【追悼】シーナ&ロケッツ・鮎川誠さん 「ただただかっこいい」と言われる理由

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2023年02月08日 11:30  AERA dot.

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昨年12月4日、シナロケとして最後のステージで演奏する鮎川誠さん(撮影・石澤瑤祠)
 ロックバンド「シーナ&ロケッツ」の鮎川誠さんが1月29日、膵臓がんのため亡くなった。74歳だった。


 カメラマンでギタリストの石澤瑤祠さんは、鮎川さんの妻でシーナ&ロケッツのヴォーカリストのシーナさんが2015年に他界した後からの鮎川さんとシナロケを撮影し続けてきた。


【写真】ザ・ローリング・ストーンズ新作「ブルー&ロンサム」を語り尽くす鮎川誠さん 昨夏には東京・神田の2軒の飲食店で写真展を開催。2カ所での同時開催ということで、展示する写真を「ハードな鮎川さん」と「やさしい鮎川さん」に分けたという。


「ロッカーらしいハードな鮎川さんもかっこいいですが、やさしい表情をみせる鮎川さんもまたいいなぁと思って。いつもかけていたサングラスの奥に見える目をどう撮るかということを常に考えていました」(石澤さん)


 サングラス越しの視線に、自身もギタリストの石澤さんは驚いたという。


「鮎川さんの目はいつもオーディエンスを見ている。ギターを弾いて歌う人って、たいてい目を伏せたり閉じたりするけど、鮎川さんは目を閉じない。そこが好きでしたね」


 6月28日には写真展の開催を記念したトークライブが神田のライブハウス「THE SHOJIMARU」で開催され、鮎川さんも参加。最後にはスペシャルセッションが実現し、「マイ・ウェイ」などスタンダードナンバー3曲を披露した。


 当日のセッションでベースを弾いたのがシーナ&ロケッツの奈良敏博さん、ドラムは会場となったライブハウスのオーナーでもあり、MOJO CLUBやザ・タイマーズのドラマー杉山章二丸さんがつとめた。


「小さなライブハウス、小さなアンプだったからこそ他の誰にも出せない鮎川さんの存在感を感じられた気がします。キャリアを重ね音楽の流行が変わっても、スタイルを変えずに最後までやり通した。日本が誇れるギタリストです」(章二丸さん)


 シーナ&ロケッツは昨年5月から結成45周年を迎える全国ツアーを行っていた。今年1月8日まで全47公演というハードスケジュールの中、病についてほぼ誰にも知らせず病と闘いながらステージに立ち続け、シナロケとしては12月4日のステージが最後となった。


「6月のセッションも万全の体調ではなかったかもしれませんが、みじんもそんな素振りは見せなかった。鮎川さんは最後まで何も変えず、一本でも多くライブをしようと考えていたのでは。その覚悟を思うと、ただただかっこいい」(同)


 このセッション直後、記者は鮎川さんに取材している。楽曲のギターソロ部分をスキップして聴く昨今の風潮について感想を尋ねると、ギタリストとしては不本意なはずなのに「どんなきっかけでもいい、いい音楽にどんどん出会ってほしい」と肯定的に語ってくれた。この日の取材、鮎川さんは当初、断るつもりだったのだと後日聞いた。「伝えておこうと思うことがあったのかもしれません」(石澤さん)


 鮎川さんは取材後、「ありがとね」と笑顔で握手をしてくれた。その大きな手の感触、温かさ、そしてサングラスの奥のやさしい瞳の記憶は永遠に残る。(本誌・太田サトル)

※週刊朝日  2023年2月17日号


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