代理母になるのは「最も弱い立場の女性」 代理出産の法制化議論で「ビジネス化」「母体への影響」などの課題を考える

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2023年02月08日 11:30  AERA dot.

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卵子提供や代理出産など、生殖医療を巡っては、人権や子どもの気持ちにも配慮した、さまざまな視点からの議論が必要だ(photo 関口達朗)
 子どもを持ちたい人たちの選択肢として議論されている代理出産。国内でも法制化の検討が進むが、決して忘れてはいけない視点がある。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。


*  *  * 


――受精卵を第三者の子宮に移植する「代理出産」。国内では認められていない一方、子どもを持ちたい人の選択肢として、海外で実施されるケースは相当数ある。法制化の議論も起きる中、考えるべき課題について、作家の北原みのりさんが、2007年から代理出産について研究する柳原良江さんの視点を聞いた。


北原みのり(以下、北原):今、代理出産を認める法案が浮上しています。厳しい条件を設けて、子宮移植が実用化するまでの容認案とのことです。私自身も、まだよく分からないことがあるので、柳原さんにいろいろと教えていただけたらと思います。


柳原良江(以下、柳原):女性が契約により子を妊娠・出産し、引き渡す行為は長い歴史を持ちますが、近ごろ一般的に議論される「代理出産」は、1976年にアメリカの弁護士が発明した契約妊娠サービスから始まりました。当初は人工授精を利用していましたが、のちに体外受精を用いて、依頼者自身の卵子や、事前に調達したドナー卵子で妊娠してもらう形が普及しました。これらの代理出産は、営利目的かどうかに焦点をあて、依頼者が代理母に報酬を支払う「商業代理出産」と、代理母の善意から無償で実施される「無償代理出産」に分けられます。


■無償でもビジネス化


北原:もし日本でこの法案が通るとしたら、どのような形だと考えられていますか?


柳原:おそらく無償で、なおかつ条件が付けられた代理出産となるのではないでしょうか。ただ、これまでの事例から考えて、無償を掲げていても、ビジネスとして普及することは想像に難くありません。


北原:これまで代理出産の依頼者の話は聞いても、依頼された側の話はあまり語られることがなかったんですよね。柳原さんが監訳した『こわれた絆 代理母は語る』で、代理母側の状況がようやく見えてきました。家族が壊れた人や、出産で命を落としかけた人、そして契約と分かっていても、妊娠中には気持ちも揺らぎ、子どもと離れがたくなる人もいる。多くの問題があることがはっきりしました。


柳原:依頼者が障害のある子どもを引き取らず、連絡を絶つケースもあります。障害のある子を放棄しながら、健常な子どもは欲しいので、また別の代理母に依頼するということも行われます。放棄された子は代理母が育てることもありますが、代理母が貧しく子育ての余裕がない場合など、施設に入れられることも少なくありません。


北原:無償代理出産でも、やはり問題が出てくるとありました。


柳原:ええ。無償代理出産は人間関係が資本になるのですが、しばしば依頼者側が代理母に対して十分なケアをしなかったり、子どもが生まれたあとに代理母の存在を疎ましく思って連絡を絶ったりすることが出てきます。そうすると、代理母は搾取されたと思い、家族や親族間であっても関係性がこわれてしまうことがあります。あと、明らかに女性の立場が低い国では、親族から代理母になるよう強要される例もあります。無償も多くの問題があるのですが、あまり表に出てこない傾向にありますね。


北原:代理出産が日本でも可能になるとしたら、どんなことが起きるでしょうか。


柳原:海外で起きているのは、その社会で最も弱い女性が代理母になるということ。シングルマザーがターゲットになることが多いのですが、日本もそうなるでしょう。エージェントは代理母が実際に妊娠できるかを重要視するので、妊娠の経歴があるシングルマザーをターゲットにした代理母という業態や業種が、代理出産の可能な国には普及している。そのような女性は代理母として働くときに受け取る金額が高めにもなっています。


 あと、どれだけ厳しい条件だとしても、代理出産を認める法律ができれば、他国で代理出産を利用する人が出てくるでしょう。自国の代理出産の基準に合わない人たちが、代理出産の可能な別の国に赴き、海外の代理母を利用するんです。これはイギリスの例を見ても明らかです。


■女性の体への影響


北原:日本の女性がどんどん貧しくなっている中で、卵子を提供したら数十万、代理出産なら数百万稼げるとなったら、当たり前のように選択肢に入ってくると思うんです。でも、ドナー側の声があまり聞こえない中で、何が起きてしまうのか。合法化の道筋がつけられるのはあまりにも拙速ではないでしょうか。もう一つ私が懸念しているのは、リスクが十分に周知されていないこと。出産はもちろん命がけですが、卵子の提供でも、採卵のときに誤れば出血のリスクがありますし、体調不良を訴える人もいます。問題はないという意見ばかりが耳に入ってくるように思います。


柳原:長期的な健康リスクは統計的な研究があまりなされていないので、女性の体にどんな影響が出てくるのか、10年後、20年後に明らかになることもあるでしょう。代理出産に関して研究してきた立場からは、条件がついたとしても、やはり今回の容認案には賛成できません。


北原:まだまだ、情報も議論も足りていないと思います。それにもかかわらず、妊孕性のある身体が投資の対象として、資本主義の中で完全に物として扱われることは、絶対にあってはいけないと思います。


(構成/編集部・大川恵実)

※AERA 2023年2月13日号



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このニュースに関するつぶやき

  • いや、倫理としてどうよ?って話もしないとなぁ。海外でゲイの息子の子供を産んだ母親いなかったっけ?
    • イイネ!28
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