
岡山弁で他県の人に誤解されやすい表現の代表格として「はよーしねー」(早くしなさい)があります。もちろん「早よー死ねー」ではありません。岡山弁協会の青山融さんに解説してもらいました。
【漫画】「宿題しなさい」→命令されるとやる気がなくなる→正論すぎる母の言葉が「刺さった」
岡山市内の女の子が倉敷の友達の家に遊びに行き、部屋でお茶を飲みながら話していると、倉敷の子のお祖母ちゃんが「〇〇のコンサートなんじゃ」とうれしそうに出かけました。しかし、すぐに「チケット忘れたぁ」と戻ってきて、引き出しの中をゴソゴソ探しています。
それを見た倉敷の子がお祖母ちゃんに向かって大きな声で、「ばあちゃん、はよーしねー!」。それを聞いた岡山の子は、お祖母さんに向かって「早く死んでしまえ!」とはなんて恐ろしい…と、激しいショックを受けたそうです。これが岡山弁の笑い話の代表的ネタのひとつ「はよーしねー」事件です。
「はよー」は「早く」の意味の岡山弁、「しねー」は「しなさい」という意味の岡山弁(備中弁)です。倉敷の女の子はお祖母ちゃんに向かって「早くしなさぁい(急がないと遅刻するよ)」と声をかけたのでした。命令形「しろ・せよ(岡山弁なら「せー」)」をていねいに言えば「しなさい」ですが、その「しなさい」を岡山弁に直す場合、備前エリアで「せられー」、美作エリアで「しんちゃい」、そして備中エリアで「しねー」というふうに県内各地で異なるのです。岡山の女の子は備前弁の「はよーせられー」を聴き慣れていましたから、突然の備中弁「はよーしねー」に驚愕したのも無理はありません。
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なぜ「しなさい」が「しねー」に変わるのかについては、「しなさい」の「さ」が脱落して「しない」になり、「しない」に含まれる連母音アイがエーになまって「しねー」になったと考えられます。
そうだとすれば岡山弁以外にも同じような言い方をする県があってもおかしくないと推測して探してみますと、福井県に「しね」という方言がありました。福井弁の「あんたもはよしね」は「あなたも早くしなさい」という意味で、「〜しなさい」を「〜しね」と言うのは、福井県から石川県の加賀市あたりにかけて使われる方言だそうです。
「しなさい」を福井弁では「しね」と言い、備中弁では「しねー」というわけですが、これらのほかに「死ね」関係で誤解されやすい方言として、新潟弁の「しねばいいのに」も挙げておきましょう。「県外人が聞くとぎょっとする新潟語」のひとつなのだそうですが、意味は「死ねばいいのに」ではなくて「しなければいいのに」。語源的には、「する・すれ」を「しる・しれ」と言うこともあるくらい新潟人は「し」と「せ」が混乱するそうですから、「しなければ=せねば」が「しねば」に変化したのかもしれません。
「死ね」に聞こえる衝撃的な方言として最後にご紹介したいのが秋田弁です。秋田人と食事をしていると、たまに突然「しね」と言われることがあるそうです。秋田美人と差し向かいでイカの一夜干しなんか食べていると、彼女がいきなりボソっと「しね!」。これはかなり怖い状況ですが、実は「死ね!」ではなく「かみ切りにくい!」という意味なのです。
「固いわけではなく、しなやかな繊維質で、いくらかんでもかみ切れない状態」をたった一語で表現する単語は、実は標準語にはありません。ところが秋田弁には「しね」があり、われら岡山弁には「しわい」があるんですよね。岡山弁の「しわい」は連母音アイをエーになまらせて「しうぇー」と発音しましょう。
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(まいどなニュース/山陽新聞)