない人でも頭痛を起こしやすくなるのですから、もともと片頭痛持ちの人にとっては深刻です」(同)
片頭痛の患者は三叉神経が過敏になっており、マスク頭痛の害を被りやすい。さらに、片頭痛の予兆としてちょっとした刺激で痛みを感じるアロディニア(異痛症)があるのだが、三叉神経は顔面に分布しているため、マスクが顔に触れる刺激で痛みを起こしやすくなる。
「外出中ずっとマスクを着けていて、帰宅して外し、気が緩んだ途端に一気に副交感神経が優位になり、脳血管が拡張してひどい片頭痛を起こすケースもよくあります」(同)
■節度ある行動が大前提
このマスク頭痛の対策の一つが、ソーシャルディスタンスを十分に保てる環境ではマスクを外し、肺の下方に蓄積した二酸化炭素を排出すること。「感染症対策をしっかりしている診察室は“マスクを外せる環境”」と伝えたいと、清水さん自らマスクを外しているのだという。
「片頭痛とマスク頭痛がある生活は、QOL(生活の質)を著しく下げます。いつでもどこでも外していいわけでは決してなく、『節度ある行動の上で』が大前提ですが、頭痛に苦しむ患者さんが少しでも快適に暮らせる日々を取り戻せればと考えています」
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんは呼吸器専門医の立場から、マスクを「正しく着用する」重要性について繰り返し説いてきた。
「ただし、コロナの流行当初とは状況が変わり、マスクがすべて、ではなくなっています」
2年前まではワクチンがなかった。1年数カ月前までは経口抗ウイルス薬が承認されていなかった。一転、1月27日の時点では、ワクチン3回接種完了者は全体の約7割、高齢者では9割に達し、経口抗ウイルス薬は3種類登場している。ワクチン接種者では、感染しても「肺が真っ白になり重症化」というケースがほとんどない。
「屋内の密な環境では、感染対策においてマスクは着用すべきです。しかし屋外の、これまでもマスクを外して問題ないとされていた環境では、5類になることで、人の目を気にせず、精神的に楽に外せるようになる。そう期待しています」
5類になったからと安易にマスクを取っ払えば、第9波に見舞われるかもしれない。5月以降は、マスクはどういう時に必要で、どういう時は必要でないか。それをしっかり認識し、判断することが求められる。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2023年2月13日号より抜粋