※写真はイメージです(写真/Getty Images)目の前のものが大きくなったり小さくなったりする、ゆがんで見える、宙に浮かんでいる……。突然子どもが摩訶(まか)不思議なことを言い出したら、ある病気のサインかもしれない。視覚に異常がないにもかかわらず、奇妙な幻覚に襲われる「不思議の国のアリス症候群」について医師に取材した。
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主人公であるアリスが、体が大きくなったり小さくなったりする世界で奇想天外な冒険を繰り広げる有名な物語『不思議の国のアリス』。アリスの奇妙な体験は、童話の中だけではなく現実にも起こり得ることをご存じだろうか。
作者のルイス・キャロルは片頭痛もちで、自身の体験に基づき物語をかいたと言われる。このことから、自分の体やものの大小が現実と異なって見えたり、色覚や時間感覚に異常をきたしたり、空中を浮遊しているような感覚に襲われたりといった症状が表れる病気を「不思議の国のアリス症候群」と呼ぶ。
上本町わたなべクリニック(大阪市)院長の渡邊章範医師によると、不思議の国のアリス症候群は年代により「小児型」と「成人型」に分けられ、大半は幼少期に一過性の症状として表れる「小児型」だ。症例が少なく明確な原因は明らかになっていないが、エプスタイン・バー(EB)ウイルス感染によるものとする説が有力だという。
「EBウイルスは世界中で95%以上の人が一度は感染を経験するウイルスです。通常は幼少期に感染しますが、風邪のような軽い症状しか出ないため、多くの人は感染に気付きません。しかしEBウイルスが長期間体内に残って脳の視覚をつかさどる神経に感染したり、炎症を起こしたりした場合、一部の人に幻覚症状が表れると考えられます」(渡邊医師)
一方、「成人型」は片頭痛を合併していることが多く、精神症状のひとつとして表れることもある。小児型・成人型のいずれにせよ、一般的に治療は心療的、内科的の両面からのアプローチが必要なようだ。治療法が確立されていないためいわゆる対症療法だが、症状に応じた薬などを服用すれば短期間で治るケースも多いとのこと。
■「不思議の国のアリス症候群」は何科に行けばいい?
残念ながら不思議の国のアリス症候群は医療従事者の間でも認知度が低く、専門的に診ている病院はほとんどない。そのためまずはかかりつけの病院に行ったほうがよいと渡邊医師は言う。
「子どもの場合は物事を客観視する能力が乏しく、言葉もつたないからうまく説明できない。だから、いかに『普段と違う』ことに親が気付くかが大事です。疑われる場合、かかりつけの小児科医に、子ども自身から直接話を聞いてもらうのがよいでしょう。キーワードとしてはやはり『大きく見える』『小さく見える』といった言葉が出てきたら不思議の国のアリス症候群の可能性があります」
一概には言えないが、渡邊医師によると「そこにある」ものが現実とは異なる見え方をするのが不思議の国のアリス症候群の特徴、「ない」ものが「ある」ように見えるのが精神疾患の特徴だという。後者の一例を挙げると、誰もいないのに「部屋の中に大きな人がいる」ように見える現象だ。
忙しい日々を送る親からすれば、「子どもが空想を話しているのだろう」とつい聞き流してしまいがちだ。しかし、原因がEBウイルスなのだとすれば、その影響は侮れない。
EBウイルスは日常生活が著しく損なわれる強い倦怠感や疲労感が長期間続く「慢性疲労症候群」、大脳の神経細胞が過剰興奮することで発作が起こる「てんかん」などの原因とも言われ、一度感染すると脳や肝臓へのダメージが長期にわたり残る可能性もあるのだ。
最初は軽い症状しか出ないため見過ごされがちだが、「たかが風邪」とばかにしないことが大事なようだ。
(文/酒井理恵)