「フェアレディZ」がスピン連発! 技術の日産は氷の上でも健在?

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2023年02月08日 11:41  マイナビニュース

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電気自動車(EV)を含む電動車で業界をリードする「技術の日産」は、氷の上でも力を発揮できるのか。今回は同社の最新モデルを凍結した女神湖(長野県)で試すことができた。最新の電動車である「エクストレイル」や「アリア」では電動4輪駆動制御技術「e-4ORCE」を武器とする日産だが、氷上でコントロールを失ってしまっては話にならない。どうなる、日産!


氷上試乗会では売れに売れている軽EV(軽自動車の電気自動車)「サクラ」をはじめ、「e-POWER」(ハイブリッド車)の「キックス」「ノート」「エクストレイル」やスポーツモデルの「GT-R」「フェアレディZ」、フラッグシップEV「アリア」に乗ることができた。湖面のコースは、さまざまな曲率のコーナーを組み合わせたハンドリング路に定常円や8の字、スラロームなど多彩なラインアップ。特に試してみたかったのは、先進の電動4輪駆動制御技術「e-4ORCE」を強みとするエクストレイルとアリアの2台だ。


最初に乗ったのは「T33型」となった新型エクストレイル。装着タイヤはアイス性能が向上したブリヂストンの最新スタッドレス「ブリザックVRX-3」だ。センターコンソールのダイヤルで選ぶ走行モードは「SNOW」、ワンペダルの「e-Pedal」はON、VDC(ビークルダイナミクスコントロール=横滑り防止装置)もONのまま、まずは外周路を走ってみる。


スタート時にタイヤは一瞬だけスリップしたが、すぐにグリップを取り戻した。歩くのも怖いようなツルツルの氷の上を、何事もなかったようにグングンと加速していく。車体の姿勢も一直線に並行移動していくというイメージだ。


コーナー手前でアクセルを緩めると、姿勢を一定に保ったまま車速を落としてくれる。エイペックス(コーナーの頂点)に向けてステアリングをゆっくり切ると、ここでも狙ったラインでスムーズに曲がってくれた。この感覚はS字でも定常円でも同じ。さすがはe-4ORCE搭載モデル、安心感が抜群だ。



ちなみにe-4ORCEとは、「クルマの挙動を乱すのはスリップしたタイヤが原因である」との分析から、そのグリップ力をいかに上手に使い切るかに焦点を当てた制御システムのこと。具体的には4つのタイヤのグリップ限界を算出し、電動4WDモデルが搭載する前後モーターをVMC(ビークルモーションコントロール=車両運動制御装置)で、左右のブレーキをVDCでコントロールするという仕組みだ。



この考え方は先代の「T32」モデルにも搭載していたのだが、その「インテリジェント4×4」システムではブレーキ制御のECUとパワートレイン(エンジン)の制御を行うECUが並列に搭載されていて、それぞれが演算して4WDのカップリング制御やVDCのブレーキ制御などを行なっていた。これに対し、T33ではひとつの強力なECUが両方を統合した形で目標車両挙動を決定し、1万分の1秒単位で演算することで、さらに早く正確な制御を自動で行えるようになっているのだ。


制御の規模をT32と比べると、ノートやキックスなどのe-POWERモデルでは機能数が3倍に増えている。統合制御を入れたT33のe-4ORCEではより密接なやりとりを行うようになるため、ボリューム感でいうとさらに1.5倍となるそうだ。つまり、非常にたくさんの項目を統合制御しているのが今回のエクストレイルであり、アリアなのである。



一方でVDCをOFFにしてみると、スタート時のスリップ量こそ増えたものの、オーバースピードでない限りは十分にコントロールができた。これはエクストレイルの基本的なシャシーバランスがいいのと、4WDである点が効を奏しているのだろう。

次に乗ったアリアも同じe-4ORCE搭載モデルなので、基本的にはオートマチックにグリップを保ちながら走ってくれる。ただし、エクストレイルが1,880kgの車重だったのに対して、大量のバッテリーを搭載するBEV(バッテリーEV)のアリアは330kg増の2,210kg。その重さゆえ、VDCが作動していることを意味する警告灯の点灯回数は増え、コーナーではわずかながら左右方向にロールするような動きが感じられた。オンロードでは感じることのなかった重さというデメリットが、氷の上ではやや顕著に感じられたのは、ちょっと面白い経験だった。


では、軽EVのサクラはどうかというと、ボディが小さく車重も1,080kgと軽いので、無理に車速を上げないでいればこちらもしっかりとラインをトレースしながら走ってくれる。ただしタイヤは165サイズと細くFWD駆動なので、VDCをOFFにするとコーナーでは盛大なアンダーステアが発生してしまった。


では、スポーツモデルはどうか。570PSを発生する「VR38DETT」エンジン搭載の現行GT-R(Tスペック プレミアムエディション)がどんな動きを示すのか興味津々だったのだが、結果は意外とコントローラブル。当然、オンロードでのような超高速走行ができるわけではないけれども、機械式四輪駆動システムの作動感がステアリングやアクセルペダルを通じてドライバーにダイレクトに伝わってきて、豪快な排気音を楽しみながら周回を続けることができた。


最も手強かったのはRWDの新型フェアレディZだ。セイランブルーのATモデルはまだしも、イカズチイエローのMTモデルは少し強めにアクセルを踏み込みすぎただけでリアが滑り始め、慌ててステアリングを当ててやっても時すでに遅し。クルリ、クルリと何度もスピンモードに陥ってしまった。


意外にも(?)、氷の上での走りを最も楽しめたのは、エクストレイルより400kgも軽い「キックス クロスオーバー FOUR」と、同500kgも軽い「ノート」のオーテックバージョンだった。



どちらもe-POWERの4WDモデルで、VDCをONにすると軽快な走りを見せてくれただけでなく、OFFにした時の定常旋回ではステアリングとアクセルワークで4輪パワードリフト状態に簡単に持ち込むことができ、鼻先をセンターコーンに向けたまま、ズーッと横向きのままグルグルと回り続けることができた。軽い車重と適度な前後出力というバランスの取れた電動モデルは、こうしたシチュエーションに最も適していることを証明してくれた。


試乗後に話を聞いたパワートレイン・EV技術開発本部の平工良三エキスパートリーダーによると、「e-4ORCEのような車両コントロール技術はかなり前から研究を続けていましたが、『それが販売力につながるの?』という意見が多くて、なかなか日の目を見ることができず、商品化の“壁”になっていました」とのこと。今では電動モデルが増えたことで、環境面だけでなく安全面でも優れた技術が評価されてどんどん投入されている。「技術の日産」をしっかり感じることができた1日だった。



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)
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